比類なきサウンドスケープを創造したフレンチブラックMurmuüre
フランスのブラックメタルプロジェクト、Murmuüreについて書きます。
Murmuüreとは?
フランス、ヌーヴェル=アキテーヌ出身、Felix NaosことF.によるソロ(一人バンド)プロジェクト。多くのフレンチブラック同様、その詳細は謎に包まれている。
唯一のアルバム『Murmuüre』について
基本情報
アーティスト名: Murmuüre
アルバム名: Murmuüre
フォーマット: アルバム
リリース年: 2010年3月
ジャンル: アトモスフェリック・ブラック・メタル、アヴァンギャルド・メタル、アンビエント
アルバムジャケット: Edmund Joseph Sullivan『Skull and Roses』(1913年)
制作手法
1stアルバム『Murmuüre』は2006年11月の1時間のギターの即興演奏の素材に基づいている。パートを音楽のリズムにフィットするように編集したのち、追加されたレイヤーと結合された。
ドラムに関しては、オリジナルでプログラムされたドラムと、2008年にH.が演奏した追加の生ドラム演奏(大幅に再編集)を組み合わせている。ヴォーカルは森の神聖な場所でカタルシストランス中にミニディスクレコーダーで録音された。他にも数多のサンプリング、電子音を重ねて、ミキシングに3年もの期間をかけて制作された。
楽曲レビュー
1. Primo vere
エキゾチックで温かみのあるイントロから、サイケデリックなサウンドコラージュが入った瞬間の衝撃は凄い。
美しくダイナミックでありながら、悍ましく閉塞的な音楽でもあるという相反した要素が両立できている。
2. Reincarnate
更に前衛的に舵を切った2曲目。ドローンメタル的に始まり、本編も唸るようなギターが同じリフレインを反復するミニマル志向な曲。
しかし、グロテスクなノイズの上で重なる多様で複雑なフレーズは季節の巡りや多彩な感情を走馬灯的に映し出すかのようで、有機的かつ深淵な音楽になっている。
3. Torch Bearer
透明感のある神秘的なインスト。一見リラックスしているようで力強くダイナミックなサウンドで、程よい哀感がある
4. Amethyst
全曲から引き継ぐようなアンビエント調のイントロが終わると出現するキーボードからリフレインをギターが引き継ぐ移行部の接続が非凡。
5. L'adieu au soleil
ギターの不協和音の導入で緊張を高めて、より音楽的なドラム入りのパートへ入ってからも、秩序と混沌を絶え間なく行き来する緻密で苦痛に満ちた音楽。
6. Disincarnate
ハエの羽音を伴ったイントロから、幻想的なアンビエントへ。ディレイを利かせたエフェクトが、シンセサイザーをスぺ―シーかつ深淵なものにしている。
全体を通しての感想
それぞれの音が溶け込んで作品の有機性に貢献し、相互に共鳴しながらも時には音楽の骨格自体を崩しにかかるような逆説的なアプローチが特色。
Murmuüreはブラックメタルの伝統や習慣を完全に解体し、ローファイや電子音楽やインダストリアルの手法を応用し、濃密なサウンドコラージュを駆使して自由に再構築した。
その結果、他に全く類を見ない音の壁のようなサウンドスケープが出来上がった。個々のフレーズは完全に浮上しきる前に再び沈み、対立したかと思えば補強的になったりと、つかみどころのない不安定な状態で続くのだが、どれもキャッチ―なので慣れると中毒性を発揮する音楽になっている。
混沌と狂気の騒々しいメタルサウンドの中に、幻想的な美しいフレーズが散りばめられ、安らぎと不安、喜びと悲しみ、幸福と絶望、生と死、美と醜、秩序と混沌、宇宙的広がりと閉塞感、浮上と埋没といった相反した要素がなんとクールに両立していることか!
どの曲も似ていないにもかかわらずトーンや均質性や全体の統一性がしっかりしているのも特筆点。一概にブラックメタルと言いづらい音楽であるが、アティチュード自体はブラックメタル以上にブラックメタル的とも言える。
好き嫌いは激しく分かれる音楽性だろうが、個人的には唯一無二の名盤。
欲を言えば29分はあまりにも短すぎる。この2倍は浸っていたい。
関連リソース
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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