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第7話 「貴重なアルバイト」


 第一章 
第7話「貴重なアルバイト」

結月達、三姉妹は心強い助っ人により、スープ作りの試練を無事に乗り越える事が出来た。

引き続きオープン準備を進めて行く中、内装工事に若干の遅れが生じていた。
グリストラップの位置を変更したのだ。
(グリストラップとは飲食店などの排水から油脂や食品くずを分離させ、排水管の詰まり防止などを防ぐ装置の事)
そのグリストラップを客席から出来るだけ遠ざけることで店内にイヤな匂いを漂わせないように配慮する配置変更した。
その設計変更が原因で施工スケジュールに若干の遅れが生じてしまったのである。

また、これから搬入予定の新しくリース契約した厨房機器が以前の厨房機器より数10cm大きい事がわかり、カウンターを完成させる前に搬入しないと店内に入れる事ができないとわかったのだ。

やむなく工事を一旦ストップし、厨房機器の搬入スケジュールを早める変更をするなど、想定外な出来事が毎日のように起こり三姉妹を翻弄していく。

新しい券売機も到着し、初期設定とメニューボタンをセットする美咲と亜子。

そんな時、アルバイト募集を見たという一人の女性が店内に訪れ、結月がすぐに対応する。

女性
「こんにちは。失礼します。アルバイトの募集を見て来たのですが、まだ募集していますか?」

「あ、はい!ありがとうございます! 募集はあなたが最初に来てくださった方です。どうぞ、どうぞ!」

その女性は三十代くらいで、近所に住んでいるらしい。長い髪を一つにまとめたシンプルな装いながら、上品な雰囲気を漂わせていた。
彼女のバッグには小さい猿のぬいぐるみの様なものがぶら下がっている。

結月は初対面の彼女に不思議と好感を抱き、早速、面接を行う為、カウンター横のスペースに女性を案内した。
面接と言うのは名ばかりで、笑い声が飛び交う、
ほぼ雑談のような形だった。

女性は日中の昼の部のみ働きたいと希望していて、その理由は、シングルマザーで小さな子供がいることを話した。
結月はその誠実な姿勢と明るい笑顔に安心感を覚え、すぐに採用を決定する。

女性の名前は田中圭子という。

美咲と亜子はまだ学生のため、日中は働けない。
そのため、アルバイトの協力がどうしても必要だった。
特に、昼間のオープン準備や、券売機の釣り銭を銀行で両替する作業など、開店前の多岐にわたる業務をこなせる人材を確保すると言う意味では、田中圭子の存在は貴重である。

アルバイトの採用が一人決まり、結月は少し安堵したものの、まだあと二人の採用は必要だと考えている。

オープンまで残り1か月半。

その間に必要な人員を集め、研修を終えられるよう結月は祈るような思いでいっぱいだった。

翌日
お店の電話が鳴る。
アルバイト募集の連絡先を店の固定電話にしているのだ。
逸る気持ちで美咲が受話器を取ると、男性の声が受話器越しから聞こえてきた。

「アルバイト募集の求人を見てお電話しました。
まだ募集していますか?」

美咲は少し緊張しながらも、明るい声で答えた。

「はい、ありがとうございます!まだ募集中ですよ。面接を行いたいので、ご都合の良い日程を教えていただけますでしょうか?」

男性は少し間を置いてから話出す。

「日中は本業があるので、夜の部で働きたいのですが、それでも大丈夫ですか?」

美咲「はい、大丈夫です!」
男性「ありがとうございます。では、明日の十八時に伺ってもよろしいでしょうか?」
美咲「はい、かしこまりました。明日の十八時にお待ちしています」

電話を切ろうとしたとき、美咲はふと聞き忘れていた事を思い出し男性に尋ねた。

「あ、最後に一応、お名前と年齢を教えていただけますか?」

男性は少し気弱そうな口調で答えた。

「ほ、星川慎吾と申します。ご、 五十歳です」

「あ、ありがとうございます。それでは明日お待ちしてます」

 美咲は「ご、五十歳…?」心の中で反復した。

とりあえずニ名のアルバイトが確保できそうだ。
美咲は結月と亜子に話しかける。

「男性からアルバイト希望の電話があったよ。夜の部で働きたいって。」

すると、亜子が嬉しそうに言った。

「わぁ、良かったね! スープとか仕込の作業に男手が欲しかったから、助かるね!」

しかし、美咲が少し戸惑いながら続けた。

「でも、その人、五十歳なんだって。」
「ご、五十歳!?」

結月と亜子が驚いた表情で顔を見合わせた。

「本業があって、夜は副業として働きたいんだってさ。」

結月が少し考えてから言った。

「なるほどね…。じゃあ、明日面接で詳しくお話を聞いてみよう。もし難しそうだったら、丁寧にお断りすればいいよ。」

三姉妹は、新たなアルバイト候補に期待と少しの不安を抱きながら長い一日を終えるのであった。


〜次回の第8話では、少し時を遡り、亡き父と亜子の物語に焦点があたります〜

つづく 🦉
 

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