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猫を数える


車通勤の道を少し寄り道すると大きな公園がある。余程のことがないと立ち寄ることはなかったが、僕は今、毎日通っている。

野良猫を探し、数えるためである。

この公園には数多くの野良猫が住みついている。この猫たちは、地域猫のように扱われていて、毎日決まった人が餌をあげ、きちんと片付けて帰っている。また、去勢済みの桜耳になっている猫も多い。痩せた猫を見かけることはなく、どの毛並みもきれいだ。

時間帯によってはまったく見つからないが、ご飯を持ってくる人の時間が決まっているようで、場所ごとに猫が集まる時間があり、時間が来れば集まってくる。最もたくさんの猫が集まる場所には人も猫も数が多い。一方、2、3匹程度の猫しか集まらない場所もある。ひっそりとご飯をあげている人がいるのだろう。

少し前から君は公園の中にいる動物を探したがるようになった。野良猫はもちろんだが、池のある場所ならサギなどの鳥、ときにはヌートリアも見つけた。声を潜めつつも「あっ、いた!」とはっきり僕に聞こえるように言う。僕の顔を見てにっこりして、動物たちの方へ静かに近づく。僕だけだとすぐに逃げられてしまうのに、君がいると動物は逃げない。

それまでほとんど立ち寄ることのなかった公園に頻繁に行くようになった。そして、僕たちが一緒にいられるときは、動物探しが日課になった。世話をする人たちの邪魔にならないように、僕たちが野良猫たちにご飯をあげることはない。ヌートリアは外来生物だから食べ物をあげるのがはばかられた。鳥にはなにをあげたら良いのかわからない。

でも僕たちは毎日動物を探し、いつも君が「いた!」と声を上げ、二人で動物たちに話しかけた。何の利益をもたらさない人間たちに、動物たちは迷惑しか感じなっかただろう。

そして今、僕はひとりで動物を探す。

探すならやはり猫がいい。いつも手始めに公園の中でも端の方、目立たない小さな小径を探す。いても3匹、だいたいは1匹だけだ。そばにしゃがみ込んで話しかけ、写真を撮ったりする。ご飯がないとわかると猫はそろりそろりと離れていく。僕は次の場所に移る。

小高い丘があって、そこに数匹の猫がいることがある。そこで見つけられなくても、丘の上から見渡して公園中の猫を数えることもできる。豆粒以下にしか見えないけれど、僕は目を凝らして公園を見渡す。

猫を数える。一心不乱に。

数え終わると「今日は15匹だね」とか、「今日はたった5匹だよ」とつぶやく。車に戻り、助手席が空なのを確かめて、「さあ行くよ」と言う。少し強めにアクセルを踏んで家路につく。

明日もまた僕は猫を数える。明後日も、その次もずっと。




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