パチンコホール経営者が知っておくべき風営法違反リスクの真実と対策
ホール業界は衰退の一途を辿っている。だから、未来への投資はムダ。人材育成もムダ。風営法リスクもどうでもいい?
たしかに今、業界は厳しい状況ですが、まだまだやれることが残されていませんか。ホール業界に特有の利点を活用できていないのではないですか。
私がホール業界の方々におすすめしたい方法は、単純な法令順守ではなく、人材育成や離職防止にもつながる総合的な施策です。
実行すれば必ずメリットがありますし、複雑なことでもありません。
その前提として、ホール経営が抱える法的リスクの実態と、それへの対策の考え方について、経営者の皆様に正しくご理解いただきたくてこの記事を書きました。
私は業界誌、講演等で情報発信の機会をいただいて来ましたが、「世の中への体裁」が気になって、率直に表現できないことがいくつかありました。
ですが、こういった「言いにくい話」をこっそり一人ずつお伝え出来る機会も限られていますので、私の頭脳が朽ち果てる前に、ある程度の整理をしておこうと思いました。
「note」では部分的な非公開設定ができるので、そのあたりの仕組みを利用させていただいて、本音で思っていることをここで掲載しておこうと思います。
パチンコ店のことを「ホール」と呼ぶ慣習があるので、ここではパチンコ業界のことを「ホール業界」と呼ぶことがあります。
ホール経営者は重大な誤解をしている!?
ホール経営にとって最大のリスクは何ですか?
と言われたら、多くの業界人は「営業許可の取り消し」や「営業停止処分」と答えます。まさにそのとおりです。
では、そのリスクを回避するためにどのような対策をしていますか?
法令違反をさせないようにチェックしています。
風営法の理解促進のために研修を行っています。
違反行為をした者を処罰します。
だいたいこんなところでしょうか。
しかし私の考えでは、これら3つの方法はホール経営企業にとって無駄なばかりか、非常に危険なことなのです。
生ぬるい風営法研修
私はホール企業向けに風営法の研修を行ってきました。
どんな内容にしましょうか?と尋ねると、営業停止処分が起きやすい違反行為について事例で解説してください。とよく言われました。
そこで私が「最大の違反リスクに対して対応方針は定まっていますか?」と質問すると、
「?・・・」
という顔をされます。つまり、何もしていないというか意味がわからない。
経営の命取りになりかねない違反リスクに対して、対応方針を決めていない状態で風営法研修を行うことは危険ですから、そういう場合の私は
「最大の違反リスクには触れないでおきますね。」
と説明するのですが、そうなると
「それは困ります。一番重要なリスクについて解説してください。」
などと言われます。
これは私が思うに「自殺行為」なのですが、その理由はあとで詳しく説明します。
ともかく、こういう話をきちんと理解したうえで研修計画を検討してくれるホール企業はごく一部です。
多くの場合は、「こないだ指示処分を受けたから」とか、「上からやれと言われたから」とか、「コンプライアンスが大事だから」といった生ぬるい理由で研修をしたくなるのです。
要するに、ホール企業の生命線となる風営法リスクを真剣に考えていないということです。なぜそうなるかと言えば、経営トップの認識が不充分だからだと思うのです。
経営の根幹にかかわる問題ですから、トップの方に正しくご理解いただきたいのです。
ホール経営にとっての致命的な法令違反とは
致命的な法令違反は、結論から言うと、「釘曲げ」「自家買い」。とりわけ「釘曲げ」です。
これらは行政処分の量定において「A」又は「B」に該当し、刑事罰対象ともなります。
発覚すると一発営業停止、又は営業許可の取り消しもありえるうえ、本格的な摘発となれば、逮捕・捜索⇒書類送検という流れになります。
この結果として実行犯、ほう助者、関係した法人役員、法人そのものが身分欠格事由に該当する恐れがあります。
もし身分欠格事由に該当すると、法人であれば全店舗の営業許可取消し、個人であれば刑の確定後5年間に渡り風俗営業に関われなくなります。
つまり、パチンコ店営業が全店舗において継続できなくなる可能性があります。営業ができなくなる。これが「致命的」の理由です。
合法営業ができれば?
