見出し画像

海外でのアルバイト【ケバブ屋編】

 海外で初めての、どころか、人生で初めてのアルバイト。日本でアルバイト禁止の高校で寮生活をしていた私は、一度もアルバイト経験がないまま、海外で人生初めてのアルバイト経験をしたのでした。

 ニュージーランドで8ヶ月の語学学校プログラムを卒業した後、現地の美術専門学校の写真学科に入学した19歳の頃。
 専門学校は思いのほか時間に余裕があり、授業についていけず半ば思考回路が断絶されていたのと、あまり馴染めていなかったのとで、とても暇で孤独な日々を送っておりました。

 そんな暇があれば学業に専念しろ!とは、親にも散々言われたのですが、やはり勉強以外に黙々とできることを欲していたのと、単純に自由に使えるお金が欲しかった、そして働く経験がしてみたかったとの理由で、アルバイト先を探していた所、ホームステイ先の近くのショッピングモールのケバブ屋の求人を見つけました。
 正直、当時はケバブがどんな料理かもよくわかっていなかったですし、英語で履歴書を書くのも初めての経験、そして何より、バイト未経験者の留学生は中々採用されず、いくつか履歴書を送ったところは全て不採用だったので、今回も採用されないだろうと思っていたら、まさかの採用だったのでした。

 オーナーもマネージャーも中国人で、全く働いた経験がない私に優しく仕事を教えてくれました。
 仕事内容は、トルティーヤ生地に野菜やスライスした肉を載せてソースをかけて巻くだけの簡単なもので、私にも割と簡単にできましたし、なにより、まかないで自分で好きなように作ったケバブを食べられることが学生の私にはとても嬉しかったことを覚えています。時にはそれだけでは足りずに、山盛りのフライドポテトを追加して食べ、見事に肥えたことも、今となっては微笑ましい思い出。

 ただ、このバイトをしていて辛かったことが1つだけあります。
 それは暇だったということ。

 日本でも外国でも共通して、ショッピングモールのフードコートで一番人気なのは某ファストフード。勤務していたお店の隣は、常に行列ができているファストフード店で、私たちのケバブ屋はどこからどう見ても可哀そうなことになっておりました。週末のランチタイムはそれなりに忙しい日もありましたが、私はだいたい平日の授業終わりの数時間の勤務だったため、ただ立ってお客さんが来るのを待つという時間が辛く、体力的なしんどさよりも、今日もあの暇な時間を過ごすのかと思うとバイトに行くのが憂鬱でした。

 そんな中、働き始めて半年程経ったある日、私はマネージャーに呼び出され、言いづらそうに言われました。

来週から来なくて良いよ。」と。

 一応、売り上げ不振でやむを得ず、ということでしたが、本当の所はわかりません。
 売り上げ不振は私の目から見ても明らかだったので嘘ではないでしょうが、私の手際の悪さも相まっての事かもしれません。

 しかし、ショックよりも正直ほっとした気持ちの方が勝っておりました。収入がなくなることや、まかないに美味しいケバブが食べられなくなること以上に、暇な時間が自分にとっていかに辛いかを思い知りました。

 辞めてからしばらくして、ショッピングモールを訪れた際、少し遠めからそのケバブ屋を覗いたことがありますが、やはりそこには暇そうなマネージャーが立っていました。

 やっぱりね。

…と思った矢先、奥から中国人と思しき新しいスタッフの姿が。

 あれ?

 でも、私はそれ以上考えるのをやめ、新たなバイト探しに気持ちを切り替えたのでした。

いいなと思ったら応援しよう!