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【ショートショート】13章のこと
アガスティア13章には前世のカルマの解説と解消法が記されています
どのような前世だったのか、想像を膨らませて残していきたいと思います
物語の始まり
穏やかなや時間はあっという間で、午後からはいつも風が強くなり、砂嵐が巻き起こる。太陽の熱をしっかりと浴びた砂が午後の風によって運ばれる。辺り一面、熱を纏った砂が霧のように覆い尽くす。この町で見られるいつもの光景。
その男は、エジプトの田舎町に生まれた。
父親と母親、兄妹はいない。
見渡す限り砂漠が広がっており、近所は10軒くらいの家が集まっている。家と言っても、石を積み上げてあるのと、土を掘り半地下にしてある。
灼熱の暑さから凌ぐためにもこの半地下は有難い。
父は現代でいうと町医者というのが一番ふさわしい。
この頃のエジプトでは占星術は現代の医学に匹敵するくらい重宝されたが、この占星術とハーブを中心とした植物の力を借りて、人々の病をよくしていた。
幼い頃から、家には多くの人が出入りし、父は対応に明け暮れていた。決して、広くない家に来る日も来る日も、人が集まってくる。朝早くから、噂を聞きつけた人が列をなすこともあった。対応は日暮れ過ぎても続くこともある。訪れる人のほとんどが、擦り切れた洋服を着ていて、痩せ細っている。
この砂漠の端にある田舎町に、毎日毎日人が訪れる。
少年は物心ついた頃から、いつも父親の傍にいた。
特に他の子どもたちと遊ぶようなこともせず、ただひたすら父親の傍にいた。父親が占星術を行うときも、訪れる人の体にハーブから抽出した液をその人の状態に合わせて塗るときもその様子を観察し、いつの間にか習得するまでになっていた。
擦り切れた服を纏っている人々は、大抵こうだ。
自分の体の状態がかなりひどい状態になってから、ここを訪れる。その時に、施したハーブ療法で劇的に体の状態は良くなる。お礼をしたいという気持ちはあるものの、擦り切れた服しか着れない状態の人々が十分にお礼をすることは、まず不可能。
父親はボランティアに近い形で施術を行うことがほとんであった。
劇的に良くなっても、ほとんどの人が、これまでと同じような生活をするしかないのでその時は良くても、またすぐに悪くなるという繰り返し。それにも関わらず、父親は変わらず、人々に平等に施術を行い続ける。
少年は、来る日も来る日も同じように人々に施術を行う父親に対して尊敬する気持ちとある種の虚しさも感じていた。父親自身は特段、贅沢もせず、毎日同じ物を食べ、どこかエジプトの繁華街に行くこともなく、人々の痛みにひたすら耳を傾けた。
貧しい人々ばかりでなく、10日に一度くらい訪れる裕福な人が父親の元に訪れてくれたおかげで、ここの生活は成り立っていた。十分な新鮮な果物や食料をお礼に持ってきてくれたり、時には質の良い生地で仕立てた服を持ってきてくれた。少年はその新鮮な果物を味わったり、質の良い生地の服を着るたびに、もっとこういった高級感のある物に触れていたいと本能的に思うのであった。
貧しい人々ばかりでなく、裕福な人に施術を行ったら、もっと父親も母親も自分自身も豊かになるのに、、、
日々、鬱々とした気持ちを抱えることが多くなっていった。鬱々とした気持ちを同時に、裕福な人が多く集まる街に行ってみたいという野心も抱えていた。