今日の引用 2021.5.14. 本にまつわる記憶
"ある本を見れば、そこに書かれていたことはなにひとつ思い出せなかったとしても、あるいはその本自体に特に思い入れがあるわけではなかったとしても、読んだきっかけや買ったときのこと、開いていたときの具体的な場面、その時期の気分、そういうものが勝手に思い出される。
明るい午後の図書室(ズッコケ三人組)、ソニックシティでの塾の集会とその日の夕飯の干物(TUGUMI)、受験期の平日の冬の宇都宮線(白河夜船)、栃木の歯医者の駐車場と早くして亡くなった叔母の笑顔(「死の医学」への序章)、地下の広場とオーディオ・アクティブの赤いMD(ノルウェイの森)、ピンクの表紙の不便な手帳(罪と罰)、
真夏の祖母の家の二階の板張りの部屋とベランダ(グロテスク)、"
本の読める場所を求めて|阿久津隆 p264
こんなことって自分にもあるだろうか?つまり、読んだ本から周辺記憶を復元できるようなことって。本と直接関係なくても、本にまつわる記憶を自分も思い出してみた。
雑文集|村上春樹
ガーナの共用図書、「そういう人なの?」
アフリカのガーナへボランティアに行ってたとき、この本を読んだ。共用図書にあり、ちょうど読んでなくて読みやすそうだったから手にとった。読みだしたら止まらず、どこにいても一日中読みふけっていた。すると同僚のボランティアから、「そういう人なの?」と聞かれた。本の虫、みたいな人だと勘違いされた。普段は全然そんなことはないです。
謎の独立国家ソマリランド|高野秀行
同居人、友達の家
ソマリランドを初めて認識したのは、シェアハウスに住んでいたときだった。会社員だった当時、一緒にシェアを始めた同僚が持っていた。読んだ感想、「本当にすごい、行きたい」と言っていた。確かにこの本は当時騒がれていたが、僕はその時読まなかった。めちゃくちゃ分厚い本。
それから数年経った後に、読むことになった。クレイジージャーニーに高野秀行氏が出ており、あのソマリランドを書いた人だった。クレイジージャーニーを勧めてくれた友達が持っており、読ませてもらった。こんな本があるのか、こんな場所があるのか、と衝撃だった。
カラマーゾフの兄弟|ドストエフスキー
会社員時代の同期
カラマーゾフは光文社古典新訳で読んだ。当時出たばかりの亀山訳が話題になっていた。全5巻読んだことを、何かの折に会社の同期に伝えると、読みたいと言われた。だから貸した。大阪から名古屋へ転勤になって、引っ越すときに返してもらった。忙しくて結局読まなかったらしい。
日の名残り|カズオ・イシグロ
コワーキングスペースで働いていた頃
日の名残りをどういうきっかけで読んだかは覚えていない。けれどコワーキングスペースでスタッフをやっていた頃に読んだ。利用者の一人がカズオ・イシグロをとても好きで、出ている本はほとんど読んでいた。僕が日の名残りとわたしを離さないでを読んだことを話すと、他の本を貸してくれた。4,5冊は借りた。
白い人、黄色い人|遠藤周作
就職活動中
大学三回生のとき、就職活動をしていた頃、どこかの企業の説明会でたまたま同じテーブルだった人が、同じ大学だった。「今の会社どうだった?」「正直…受けないかな」説明会が終わったあとも近くのカフェで話し、連絡先を交換した。その後もお互いの就職活動状況を報告し合ったり、同じ大学の友達を紹介したり、大学でばったり出会ったりすることがあった。
その子は外国語の学部で、英語はもちろん専門の言語も話す超優秀な子だった。僕なんかよりもとっくに早く、いくつかの企業から内定をもらっていた。本が好き、中でも遠藤周作が好きと憚りながら言っていた。重くて深く、暗い話が好きだそうだ。僕は読んだことがなかったから、読んでみると言って買って読んだ。感想も伝えたと思う。
本の記憶
僕にとっての本の記憶は、場や状況、心情よりも人の記憶と結びついていることが多いようだ。ただ、今まで読んできた大半の本は、人にあげたか失くしたか、売ってしまって手元にない。これまで引っ越しが多く、大量の本は場所を取るため、手元に置いておかないようにしていた。そのために一時期はKindleでばかり本を買っていたこともある。
本が手元にないため、手元に残っている本の記憶も少ない。思い返してみると、意外とどうでもいいことだったり、大したことない記憶が残っていたりするものだ。誰かの本にまつわる記憶、聞かせて下さい。