デジタル教育事情
デンマークは世界で最もデジタル化が進んでいるといわれています。今回はその裏側にある、とくに若年層のメンタルヘルスへの影響とその対策について、コペンハーゲン市の活動を主にレポートします。
デジタル化の背景と実績
国連から2022年に出された、各国のデジタル化の度合いを比較したレポートでは、デンマークはフィンランドに次ぐ1番目の席。日本はちなみに14番目。そしてデンマーク政府の2022年によるデジタル化推進政策提言書によると、ソーシャルメディアの使用からデジタルディバイスまでを批判的、かつ有効な活用が出来るように、小中学校からの教育に重きをおくことが明記されています。
ちなみに著者はコロナ時期に子供を東京近郊の公立小学校に通わせておりましたが、緊急事態制限で学校が休校になった時期、先生が自転車で生徒の家に配布した宿題が届くという、非常にアナログな対応に驚いた記憶があります。コペンハーゲン市に帰国した際はこちらはロックダウン中でしたが、コペンハーゲン市の小学校授業は公立、私立共にすべてオンライン授業がすっかり普及、定着しており、違いに驚いた記憶があります。娘のコペンハーゲンの小学校も1年生の時から、スマートボードで、黒板もありません。私個人の意見としては、アナログ、デジタル、両方良い面があると思うのですが、徹底してどちらかを選択、採用、普及させている国の状況の違いがあると思います。
国連報告書:Chapter 1.pdf (un.org)
国連報告書の発表に伴うデンマーク語の記事:FN kårer endnu engang den danske digitale offentlige sektor som verdens bedste (digst.dk)
デンマークデジタル化推進政策提言書:Danmarks digitaliseringsstrategi - sammen om den digitale udvikling (regeringen.dk)
デジタル化の精神面への影響について
そんな若年層のデジタル化への普及を奨励する近年のデンマークですが、同時に警告がなされているのが、特に女子生徒のメンタルヘルスの悪化です。4年ごとに発表されている全国小中学校の生徒の健康調査における最近の結果(2022年)では中学校の3年生の女子のストレス、孤独感、身体への何んらかの痛みの頻度は毎回調査ごとに、増加傾向にあることが報告されています。
同時に女子とSNSの利用に関する調査では、SNSを一人で利用している時間が長い女子ほど、不安恐怖症の傾向がみられるといった相関関係が指摘されています。しかし、相関関係が証明されただけで、どちらが原因で、どちらが理由がわからないという報告もあります。また、デジタル化が進むなかで、オンラインで作る仲間によるメンタルヘルスの向上の報告もなされており、デジタル化が一概に悪い、良いという議論はできないことが定説になりつつあります。
記事 デンマーク国家健康保険局 メンタルヘルス:Tal og fakta om mental sundhed - Sundhedsstyrelsen
報告書 小中学生の生活とデジタルメディア 学校と家庭において:BV-Digital-Dannelse-Del-3.pdf (bornsvilkar.dk)
研究 ソーシャルメンタルヘルスの利用とメンタルヘルスへの関連: Social Media Use and Its Connection to Mental Health: A Systematic Review - PMC (nih.gov)
小中学生の頃から支援していくこと
デンマークでは、デジタル化の普及した日常社会に対応して、オンラインでのいじめ、テキスト、写真、動画を含めたSNS投稿のマナー、人工知能やネット上での情報との向き合い方などの知識を習得したり、考えたり話し合ったりする教育の必要性が問われいます。日本では情報モラル教育と呼ばれているようですが、デンマークではこれを、デジタル教養として、各自治体が教育現場を中心に普及させるよう奨励し、その為の活動も充実しています。
具体的な支援として、どういったものがあるのかの例を挙げてみます。
① 学校、教職員に対しての支援
教育省のホームページには教職員に向けて、モデル教材、教育方針、問題対処などのカリュキュラムが紹介されています。また、専門家団体、デジタル教養センター(center for digital dannelse)では有料ですが、小中学生に対しての一環した教育教材、教職員へのワークショップ、小中学生に向けたワークショップなどを提供しています。
教育省のホームページ:
Digital dannelse | emu danmarks læringsportal
Vær digital_Beredskabsplan for elevernes digitale trivsel.pdf (emu.dk)
デジタル教養センターのホームページ:Om Center for Digital Dannelse | Center for Digital Dannelse
② 保護者に対しての支援
コペンハーゲン市では、2021年に保護者に向けた子供のデジタル教養に関する啓発キャンペーンと、それにともなう、保護者向けのホームページをつくりました。
子供ともっと会話をしようという内容で、上記の専門家団体の助けを借り、主に小学校低学年の親にむけて、コンピューターゲーム上での留意点、オンラインでのマナー、子供と会話を始めるためのコツなど、専門家のセッションの録画ビデオなどのコンテンツを取り入れた内容となっています。
コペンハーゲン市のホームページ:Snak med (kk.dk)
③ 小中学生への相談支援
Børnes vilkårや、Red barnet(日本ではセーブザチルドレン)といった、子供の権利の保護や児童支援を行っている代表的な民間、非営利団体では、小中学生のデジタル化に特化した相談支援活動を行っています。例えば、不本意な画像の流失にあった時に、電話による支援ホットラインにて、どのように対応すればよいかの実質的なサポート、精神的ダメージのサポート、また画像流失に関係なく、デジタル化により、個人に何らかのアクシデントが起こった時の児童、生徒からの直接の相談も受け付けています。
Børnes vilkårのホームページ:Genvejs temaer om børns digitale liv | Genvej
Red barnetのホームページ:Forside - SletDet Rådgivningen (redbarnet.dk)
山ほどある支援活動。包括的なサービス
振り返ってもわかるように、例を挙げてみても、デンマークには支援活動は沢山あります。私の職場であるコペンハーゲン市では、その支援がどれだけ対象者に包括的になされているかというところが、最近の問題となっています。
関心の高い親や教員に囲まれていなくても、自然とデジタル教養が進む社会が作れるがどうかが課題となっています。
写真出典
Fotos: iStock og Colourbox
Danmarks digitaliseringsstrategi - sammen om den digitale udvikling (regeringen.dk) の表紙から