life is too short for bad coffee?
寒露|鴻雁来
令和6年10月8日
このところ2周目のコーヒーにハマっている。1周目は学生時代のとき。狭い下宿の中で,銀色の手挽きのミルで豆を挽きコーヒーを淹れてから,優雅に1限に向かう。喫茶店にもよく通って,顔なじみになったしまいには,お店を切り盛りするおばあちゃんから「作ったから..」とコーヒーモーニングと一緒にお味噌汁が出てくるまでになった。コーヒーと向き合う時間は青春のあれこれから切り離された僕だけの時間であって常に重要なことであった。そしてまた,喫茶店に代表されるコーヒーを取り巻く文化というものも神秘的であって心地のよいものであった。
今は2周目。鑑賞体験から派生して,生産活動や流通への興味が出てきた。コーヒーが主に生産されているコーヒーベルトは北緯南緯とも25度以内の赤道付近。アフリカや南米やといった馴染みのない国に,どこかミステリアスな魅力を感じる。フェアトレード運動によって流通の過程は徐々に透明化されつつある。機械を導入すれば作業は楽になるものの,人件費の方が安いので低賃金で人が働いている。おしゃれなコーヒーショップでフェアトレードを謳ったコーヒー豆を盲目的に良いものと信じ買っていた行動が後ろめたくなる。一つの単語でくくってしまうのは簡単なのだけど,まずはその現実を直視したい。
今はオンラインで生豆を買って自宅で焙煎するようになった。焙煎前の緑色の豆が届くと,これも誰かがハンドピックした賜物なのだと,現地の慕情を感じずにはいられない。一方でその過程をすっ飛ばして,寝ながらでも注文できる,お金で解決できる世界にも感心する。素人のフライパンでの焙煎だから,ムラは出るし,雑味の原因にもなるチャフと呼ばれる外皮も完全には取り除けない。そうなのだけれど,自家焙煎したコーヒー豆は格別の複雑な味わいがあって,プロがきっちり焙煎したものよりも好みの味に仕上がったりする。
思えばワインを好きになった過程も似ている。はじめは白ワイン,赤ワインという程度だったけれど,品種の多様性を知り,ぶどうの生産国を知り,さらにはテロワールと呼ばれる栽培エリアの風土,土壌や標高といったものまでよく理解するまでになった。
日本の冷涼な気候では,コーヒー豆の栽培は難しい。だからこそフェアトレードとかいった概念を超えて,純粋に生産者を羨ましく思うのだ。そのうちアフリカ・ケニアにでも行くだろう。人生の暇を持て余すのはもう少し先になりそうだ。
-S.F.
鴻雁来
コウガンキタル
寒露・初候
特にペルー産の有機栽培の生豆が素晴らしい味わいに仕上がった。浅煎りの焙煎具合で仕上げても酸味は尖らず,濃厚な甘みを感じさせた。まさに見つけた!という喜びの瞬間だった。ペルーというのは産地として馴染がなかったので,家に置いてあるコーヒー豆の教科書を引いてみると,「有機栽培によって味わいの高いコーヒーが生まれることはめったにない。」と一蹴されていた。
頭で味わうことをしなかった自分の信念と味覚を誇らしく思った。
参考文献
なし
カバー写真:
2024年8月4日 焙煎。
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life is too short for bad coffee?
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