致命的なリスクにつながる危険な法令違反があります。
ならば、そういう違反行為をしなければよいのですが、現実にはどうでしょう。
「正しい風営法を教える研修をしてほしい」
と考える経営者がいます。
正しい法律知識があれば法令違反を防げるという幻想は、今や社会全般に根差してはいますが、現場の隅々を見ている人であれば、そういうことが現実世界では不可能であることを知っています。
ましてや風営法の規制を受ける業種というのはブラックとグレーのゾーンで生きてゆくのが宿命の世界です。
そういう世界で先輩方が悪戦苦闘してくれたおかげで「今」の繁栄があるのに、そういった過去と現実を無視して「完全合法化」を本気で目指そうとする人もいます。
そういった心情はわからなくもないのですが、世の中の現実から目を背けている状態で理想の未来を目指しても、ほとんどうまくゆかないでしょう。
少なくとも現状では、ホール業界は法的な課題と向き合ってゆくしかないのです。
広告規制の指示処分ばかり気にするのは危険
広告宣伝規制違反で指示処分を受けるホールがよくありました。
だからと言って、広告宣伝規制ばかり気にするのはいかがなものでしょう。
広告での処分はせいぜい指示処分です。つまり、リスクはたかが知れています。
それなのに、指示処分ごときで店長を降格させたり、指示処分を回避するために弁護士を使って警察に対抗する経営者がいます。
これは極めてアンバランスで危険な行為です。
本当に危険なのは別の違反であり、本当にやるべきことは降格人事でも、部下を𠮟りつけることでもありません。
「指示処分がでたら俺が警察に頭を下げればいいんだからから気にするなよ。」
と言う社長さんは、昔はけっこういました。
パチンコ店の経営者は、率先して警察に潔さを見せるタイプがよいと思います。
いざというときにコソコソ隠れて警察対応を部下に任せるのは、いろいろな面でよろしくないと思います。
ホールの摘発の発生頻度は?
全国のホールでの摘発件数について公表された数値はありません。
そもそも、摘発されたホールは即座に店舗営業を廃止することが多いのですが、そうなると行政処分に至らないので、その場合は行政処分件数としては把握できません。
書類送検された件数も警察庁は公表していません。
しかし、ホールにとって重大なリスクに至るケースというのは、本格的な摘発にいたるケースです。風営法にもとづいた立ち入りではなく、刑事訴訟法にもとづく捜索が開始された場合です。
捜索開始後には、書類送検され刑事罰を受ける、送検されても不起訴になる、送検されずに行政処分だけ受ける、なんの処分も受けない、の4パターンがありえますが、これらすべてのパターンはホール経営にとって重大事態です。
これら、ホール企業が避けるべき重大事態の発生確率は、私がここ5年間の状況から推算したところでは、少なく見積もって、おおむね以下のとおりです。
100店舗のホール企業→5年に1件発生
50店舗のホール企業→10年に1件発生
25店舗のホール企業→20年に1件発生
10店舗のホール企業⇒50年に1件発生
さて、この発生確率はホール経営にとってどれほど深刻でしょうか。
日本では、交通事故で死亡する確率は10万分の4だそうですが、皆さん保険でカバーされていますね。
パチンコ店1店舗が摘発に遭遇する確率は10年間営業した場合に10万分の2000、つまり500倍と想定しています。
ホールの摘発が起きやすい地域
ホールが風営法違反で摘発された事件がニュース記事に出ることがあります。業界誌はいつも注目していて、以下のページのようにわかりやすくまとめられた記事もあります。私も登場する記事ですが。
ご覧の通り、宮城県、新潟県、京都府、東京都、香川県が出ていますが、私の認識では、さらに青森県、群馬県、埼玉県、茨城県、兵庫県、福岡県、佐賀県、熊本県でも最近の摘発事例があります。
このほか、北海道、神奈川県、静岡県、石川県、愛知県、岐阜県、長野県、大阪府、広島県、愛媛県は摘発リスクが高めの地域です。
