エッセイ「命日」黄金色の君
今日は君の命日だ。
君がいなくなってもう、こんなに経つんだね。
あれからいろいろなことがあったよ。
受験に合格して、でもそれから苦しんで。
転校して大好きな友達と離れて。
その子は心に閉じ込めることにしたんだ。
無事、卒業したはいいけれど何もせずにただ家にいる私を見て、両親は私を家から追い出そうとした。
当然、驚いたのはそのことじゃなくて、路上で冷たくなった自分を想像したりしたこと。
その後は死ぬ気で働いて、結局心身を壊して、この様だよ。
「笑ってくれ」って言ったって君は笑わないんだろ?
私が退院して、1年ぶりに君に会う日、
「私のことなんて忘れちゃったかな」ってちょっと怖かったけれど、君はちゃんと覚えていてくれたね。
私が転んだときは(なぜか嬉しそうに)尻尾を振りながら1番に駆け寄ってきてくれたよね。
全部、全部、覚えている。
おやつをあげたら、指を食べられそうになったこと。
一緒に散歩に行ったこと。
おもちゃで遊んでいたら、君の歯茎から血が出て慌ててふためいたこと。
シャンプーをしてやったら、私までずぶぬれになったこと。
「訓練ごっこ」をしたこと。
昨日のことみたいに鮮明に覚えているのに、なぜか君の色も、匂いも、形も、感触も遠のいていく。
君がいなくても変わらない生活。
訪れる明日。
大好きだったはずなのに、大切だったはずなのにどんどんと君がいなくても平気になっていく。
君がいない日常に慣れていく。
ずっと机の上に飾っていた君の写真。
気づければどこかへいっていた。
しまったことさえ覚えていない。
こんな薄情な私を憎んでいて。
どうか裁いてください。
君だけが遠のいて、どんどんと薄まっていく。
夢で会いたいと願ってしまうのは私の身勝手だけれど。
夢でなら君を感じられるんだ。
なんだか不思議だね。
君の濃度が濃くなって、あの日の幸福を反芻できる。
また夢で会えたらね、次こそは君を抱きしめてやるんだ。君は嫌がるかもしれないけれど、それでも抱きとめてこう言うんだ。
「大好きだよ。」って。