ミーム表現で1番大切なのは「手」なんだよ。【第35回 ミーム演劇教室 稽古日誌 2022.2.1開催】
今回、私(寺原)の上演は、最後まで行く前に先生に止められてしまいました。やりながら私も、「視線だとか呼吸だとか、生理感覚を裏切って演技してしまっているな」と感じていました。諸々原因はあるのですが、先生にも、それは伝わってしまったようです。
────────────────
先生:管理下の寺原でいたのはどこら辺から? 常に楽しめなくて、管理下の寺原でこれを段取って演じなくちゃいけない状態で進行したっていうのは、いつぐらいから?
寺原:最初からです。
先生:そうなんだよ。お前は意図が立って、管理下の寺原が全部見えてる。だから作品のキャラクターが全部死んでいる。形態だけがあって、そこには魂もなんもない。リアリティーも何もない。何もない状態でお前が段取りで一応組み立てたことを、管理下の自分が前に出ているなと思いながらも、継続してるんだよ。それを打開する唯一のきっかけが、今のウォークだ。あのウォークで取り戻せる、かもしれない。それを管理下の寺原がプレイヤーのリアリティーを持って演じたら、あそこで取り戻せるかもしれないけれども、1番単純で、取り戻せる機会を、お前は投げた。放り投げて諦めてる。
どんな作品でもそうなんだけど、管理下の自分が表に出てしまうことっていうのは、よくあることなんだよ。ミームをやってるときっていうのは、ほぼ7割方そうなのよ。それをどこで取り戻せるかっていうのを、常に、毎回ごとに全部「あっここ無理だなあ」「あそこまで取り戻すしかない」、そのとき「全て捨てられるかな」と思いながらも、管理下である自分で作品を見せるという酷な状態を耐え凌がなきゃいけない。耐え凌いで、そのきっかけまで待たないといけない。この作品だったら、1時間10分ぐらいになるかもしれないけれども、そのなかで3回ぐらい取り戻せるところがある。そしてそれで1回目で取り戻せなかったらもう取り戻せないかもしれないし、2回目のロープのところで取り戻せるかもしれない。でもそれが取り戻せるということで心して切り替える、プレイヤーとして、勝負に出るには、今までの倍、3倍の集中力でウォークを始めないと、取り戻すことはできない。最初、あの調子で出てしまったら、絶対に作品の中で取り戻すことができない。管理下の作品を見せてるっていう状態にならざるを得ない。どんな名優でもそう。
ミームは、実際的には当てつけとしてのプレイヤーとしての技術を見せつけてかなきゃいけない。技術が高まれば高まるほど、管理下の寺原というのは表に出る。そしたら表に出る以上に、ディテール、生体のディテールをこまめにチェックする、リアリティーを感じる本人を埋めていかないと、どんどんそれはただ管理下の技術を見せる寺原が見えてくるだけだ。そうならないように、技術とともに生体のリアリティーがどこにあるのかっていうところを探って行かなきゃいけない。
まずお前が間違えたのは、手だ(寺原は黒手袋をしています。教室では衣装も自身の演出・美術プランに沿って準備します)。ミーム表現で1番大切なのは「手」なんだよ。なんで手が表現でリアリティーがあって1番大切なとこなのかっていうと、全て手が語ってしまうからだ。手が顔と同じように、語りかけてくる。そして舞台で1番目立つのは、肌色だ。白塗りをするやつは、白手袋をする。顔と同じように、手が表現になるから、白くする。サスのなかに入ると、手が全て表現する、表現してしまうんだよ。手の表情と表現がダメなやつはもうダメなんだ。ミーマーとしてもマイマーとしても、手の表情を放棄する人間は、もうミーマーでもない。ていうことは放棄してるじゃない。お前の思考能力だと、黒手袋で統一感があって良いと思ってる。これで穴が見えなくなるぞと思ったらおわりだ。もちろん穴は見えなくなるけど、1番大切な、表現をしなくちゃいけないところを、お前は放棄してる。その時点でもここでは、マイマーとしてもミーマーとしても、勝負するものを失ってしまったプレイヤーなんだよ。
────────────────
演劇・舞台表現では、筋書き・ストーリーというフィクショナルなもの=「嘘」「つくりもの」の時間を過ごします。しかし、それでも観客が演者に対し「あの人嘘ついてない」「本物だ」とわかる、感じるために演者に求められるのが、演者自身の生理感覚・生理反応へのチェックであり、そのチェックを裏切らないかたちでの「技術」=演技上の「こだわり」、つまり「適切な表現技術を遂行する本人性」だと思います。そうしたリアルな演者の仕種・反応が、観客からは劇の中のキャラクターが確かにいると見えるのです。
ダンスのように身体表現が日常の身体から離れることのない、あるいは抽象表現も日常の具象表現もある「演劇」では、先生の言う「生体のリアリティー」への視点が欠かせません。
難しい!!!
2022.2.7
寺原航苹