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汚泥で防水?学生たちが発見した新たな価値とは!?│牛乳石鹸×東京高専 汚泥アップサイクルプロジェクト

東京高専の学生メンバーによる「汚泥」をアップサイクルし、付加価値の高いものに生まれ変わらせる取り組み」は今も継続しています。教育プログラムである「社会実装教育」の中で、日々アップサイクルに挑戦中です。

汚泥
石けんを製造するときにどうしても発生してしまう廃棄物
社会実装教育
イノベーションを実現する技術者の育成を目標とした、東京高専を中心に実践している教育プログラム

この「社会実装教育」は1年でメンバーが入れ替わります。昨年のメンバーは汚泥を「燃料」か「粘土」にできないか実験を続け、特に「粘土」に可能性を見出していました。そして学内での最終発表を終え、言わば「1期生」たちの活動は終了。

この社会実装教育は、学生の主体性が重んじられます。特定の学生に「汚泥のアップサイクル」というテーマを強制的に与えられるものではありません。あくまでも学校側が提示する、数あるテーマのひとつにすぎないのです。学生は自身の興味関心によってテーマを選択します。ですので、もしかしたら誰も興味を持たなければ、「汚泥のアップサイクル」は選ばれない可能性もありました・・・、が!今年も4名の学生が集まってくれました!!

昨年のメンバーは「粘土」に可能性を見出しました。それでは、今年も「粘土化」に向け研究を続けるのか!?というと、そういうことでもありません。あくまでも学生の「主体性」が重んじられる教育プログラム。「粘土」というテーマを継続してもいいし、違う可能性を追い求めてもいい。

さあ、今年のメンバーはどんな挑戦をするのか!?ということで、さっそく大阪から東京の八王子まで学生の皆さんに会いにいきました!

再び八王子へ!初対面の2代目メンバー

新たなメンバーとのご対面。やっぱり初めて会う瞬間はちょっぴり緊張(笑)。さて、テーマは継続するのか!?それとも新たなテーマを設定するのか!?

発表されたテーマは「石鹸スラッジをセメント用防水剤として利用できないか」というもの。

「粘土」からずいぶんと方向転換!粘土にするのは、ちょっとしたコツのようなものがあるみたいで、1期生と同じものを再現するのは難しかったとのこと。それでは、「セメント用防水剤」とはどういうことなのか!?

と、気になるその説明をする前に、「石鹸スラッジ」という聞きなれない言葉が登場しました。これまで「汚泥」と表現していましたが、英語に言い換えることにしたのです。「汚」という文字が入っていると、まさしく汚い印象を受けるので言葉を変えました。石鹸を作る過程で出てくるスラッジだから「石鹸スラッジ」。英語にしただけで、「汚泥」の意味は変わらないのですが、英語の方が受ける印象は変わるかと・・・。

で、本題なのですが、モルタルとは、セメントと水と砂を混ぜて作られる建築材料です。私たちの生活には欠かせないもの。学生の皆さんが、テーマを考える時に、モルタルに石鹸スラッジを添加すると、防水性が発現するということを発見!でも、防水剤は市販でも売っています。だったら市販のでもいいじゃんと思いますよね。

ここで、実験の結果をご覧いただきましょう。こちらは左から、①防水剤なしのモルタル、②市販防水剤を混ぜたモルタル、③スラッジを混ぜたモルタルの3つを10分間水につけて、モルタルへの給水具合を観察する実験です。

お分かりでしょうか?水面との境界線のところが、吸水し灰色になっていますが、③のスラッジを混ぜたモルタルは吸水せず変色していません。なんということでしょう・・・、石鹸スラッジに防水剤としての可能性があるなんて!

建築物というのは、コンクリートの中の鉄筋が水分で錆びることにより、その寿命を縮めてしまうようです。もし、市販の防水剤よりも高い性能を実際に発揮することができたら、より建築物の寿命を延ばすことが可能かもしれません!

社会実装教育フォーラムでの発表

初対面の打合せから数か月たったある日、「社会実装教育フォーラム」なるものが開催されました。東京高専の学生と同じように社会実装教育を実践する高専生が全国から集まり、コンテスト形式で日ごろの成果を発表、そして専門家の方々が審査をします。

なんとそんなフォーラムに、関係者として私たちも呼んでいただけることに!会場は東京高専の体育館。2日間にわたって開催され、私たちは1日目に参加しました。

ショートオーラル発表とポスター発表と、学生には2回発表の場があります。ショートオーラル発表では、壇上にて資料を投影しながらテーマの概要を説明。その時間はなんと1分!短い!しかし、次々と色んなテーマが発表され、見ている私たちはとてもワクワク!石鹸スラッジの番では、がんばれと心の中で応援するも、1分はあっという間でした!

壇上での発表。昨年メンバーの名前も!

