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R.I.P ジョン・サイクス 〜追悼として思い入れのある5曲を語ります
2025年1月20日、ジョン・サイクスがこの世を去った。彼のギターが放つあの特有のメロディアスさ、鋭いリフ、そして感情を揺さぶるソロは、我々の魂に何度も触れてきた。それがもう新しく生まれることはないと考えると、寂しさが募るばかりだ。
しかし、彼が遺した音楽は、時を越えて我々の心に生き続ける。ここでは、彼が手掛けた数ある名曲の中から、個人的に「これぞサイクス!」という5曲を選び、彼の輝かしいキャリアに敬意を表したい。
1. 「Still of the Night」 - Whitesnake(1987年)
この曲は、ジョン・サイクスがギターで描く壮大な叙事詩だ。イントロの骨太なリフは、ハードロックの普遍的なエネルギーに満ちている。そしてミッドセクションのギターソロ、あれはもう「古代ギリシャの神々がオリンポス山で開く宴」とでも言いたくなるような、スケール感と美しさだ。カバディールのボーカルと相まって、ロック史に残る名曲だと言わざるを得ない。
2. 「Cold Sweat」 - Thin Lizzy(1983 年)
サイクスがThin Lizzyに参加して最初に刻んだインパクト、それがこの「Cold Sweat」。タイトル通り、体中が冷や汗で覆われるようなスリリングなギターリフで幕を開ける。彼のプレイスタイルがここで炸裂しており、フィル・ライノットとの化学反応が見事。リフがまるで拳を突き上げるかのように力強い一方、ソロでは絹のような流麗さを見せる。矛盾する要素を完璧に共存させる才能、これぞサイクスだ。
3. 「Please Don't Leave Me」 - John Sykes & Phil Lynott (1982年)
1982年にフィル・ライノットと共作したこの曲は、彼のメロディメーカーとしての才能を示す特別な一曲だ。
何といってもそのイントロのギターアルペジオ。まるで、恋人にそっと手紙を書いているような繊細さがある。サイクスらしい太い音ではなく、柔らかく優しいタッチが印象的だ。そしてそのメロディラインが、とてもシンプルなのに心に深く刺さる。そして間奏のギターソロでは、控えめながらもエモーショナルな泣きのトーンが聴ける。
4. 「Thunder and Lightning」 - Thin Lizzy(1983年)
この曲は彼のキャリア初期における、「嵐を呼ぶ若武者」としての証明だ。曲全体を駆け抜けるエネルギーは、まるで雷鳴と稲妻そのもの。彼のリフは電撃のように鋭く、ソロは嵐の中で鳴り響くトランペットのような堂々たる存在感だ。この曲を聴くたびに、彼がいかにThin Lizzyの最後の花火を彩ったかが分かる。
5. 「Is This Love」 - Whitesnake(1987年)
意外な選択かもしれないが、ソングライティングにおけるサイクスの絶妙なバランス感覚が発揮された曲だ。この曲のイントロのアルペジオは、恋人がそっと手を握る瞬間のように80年代AORの色気がある。しっとりとした間奏を背景に、抑圧されていた感情の高ぶりが流れるようなトーンで表現されている。ギターソロにここまで感情を注ぎ込んだ表現力には脱帽だ。
おわりに
ジョン・サイクスのキャリアは、ソングライターとしてもギタリストとしても決してロングヒッターでも多作家でもなかった。しかし、物語を語る詩人のようなその感性は非凡であり、彼の音楽は手触りのある彫刻のように、我々の心に深く刻まれている。
彼の楽曲には、人間の喜び、悲しみ、葛藤、そして希望が凝縮されている。それは、フィル・ライノットと切磋琢磨したThin Lizzy時代でも、Whitesnakeで一時代を築いた時でも一貫していた。音楽を通して語られる彼の物語は、リスナーに寄り添いながらも挑戦を促し、時に癒やしを与える存在だった。
多くを語らずとも深く伝わるジョン・サイクスの音楽。その彫刻のように丹念に作り上げられた作品群は、これからも永遠に語り継がれ、世代を超えて人々の心を揺り動かし続けるだろう。