逆に、なかなか摘発事案が発生しないイメージの都道府県があります。
秋田県、山形県、富山県、栃木県、山梨県、三重県、滋賀県、鳥取県、岡山県、山口県、大分県、宮崎県あたりですが、だからと言ってこれらの地域のホールさんが安心して大丈夫ということではありません。
摘発されるホールの噂
ともあれ、摘発事件のニュース記事が出ると、しばらくの間は噂が飛び交います。そして「どうしてやられたんだろう」という話がまことしやかに語れます。
その多くは単なる憶測で、真実に迫った見方はごくわずかです。
では、摘発されたホールはなぜ摘発されたのか? よく言われるのはこんなことです。
派手にやりすぎたから
釘を曲げすぎたから(釘チェックシートを無視した)
警察が厳しくなったから
こういうふうに思う背景には、「ウチのホールは違うから大丈夫」と思いたい心理があると思います。
そうとでも思わないと、怖くて経営していられないです。
しかし、これは実態とは違います。
まず、「派手にやりすぎた」は、違法な広告宣伝のせいで警察に目をつけられたからという意味でしょう。
確かに、警察の怒りを買うことは極めて危険な行為であり、広告宣伝方法が原因で怒りを買うことはしばしば起こることです。
しかし、どこでどう怒りを買うかはいろいろで、違法な広告宣伝は部分的な要因に過ぎません。
店長に「指示処分を受けないように気をつけろ」と厳しく言ったところで、あまり効果がないばかりか、むしろ有害な結果になる可能性があります。
多くのホール経営者はこの点についても誤解しています(これについてもあとで説明します)。
「釘チェックシートの範囲内なら大丈夫」という認識はさらに要注意です。これも風営法に対する根本的な誤解ですが、これも後で説明しましょう。
「警察が厳しくなったから」という噂はよく耳にしますが、これも実態と異なります。警察は何も変わっていません。それどころか、一時期に比べるとずいぶんやわらかくなりました。
それでも摘発が起きてしまうのは、ほとんどの場合、ホール側の落ち度が原因です。ホールが警察に迷惑をかけているようにもみえますが、当のホール側がそれに気がついていないようです。
最近の摘発の傾向と行政側の状況
最近の摘発状況を分析してみると、書類送検の対象範囲が広がっている傾向を感じます。
また、遊技機の無承認変更と自家買いの両方の嫌疑で摘発されているケースが増えています。
かつては、無承認変更のみ、または自家買いのみ、というケースが多かったのです。
書類送検や捜索の対象範囲が広がる。
二つの違反行為の合わせ技。
こういった背景には、ホール関係者が法令順守に対して不幸な意味で敏感になってきたことが影響していると考えています。
<法令順守に敏感になると違反リスクが増える>
という現象を意外に思われますか?
でもこれが現実なのです。
だから風営法研修をやるなら、充分に検討し覚悟をしてから計画的に行うべきなのです。
ならば風営法研修もなにもかも、やらない方がよいのか。
そういう選択肢は魅力的ではあります。
しかし、ある程度の規模のホールであれば、何らかの対策は必要でしょう。なぜなら、ホール企業がなにもしないでいても、社員達はネットで風営法の知識を蓄積してゆくのです。そういう時代であることを認識して考えないと、とても危険なのです。
この意味がご理解いただけていますか?
ちょっと難しい話ですが、後でまた説明します。
さて、ここまでホール営業の法的リスクについて簡単に解説してきましたが、まだ核心に迫っていません。
釘の無承認変更ついて法的注意点を解説
次に、もっとも注意すべきである「釘曲げ」、いわゆる<遊技機の無承認変更>について説明します。非常に重要でありながら誤解されやすい部分です。ここから先はホール経営者の方にのみご覧いただきたいです。
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ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 <(_ _)>