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『脱巨乳!!』みたいな

 漫画はあまり読んでこなかった私が久しぶりにハマったのが松井優征『暗殺教室』。たまたまコンビニで立ち読みした『ジャンプ』に殺せんせーのヌードシーンがあるのにショックを受けたことで、ハマりました。いい年してどっぷりハマりました。その後コミックスも全部買い、追うようになったんですが、ある話を見てドン引きしたんです。

 「なんでイトナなんているの?!」

 「イトナを生かしといていいの?!」

 「殺せんせー、何が何でもイトナを3-Eに入れて!!」

 だってそうでしょう。イトナを切り札として使えても、イトナの触手が残ってたら、そっちも地球を爆破するリスクがあるのだから。彼を殺さなければならないとなると、殺せんせーの時より難易度が上がるでしょう?イトナは明らかに爆破宣言よりも後にできた改造人間だし…シロさん、アンタなんてことしてくれてんだ、科学者ともあろうものがそんなことを許すなんてどんな倫理観してんだ、ていうか政府もそんな奴の力なんか借りちゃいかんだろう、と最初はヒヤヒヤしていたのですよ。

 なんでヒヤヒヤしたのかって?殺せんせーとイトナ、この2人の立ち位置は原爆に似ていたから。

  • とにかくものすごく危険

  • 最新の科学技術が関わっている

  • 制御が難しい

 この少し後の話だと、殺せんせーをコンクリートで固めて爆破する場面があるんですが、このくだりを見て、「アメリカの人工衛星が核実験と勘違いしたりしないのかな。地下核実験場の蓋ってあんな感じだよね?あんな責めまくるくせに日本もやってるんじゃないかとか言わないかな」とか、これまたヒヤヒヤしてました。国際プロジェクトだから杞憂ではあるんですけど。
 イリーナが3-Eに来たばかりの頃に茅野が『脱巨乳!!』のプラカードを出していたのは、まさか伏線だった?とか考えてました。松井優征は時事ネタやパロディを挟んで笑いをとる作風だと本人も仰っているんですが、このプラカードは東日本大震災後の反原発デモのパロディなんですよね。
 別の場面では、カルマが「大災害と戦う官僚になりたい」みたいなことを言ってますし。ジャンプで原発ネタなんてやるんだって、びっくりした記憶があります。のちにその茅野も実は…ってなるんです。

 というより、茅野があんなことをしなかったら、イトナは3-Eには来なかったし、シロさんがイトナかそれに類するものを用意できた可能性は低いです。それ以前に、殺せんせーが3-Eに来ることを多分誰も許可しなかった可能性すらあるのです。茅野がシロさんにエクスキューズを与えたのだと私は見ています。各国要人の思惑については断言できませんが、少なくともシロさんは、科学者なら触手人間を増やそうとは思わないでしょう。

 だから3-Eが内部分裂を起こした時には、その辺りの科学倫理的な掘り下げをもっとして欲しかったというのが、私の正直な感想です。ラストの「天の矛」のところも、「3-E被曝してない?山は被曝しないの?家庭科室に塩があれば安全度測れるかな」とか、そっちの心配ばっかしてました。

 最後、柳沢が病院で目覚めたシーンで泣きました。生きててよかった。茅野とイトナが生き残ったことも嬉しいけど、それなら柳沢にも、彼にこそ、生き残って欲しかったから。彼には是非とも、2人の行く末を見届けてほしい。自分では何もできなくても、2人のために祈るくらいはしてほしいと願っています。

 本編とは別の話になるが、模倣犯が出てくるあたり、やっぱり原子力とか核兵器も意識してたのかなと、私は思うのです。


 原子力を批判する文学作品はいくつかあると思うんです。自分が読んだのは、ベスター『虎よ!虎よ!』と、宮部みゆきの幾つかの短編とか。これらも違うとは言われそうだけど、『暗殺教室』も子供向けの原子力批判漫画にはうってつけな気がするんです。上に書いたような物足りなさは残るものの、きっかけくらいにはなるはず。
 何しろ、今更原子力そのものを否定するところから入っても偽善的に感じてのめり込みにくいと思うんです。「科学の不可逆性」は尊重すべき(上の内部分裂のくだりで言うと『青』の竹林に近い)だと私は思ってますから。環境保護のための予防原則(こっちは『赤』寺坂の言い分)も遠慮なく使って欲しいけど、過去は否定しないでいいはずです。
 だから制御でもいいけど、科学ならではのそういったジレンマを世間に広めていくのも効果的だと思ってます。『オッペンハイマー 』もそういう映画でしょう?多分被団協がノーベル平和賞を取ったのだって、『オッペンハイマー 』がアカデミー賞を取ったからだと思うんです。ただの邪推ですが、どっちにしても、アメリカの世論が核軍縮寄りになってるのは間違いないでしょう。だと思いたい。

 だから、『暗殺教室』は原子力批判とは違うとしても、似たような趣旨の小説とか映画とか漫画って他にないのかなと、今凄く気になってます。あくまでも「比喩として」描いたものが見たいのです。「虎よ!虎よ!」みたいな露骨なのは興醒めなので。何かいいのがあったら教えてください。

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