ショートオーラル発表が終わると、次はポスター発表です。体育館の中には、ずらっとポスターが立ちならび、そばに学生が立っています。先ほどのオーラル発表の中から気になったテーマを、直接学生から話を聞くことができます。

せっかくなので私たちも、気になったテーマの話を聞いてみました。竹粉で水をきれいにする取り組みや、VRを用いた避難訓練教材の開発など、学生からお話しを聞いていると、その熱量に驚かされました。

なかには、「どうやって商品やサービスを提供し、お金を受け取るか」という「ビジネスモデル」まで考えているチームもあり、「社会に実装する教育」とはこういうことなのかと、あらためて実感しました。

こんなにもたくさんのチームが社会課題に対して、向き合っているんだと思うと、会場の学生の皆さんがとても頼もしい姿に見えてきました!

肝心の石鹸スラッジチームはというと、たくさんの来場者が立ち止まり大盛況!熱心に話を聞いたり、質問をしていたりしていて、私たちが声をかけるタイミングがないほど!学生たちが主体的に取り組んだことであり、こちらからはほとんど手助けをしたわけではないのですが、やはり自分ごとのように嬉しい気持ちに!

ポスター発表で、来場者に説明するメンバー

そうこうしているうちにフォーラムは終了して、最後には来場者や学生の皆さんとの交流タイムがありました。実はここまで、学生の皆さんとはお話しできていません。ひと段落ついた学生の皆さんとお話をして、会場を後にしました。

発表が終わり、ひと段落。
会場にはジュースやお菓子が用意され、ちょっとした立食パーティのようでした。

ファイナルステージへ、そして結果は

フォーラム面白かったなー、石鹸スラッジのアップサイクルも賑わっててよかったなーと、いろいろ考えながら大阪へ帰っていると、スマホの通知が。学生からです。見てみると・・・、ファイナルステージ進出の文字が!なんと!

フォーラムは、1日目が予選、2日目がファイナルステージというプログラム。私たちが帰ったあとに、2日目に進出するチームが発表され、なんと「石鹸スラッジのアップサイクル」が選ばれたようでした!

東京02が石鹸スラッジチーム!

フォーラムで発表すること自体が、素晴らしいことなのに、さらにファイナルステージだなんて!最終発表も、ぜひ直接見たかったのですが、都合がつかず結果を待つことに。

次の日、ドキドキしながら結果を待っていると、今度は先生から速報が!

【速報】最優秀社会実装賞受賞!

なーんと!そんなことが!と言ったら大変失礼ですが、まさか優勝するとは!

表彰の様子!直接見たかった!!

フォーラムは工学系のテーマが多く、「石鹸スラッジ」は数少ない化学系のテーマでした。「社会実装」という「社会にどう活かすか」という観点からすると、アップサイクルというテーマはなかなかハードルが高く、工学系のテーマの方が1歩進んでいる印象でした。

しかし、最優秀賞を受賞できたことは、「セメント用防水剤」が実現すれば社会への貢献度が高いということが評価されたのではないかと思います。本来捨てられるはずの「石鹸スラッジ」が高い防水機能を発揮でき、建物の寿命を延ばすことに役立てばCO2排出削減など、社会課題解決に貢献できるかもしれません。そういった学生たちの着眼点や創意工夫が評価され、最優秀賞を受賞することができたのです!

最優秀賞おめでとう!みなさん、カッコイイ!

こんなに素晴らしく、嬉しい報告をいただくことができるとは・・・。これは社内のみんなに報告せずにはいられない・・・!いや、それどころか社内に向けてプレゼンしてほしい!というか、そもそも私たち新規事業室メンバーも最終プレゼンを見ていない・・・!そのことをお願いすると、東京高専の皆さんには快諾いただき、むしろそのつもりだったとのこと!

最優秀賞プレゼンを社内に向け発表!

社内に向け、告知もして迎えた当日。本番さながらのプレゼンを社内に向け、発表していただきました。

プレゼンはオンラインでおこないました。

石鹸スラッジは、「牛乳石鹸の工場の中」で生成されるものです。牛乳石鹸の社員でもない学生たちが、実験し、あらたな性質を発見し、そのことで評価を受けるとは。私たちは多少の支援はしましたが、ほとんどは学生の主体性によるものです。尊敬と感謝の気持ちが湧いてきます。

あの捨てられているだけだった石鹸スラッジが、こんなにも人を集める取り組みになるなんて・・・。東京高専さんとご縁ができたこととか、こうやってフォーラムに参加することができたこととか、ある意味で石鹸スラッジは既に価値のあるものになったのでは、とすら思いました。

以前にコニカミノスタさんのインターンシップでも学生からプレゼンをしていただきました。私たちだけでは、どうしても視野が狭くなってしまいます。こうやって外から視点をいただけることは本当にありがたいことです。

2代目のメンバーも、もうすぐ入れ代わりの時期です。次もセメント用防水性をテーマとして継続されるのか、それとも全く違うテーマになるのか。それは3代目のメンバーが決めることです。そもそも、メンバーが集まらない可能性もありますが・・・。

しかし、いずれにしても、せっかく学生が見つけたこの可能性をこのまま終わりにするわけにはいきません。防水剤と一言で言っても、どんな場面や場所で活かすことができるでしょうか。私たちは建築物に対する、防水の課題をほとんど知りません。防水という世界の理解を深め、どのように「社会に実装できるのか」考えていきたいと思います。私たちは「新規事業室」。石鹸スラッジが防水剤として、世に役立つように探索をしていきます!

石鹸スラッジが生成される甘水処理を見学するメンバー


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