やっぱりフランス女優はすごかった。「ガラスの動物園」
2022/9/29 新国立劇場 「ガラスの動物園」観劇
新宿から一駅、初台の新国立劇場。こちらを訪れるのは数年ぶり。
コロナ明けムードもあって、建物の入口付近には外国人学生の集団がいます。なんだかみんな楽しそう。今回の観劇が楽しいのか、それとも外に出られることが楽しいのか。
今日のお芝居「ガラスの動物園」はフランス国立オデオン劇場から招いた海外招聘公演。すぐれた海外演目を演出家・出演者・舞台装置などをまるっと招き、日本の関係者や観客に「海外の名作」を見てもらう企画です。
本公演は2020年3月に予定されていましたが、コロナでここまで延期となりました。やっと実現に到り、関係者の感動もひとしおだったことでしょう。
出演者は「4人」はすべてフランス人。彼らが演じる舞台の上部に英語と日本語の字幕付き。世界中で上演可能というわけです。「アドリブ言えなくてつらいな」と余計な心配しましたが、吉本新喜劇じゃないので大丈夫なのでしょう。
さて今回、名門フランス劇場の選んだ演目は「アメリカ人」作家テネシー・ウィリアムズの作品。舞台はセントルイスの裏町アパート。「なぜフランスの名門がアメリカ作品を選んだか」--ここが大きなポイントですね。
なぜフランス人がアメリカ作品を選んだか
冒頭、出演者の一人が客席に登場してマジックを披露します。最前列のお客さんに手伝わせるのですが、これなどきわめて「アメリカ的」な演出ではありませんか。「やるな、フランス人」と思わずニヤリ。
さて内容ですが、結論からいえば「かなり暗い」お話なんです。物語の舞台は1930年代。ということは大恐慌直後で不況まっただ中。主役のお母さんは「昔はよかった」と愚痴ばかり言っています。
その不況は海外にも波及して世界的に人々の暮らしが苦しくなり、いくつかの国ではファシズムが台頭、そこから第2次世界大戦が引き起こされるわけです。つまりこの劇の背景は「不況から戦争に到る重苦しい時代」。
おそらくフランス関係者がこの脚本を取り上げ、日本人がこれを招聘したのは、演劇関係者の間に「いまこそこの劇をやるべき」という認識があったのでしょう。なぜなら、不況から戦争に到った1930年代の悲劇が、再び繰り返されようとしているからです。この不幸な物語ををいま上演する意味は大きいと思います。少なくとも私にはこのセリフと共に「平和」の意味がずしっときました。
「ガラスって壊れやすいの。どんなに気を付けていても」
終演後のシアタートーク
さてスタンディングオベーションまで起こった終演後(声を出さないのでスタンディングオベーションの大拍手はOK)、「シアタートーク」という出演者が登場して語る30分のミニイベントがありました。司会の中井美穂さんが通訳を交えて4人に質問していきます。
出演者のトークを聞いて印象的だったのは演出家(ディレクター)の存在感です。何でも今回の演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェは世界で最も注目されている方だそうで。
出演者はイヴォについて「短く適切な指示でやりやすい」「自由の余地を与えてくれる」と絶賛していました。
これはビジネス界にも通じますね。
・指示は短く適切に行う
・自由の余地を大きく
イヤな上司って、だいたい反対ですよね(指示が曖昧&細かくてうるさい)。
舞台の完成度を高め上で、演出家の役割は大きいんだな、と当たり前のことに感心したわけですが。その本筋とは別に、私は主演女優・お母さん役の「イザベル・ユベール」の存在感に感心していました。お芝居を終え、私服で座っているだけなのに存在感がすごいんです。誰にも媚びず、凜としているというか・・・。他の俳優さんが小さく見えました。あまり日本でも見かけないタイプ。きっとこの方、映画などでも活躍されているのではないだろうか。だったら観てみたいな。
そんな本編とアフタートークのちがいを確認できるのも生ステージならでは。「やっぱり生っていいよなあ」と心の中でつぶやきながら帰路につきました。
「ガラスの動物園」新国立劇場 2022年9月28日~10月2日上演
作:テネシー・ウィリアムズ
演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
出演:イザベル・ユベール他
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