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実は初めての筒井康隆

 9月7日土曜日、ポルノグラフィティの横浜スタジアム公演を見に行った。ライブは楽しかったし、それはそれで書きたいことも色々あるけれど、それはまた別の機会があれば。

 横浜に行くんだったら、どうしても立ち寄りたいところがあったの。それが、関内名物(?)『有隣堂 伊勢佐木町本店』。
 有隣堂は名前を聞いたこともなかったのだが、今年の春だっけ、文房具メーカー3社の社長と有隣堂の社長が知育玩具で戦うという、訳の分からない動画を発見してしまった。

  そんなわけで、最初は有隣堂のことを文房具屋だと思っていたのだが、どうやら本屋らしい。この「ゆうせか」の動画はめちゃくちゃ面白くて、かなりの本数を見た。個人的にオススメなのは、学研の松原編集長が出てくる回。とにかく「熱い」です。本屋なら行ってみたいな。でも有隣堂は神奈川近辺と他は神戸と大阪くらいしかなく、自分がよく行く地域にはなかったのだ。自分には縁がないと思っていた。

 が、横浜に行く機会はできたのだ。なんせ場所は横浜スタジアム。関内とは目と鼻の先である。こりゃ寄るしかない。
 関内に着いたのは当日の昼。スタジアムの方角からは昭仁の元気そうな声が聞こえてくる。関内の人たちはこんなのをしょっちゅう聞いているのか。殆どは野球の音だろうけど。店の入り口では月一の八百屋さんも出ていた。

↑第一土曜日にやっているという。

 すぐ帰るわけでもなかったので野菜を買おうとは思わなかった。が、とりあえず、ブッコロー(動画のマスコットキャラクター。ミミズクです)のグッズは買おう。あと、本一冊くらいは買わないとなーと探したところ、見つけたのがこの本なのだ。

 筒井康隆『残像に口紅を』

 一章ごとに使われる文字が一つずつ消えていくという、実験的な小説で、ここにある帯にも書かれているように、どうやらTikTokで流行ったらしい。私は別のきっかけで知った。本のことも書きたいとか言っておきながらそこまで読書家なわけでもないので、筒井康隆が例えば『七瀬ふたたび』とか『日本以外全部沈没』の作者なのは知っていたけど、彼の本を読むのはなんとこれが初めてなのだ。

 どうやら本来は袋とじになっていたようで、なんと返金保証もついていたらしい。今出ている文庫本に袋とじがないので、がっかりしている人もいるようだけど、それだけ有名な本になったということなのだろう。今も袋とじの文庫本ってあるのかな。返金保証は別にいらない。
 薄めの本なので、すぐに読み終わった。帯には「恋愛小説」と書いてあるんですが、あんまり期待しない方がいいと思う。そっち系の趣味がある人にはアリだけど。なんでこんな帯つけちゃったんだろう?なんかね、これ系のシーンが異様に長いのよ。いつまで続くんだろうって、割と本気で思った。
 あと、割りかし重要な文字が、意外と早い段階で消えます。これにしたって、見ようによっては、なところもあるよね。ちょっと下品な話ではあるけれど。これも袋とじにしてた理由じゃないかな。

 そんなわけなので、内容については、実際に読んでもらうしかないんですが、さっきも言ったように、恋愛小説ではないです。なんで言えばいいのかな。小説家が、自分自身の語彙だけを頼りに、ヘンテコな世界に身を投じていく話、という方が近いよ。
 主人公は小説家で、ある時知人から変な実験の主人公になるよう持ちかけられる。実は小説が始まった段階で、日本語の五十音のうち「あ」が消えている。
 知人がいうには、物語が進むごとに五十音から一文字(とそれと同じ音の字。「ぢ」と「じ」など)が、ある程度ランダムに消えていくのだという。さらに、それらの文字を含む単語や、その単語を名前に含む[もの]も消えていく。
 例えば「あ」が消えた最初の段階だと、「あなた」「ありがとう」「朝」という単語や、「アイス」「ピアノ」などという[もの]、さらに、芥川龍之介、朝日新聞といった固有名詞を持つ人やものまでも跡形もなく消える。
 とは言え、英訳などで言い換えが可能なものは、主人公の佐治勝夫が脳内で意識的に言い換えれば踏みとどまることができる。ただし固有名詞以外。たとえば、「小豆色」なら「ワインレッド」みたいな(ここまでに挙げた例は、本書と関係のないものも含まれます)。
 とすると、個人的に気になるところがあって、「なんで7は消えたんだろう?」と、そこだけは不思議だった。時計ならわかるけど、電話は違ってもいいじゃん。卸の仕事を長くやってるからなんですかね。数字は読みやすいほうを選んでいるので。
 とにかく、礼儀と文法が次々と崩壊していく第二部は圧巻。この展開は恋愛描写だけじゃ勿体ないって。

それはそうと、有隣堂でブッコロー(のぬいぐるみ)だけを買う人もいるんですね。一番驚いたのはそこ。

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