終わらない改修,代謝する建築
穀雨|葭始生
令和6年4月20日
「お施主さま」と呼ばないでで書いたように古民家の改修が進んでいる。当初は年度内での完成を目指していたが,そういった時間の目標は立てないことにした。あるいはそんな締切は無意味なことだと気づき始めた。
建築という圧倒的な実在は時間と空間の制約を受ける。リモートで勤務していた頃とは全く違う感覚だ。漆喰は下塗りをしてから仕上げるまでに,一日空けなければならないし,現場に足を運ばなければ,左官をすることさえ叶わない。壁が仕上がるという生々しさは,PCを広げてコンセプチュアルな資料を作るのとは違う性質だ。漆喰塗り,柱磨き,天井づくり…やりたいことは無数にあって,一度漆喰で仕上げた壁であっても少しのムラが気になって,やることリストの最後尾にもう一度並んでいる。それでも一つずつ着実に進んでいることは確かなことだ。砂埃を被りながら天井を落としていたときには,土足で家の中に上がり込んでいたが,今では家に入る前に丁寧に土を払い,室内履きに履き替えるまでになった。
古民家の改修には「完成」という状態はなく,常に「代謝」していく営みなのだと薄々気づき始めている。住むことがあたりまえになりすぎて,建築は常に完成された状態だと思い込んでいた。鉄筋造の一室では構造が見えないためか建築の代謝は感じづらい。経年変化の味わいこそ古民家の醍醐味なのだろう。これからどんな歴史が織り込まれていくのか。改修はいつまでも終わらない。
-S.F.
葭始生
アシハジメテショウズ
穀雨・初候
桃の花が咲いたと思ったら,葉が青々としてきた。
桃を頬張る夏を予感させる。
参考文献
なし
カバー写真:
2023年11月15日 柱の根本が傷んでいたため新しい柱を継ぐ。新旧の融合する瞬間。
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