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1.偶然の再会【カイケイシタイヨウ 第1章起業編】

登場人物:

僕(大谷):起業を考える会社員。

タイヨウ:大谷の高校時代の先輩。公認会計士・税理士の資格を持つ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「混んでるなぁ。」


思わずボソッとつぶやいてしまった。


休日のお台場は雨でも人で溢れている。


大半がカップルや家族連れで

笑顔に溢れているからだろう。


平日の新橋のような

ピリッとした緊張感ある雰囲気ではない。

そんなお台場にスーツ姿で現れた僕は、

違和感を感じる。



今日はお台場のホテルで開かれる

異業種交流会に参加する。


そこは経営者や個人事業主、士業、

保険セールスの方などが来る場所で、

どこかギラギラしている印象がある。


僕のようなヒラの会社員には

あまり縁のない場所だろう。


それでも参加しようと思ったのは、

ある思いがあったからだ。


会場に着くと、

30〜40名くらいの人がすでに集まっていた。


まわりの人はみんな知り合い同士のようで、

僕は1人ポツンとしている。



「はぁ、早速帰りたいなぁ」


なんてテンションが下がっていた時のことだった。


「あの、すいません、大谷じゃない?」


僕は突然聞き覚えのある声が聞こえた。


振り返ってみると、

そこには観たことのある顔があった。



「・・・、あ、え?タイヨウさん!?」



「おーー、覚えてくれていたか。

そうだよ!まさかこんなところで会うとは。

びっくりしたよ、

別人だったらどうしようかと思って、

ちょっとどきどきした。

久しぶりだね。」



そこには、10年ぶりに会った、

高校時代のサッカー部の先輩が

笑顔で立っていた。


10年前と変わらずすらっとした

さわやかイケメン。


加えて少し年齢を重ねたからか、

重厚感、安定感を感じる。


そのくったくない笑顔が

人の良さを引き立てているのは

昔と変わらないな、なんて思った。



「もちろん覚えていますよ!

まさか、こんなところでお会いできるなんて、

僕の方こそびっくりしました。

タイヨウさん、お元気そうで何よりです!」


「大谷も元気そうだね。

卒業以来だから、もう10年近く経つか。

なつかしぃなぁ。」


ニコニコとそう言うと、

昔を回想しながら、

思い出話をひとしきりした。



「ところで大谷は、

こういうところよく来るの?

何かビジネスでもやっているとか?」


「え?あ、いや、

今はWEB制作の会社でサラリーマンをしています。

ただ、近々仕事を辞めて、

フリーランスになろうかと考えていまして。

ずっと狭い世界で生きてきたから、

社会勉強と思って、

知り合いのSNSで紹介されていた

この交流会に参加してみたのです。

が、実は、こういう場は初めてで緊張して、

もうすでに帰りたいって思ってたところ

なんです・・・。」


「ははは、そうかはじめてなんだね。

そりゃさぞかし勇気を出してきたことだろうね。

ところでその知り合いはどの人?」


「それがですね。

実はさっき電話があって、

急遽仕事の予定が入ってしまい、

ドタキャンになってしまったみたいでして。

ほかに誰も知り合いがいなくて

ひとりぼっちだったんです。

正直タイヨウさんの姿をみたとき、

五光がさしたように見えましたよ!」


「ははは、相変わらずおおげさだな。

そっか、

それにしても1人じゃ心細かっただろう

からよかったね。

もしよければ、

俺の知り合いが何人かいるから紹介するよ。」


「あ、はい、お願いします!」



うん、

というと、

タイヨウはスタスタと歩き始めて、

近くの知り合いらしい人に声をかけ始めた。

タイヨウの素早い動きに一瞬気後れしたが、

すぐにその姿を追いかけていった。


「〇〇さん、ちょっといい?

今日びっくりしたことがあってさ、

なんと俺の高校時代の後輩に偶然再会してね、

よかったら紹介させて・・・」


こんな調子で和気あいあいとした時間が

あっという間に過ぎていった。


おかげで十数枚の名刺を交換することができた。



ベンチャー企業の経営者、弁護士、税理士、

社労士、保険営業マン、

物販ビジネスをしている個人事業主、

料理研究家、コーチなど、

今まで会ったことがない分野の人たちばかり。



一人一人とは数分しか話せなかったけど、

新鮮さとワクワクや緊張でテンションが

上がりまくっている自分がいた。



会社の名刺ではなくて、

もっと早く個人の名刺を作ってくればよかった、

なんて思ったりしたけど、

これもはじめて体験だから仕方ない。



「だいたい俺の知り合いは紹介できたかな。

どうだった?」


「はい、ありがとうございました!

ほんとに楽しい時間で、来てよかったです。

今まで知り合ったことがないような方ばかりで、

知らない世界を知ることができました。

ほんとタイヨウさんのおかげです。」



「ははは、そうかそうか、それはよかった。」



タイヨウはどこか満足そうにニコニコしながら、

泡の消えたビールグラスをくぃっと空けた。


「タイヨウさんはたくさん知り合いが

いるんですね、びっくりしました!

ところでタイヨウさん、

今は何をされているんですか?」



僕がそう言うと、

タイヨウはハッとした表情のあとで

顔を崩して笑いながら、



「おお、そうだった、

全然話してなかったね。

俺は今、公認会計士、税理士として

独立しているんだ。」



「公認会計士!

すげぇ。。。

税理士まで持っているんですか、

すげーなぁ」


「うん、公認会計士になるとね、

税理士は登録手続きをすればなれるんだよ。

今は資格を生かしながら、

いろんな経営者の成長を支える仕事をしているよ。」



なんだか、

タイヨウが遠い雲上の世界の人に見えてきた。

公認会計士、

なんかすごい難しい資格だということだけは

知っている。

やっぱすげーなー、この人。

そんな感じで昔のタイヨウの姿を

思い出していたら、

タイヨウから直球の質問が投げられてきた。



「ところで大谷はフリーランスになって何をするの?」

「え!

あ、えーとですね、

実はまだ明確にこれって決まったわけでは

ないんですけど、

今のスキルを活かして仕事したいなと考えてまして。

入社して5年がむしゃらにやってきて、

結構スキルも身についたので、

独立してやってみようと思ったんです。」


「ふーん、なるほど、そうだったんだね。

それじゃあ、

もういろいろ独立に向けた準備はしているの?」


「えっ。準備??

あ、

いや、

その、実はそれが、まだ全然でして。

お恥ずかしながら

何をしたら独立と言えるのかみたいな

ところからわかっていないんです・・・」



僕は恥ずかしくなって、

下を向きながらボソボソ話していると、

タイヨウが明るくこう言った。



「ははは、そうか。

最初からなんでもわかっている人なんていないよ。

これから知っていけばいいだけの話だよ。

よかったら今度、

お茶でもしながら独立の話でも一緒にしようよ。」



「え!いいんですか??

ぜひお願いします!」


「おっけー、また今度連絡するよ。

来週のこの日どう?連絡先教えて〜」


あっという間に再会の日程が決まり、

その日はタイヨウと別れた。

この再会が

自分の人生を大きく変えていく起点

となったことには、

その時はまだ気付いていなかった。

(つづく)


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