オークション理論とプラットフォーム競争について
先日、非常に興味深い記事をNewsPicksで見つけました。
ビジネスを支える経済学、というテーマだったのですが、その中で出てきた「オークション理論」の話が気になって軽く調べてみたところ、先学期Competitive Strategyで学んだプラットフォームビジネスについての議論が漸く自分の中で整理できました。
オークションの類型と、決着の仕方
3パターンのオークションを考えてみます。
オークション参加者はA、Bの2名。Aはオークション対象のXに1万円だったら出してもいいと思っており、Bは2万円まで出してもいいと考えている。オークションは公開制で、互いが1円単位で入札していく。最終的にどちらか一方が諦めたときに落札者が決定する。
このオークションの場合、お互いに相手がどれくらいの金額までだったら出せるのかは分かりませんので、1円単位でじりじり入札額が刻まれていき、最終的にBが1万1円入札したタイミングで、Aが諦めてBが落札、という流れになります。「オークション」と聞いて一般的に想像するのはこの形だと思います。
では、次の類型はどうでしょう。
オークション参加者はA、Bの2名。Aはオークション対象のXに1万円だったら出してもいいと思っており、Bは2万円まで出してもいいと考えている。オークションは非公開制で、互いが入札金額を予め提出している。より高い入札額を提示したほうが落札。落札金額は、2番目に高い入札金額(この場合、落札できなかった方の入札金額)となる。
これが所謂「第二価格オークション」という方式で、この方法を取ることで、A、Bが互いに自分の出せる金額をそのまま入札金額に設定するのが最適となります。落札金額は自分の入札金額に関わらず相手の入札金額(この場合、Aの1万円)になるので、わざわざBは2万円以下の金額を提出する必要性がなくなるのです。ここで非常に面白いのが、公開制のオークションにおけるBの落札金額(1万1円)と、非公開制の第二価格オークションにおけるBの落札金額(1万円)が近似するということです。落札金額は近似しているのに、非公開制の第二価格オークションでは余計な心理戦がなくなり、また変に価格が吊り上がるリスクもありません。
終わりのないオークションと、プラットフォーム競争
ここまでは、オークション理論の話なのですが、ここから、Competitive Strategyで学んだプラットフォーム競争の議論が関係してきます。こんなオークションの類型があった場合、どう決着するでしょうか。
オークション参加者はA、Bの2名。Aはオークション対象のXに1万円だったら出してもいいと思っており、Bは2万円まで出してもいいと考えている。オークションは公開制で、互いが1円単位で入札していく。最終的にどちらか一方が諦めたときに落札者が決定する。落札者はその時点での入札金額を支払いXを獲得できるが、落札できなかった方も、その時点での自分の入札金額を支払わなくてはいけない(当然、Xは入手できない)。
この場合、オークションはどうなるでしょうか。Aが1万円を入札し、Bが1万1円を入札した時点を考えてみます。Aの選択肢は2択です。
・この時点で諦める。Aは1万円を支払う。
・Aは1万2円を入札する。
AにとってXの価値は1万円ですから、1万2円で落札した場合、2円損をしています。一方で、諦めた場合は1万円の損です。1万円の損より2円の損のほうが痛手は少ないので、Aは入札を続けてしまいます。
…という具合に、このオークションは理論上何処まで行っても終わりません。
そして、Competitive Strategyの教授曰く、この状況(ゲーム理論でThe War of Attritionと呼ばれます)が、プラットフォーム同士の競争に非常によく似ているとのことです。最終的な勝者がマーケットを総取りする「Winner-take-all」を目指し、各プラットフォームが多大なコストをかけ、顧客獲得、サービス向上に取り組みます。勝敗が決したとき、敗者は市場を去るのみですが、当然それまでに費やした時間とコストは戻ってきません。まさに、終わりのないオークションです。
気づきとまとめ
この議論の示唆として、自分の中では以下2点に整理しています。
・The War of Attritionの状況は、勝敗が最終的に決したとしても、全てのプレイヤーが多大なコストを支払うことになり非常に危険であることに加え、争っている間にプラットフォーム全体が陳腐化するリスクがある。
・確実に勝てると確信がある時(革新的なテクノロジーを保有している等)以外は、サービスの共存、合併、Exitを目指しに行く。
非常にマニアックな話になってしまいましたが、こういうアカデミックな議論は大好きなので、これからも面白いネタがあれば自分自身の整理のために記事にしてみようと思っています。