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脚本『さえずりも聞こえない』

【高校の演劇部での公演】
 一人劇。セットは道祖神の置物だけ。10分間

ライト明転。暗め。
下手からよちよち歩いてくる。

「あーあ、ここどこなのよ。ずっと歩いてるのに山しかないんだもん。学校の裏で遭難するとは… 寒い… 風強いなぁもう」

中心下手側にある道祖神。気づかず当たってしまう。

「イッタッ… なんなのよもう…、道祖神? またここにきちゃったの? 最悪…」

上手へ→上手から中央で止まる。

「下に行けば、高校のはずなのにないなんでないの? そりゃあさ、一応、山頂まで行ってみたよ。なんにもないっ!薄々気づいてるって。おかしいよ。あぁ、疲れた。眠いや…もう…良いか…」

道祖神の近くに座り込んで眠りにつく。
ライト暗転・明転(明るめに)

「目覚めると毒虫になっていた、なんてなっ!怯える家族どころか、誰一人居ないんだよ!山の中で迷子になっただけだって思ってたよ… あ、そういえば、不思議な事にさ、お腹も減らないんだよね。なんでだろう」

歩き回る。

「あれ、そういえばなんで、山に来たんだろう。山菜採り?自殺?なんてねーなんででしたっけ?」

返答などない。間を作る。

「ハハハ…本当に歩いても歩いても山だなぁー!そして、迷ったと思ったら、この道祖神に着く。あ、道祖神だ!私道祖神に会いに来たんだ。そうだ!」

道祖神に駆け寄る。

「でもなんで、道祖神に…? えっと…確かねぇ…お、おまじない…?そうそう。おまじない。えっとね…道祖神に何かをすると何かが起きるの…なんだっけ?何かってなんだ?」

あるき回りながらジェスチャーで表現する。

「マッチを使った気がする。マッチ… マッチかぁ。マッチと言えばっ!マッチ売りの少女。あれはなんだっけ。おばあちゃんに会えるんだっけ? 『会いたい人に会えるおまじない』? わかんないなぁ。どんなやり方だったっけ。確かね、マッチに火をつけて、マッチ箱に入れる。そして…道祖神の後ろに投げ入れる」

バスケのシュートのようなフォームで。

「投げ入れるんだ!あれ、私もうやったんだっけ?」
ポケット等を探す。

「あったー!やってみよう!」

無理やり明るくしている。

「マッチに火をつける。それを…マッチ箱に…あっつ!あっぶなぁ…」

道祖神の後ろに素早く投げる。歩きながら喋り続ける。

「やったはいいものの、なんのおまじないだったんだろ? よくあるおまじないと言えばっ! 呪いとか? 呪い…呪い…呪いかな?ありうるな… あーあ、誰か呪っちゃったよー。ま、私が呪おうとしたわけだし、きっと嫌なやつなんだ!どんな人だったかなぁ」

訝しげに急に下手にはける。

「音がした気がしたんだけど…おかしいなぁ…」

上手へはける。
ライト暗転。
サイドライトのみで照らす。

「夢を見ました。不思議な夢でした。とても懐かしくて…でも怖くて悲しくて。男の人がどんどん私から離れていくんです。私はその人を引き止めたいのに…手を伸ばしても、届かない…宗一郎っ!」

舞台ライトも明転。

「あ、そういえば、これもあったんですよ!」

道祖神をみる。

「道祖神ってなんなの… 旅人の守り神じゃないの?なんで男女コンビなんだろ… そもそもなんでこんな場所に…? 普通もっとちゃんとした道にあるんじゃないの? 私がなにをしたっていうんだー、まあ、呪おうとはしたよ…ハァ…(溜息)」

座り込む。

「そうだ、火は消えたかな?」

道祖神を倒す。

「へぇ…ここ穴になってたんだ… 炎が少し揺れている? マッチまだ火がついてるの? 深いから風の影響受けないのかな?」

ハッとした様子で。

「風?そもそも風吹いてない?あれ?」

穴をもう一度覗く。


「火、強くなってる… 他に見えるのも… マッチ? それに…燃え移ったの?すごい…。ん…?マッチだけじゃない?白い…なんだろ…」

道祖神から離れる。

「…骨?!頭蓋骨に見えたんだけど…え…どうしよう…警察に…。って誰も居ないんだった…なんでこんな、穴の中に…しかも、こんなにも深い」

もう一度道祖神の後ろの穴を確認する。

「こんなところに…何か書いてある。火山…宗一郎…?坂本…祐子…?聞いたことある…え…えっと、祐子…坂本祐子…」


一語一語を確かめるように。間を開けて。

「あ、わたしの名前だ。坂本祐子。」

雰囲気を一変。

「ハハッ…。宗一郎… 宗一郎… そうだった。私、ずっと前に死んだんだった。そうだよ、ここで、この穴で! え、じゃあ、この体は?女子高生やってたはずなんだけど…だって、人を呪うためにここに来たんだし… あれ… ホントにそうだっけ?だって… なんの記憶もないや」

狂った様子。感情の波を激しく。

「ふふっ… ハハハ…思い出した。思い出したよ。私、宗一郎に会いたかったんだ。でも、宗一郎帰ってこなかった。その時に、道祖神の話を聞いたんだ。道祖神は旅人の守り神で、縁結びの神様だって…。だから、私、毎日、お供え物をして…その時…マッチの火の中に宗一郎の姿を見た気がしたんだ。宗一郎がこの道祖神のところにいる姿が。だから、私、ここに穴を掘って… マッチだけを持って… そこで死んだの」

道祖神の後ろから赤い炎。ライトも赤くする。
炎の音もラストにかけて大きく。


「火が強くなってる…。宗一郎… やっと会えた… やっと…ずっと会いたかったんだよ…宗一郎…」

伸ばした手は空を切り祐子は倒れる。

      END

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