
Photo by
opalshot
曇天
遥か彼方の頭上から
笑い声が聞こえる
この深い井戸の底で
微かに降りる幸せの匂い
誰にでも射すはずの光が
ここには少しも届かない
笑い声はいつか消えて
終わらない除夜の鐘が鳴る
ここでは何も起こらないし
もし起こっても元に戻る
ああ何も変わらないよ
何ひとつ変わらないんだ
繋がれた奴が吠えて
俺はコソコソと隠れた
怖いってわけじゃなく
居場所を知られたくない
腹が減っているからって
馬鹿にされる謂われはない
存在しないと知っているのに
神に祈るお前よりはマシだ
俺だって気楽になりたい
庭で肉を焼きビールを飲みたい
でも聞こえるだろう
遠くで誰かが泣いている声
堪えきれない嗚咽
君が祈る間も
血を吐きながら泣いている
海面に垂れる雲の上は
昼間なのに真っ黒だった
世界中が灰色に染まり
波頭だけが白く騒めいていた
少し前までは晴れていたんだ
それまでの俺たちときたら
親父は絵を集めて自慢し
お袋は編み物を皆に押し付け
姉貴は犬猫を人のように愛で
俺は黙って楽器を鳴らした
よりにもよって
俺は身体も鍛えた
腕立て伏せをしたんだ
百と八回だよ
イチ、ニ、サン、シ …
… ヒャクシチ、ヒャクハチ!
全部なくなっちまうのに
すべてが消えてしまうのに
なにも起こらない
繰り返し繰り返し
昨日も今日も同じ
ここは天国
残念だな
ここが天国
#井戸 #光 #除夜の鐘 #神 #肉 #ビール #嗚咽 #灰色 #編み物 #犬猫 #楽器 #腕立て伏せ #天国