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「細雪」を読む 7

中公文庫版「細雪(全)」の読書日記を書いています。

371ページ、中巻十三まで。貞之助は、水害の被害に遭っているかもしれない妙子を探しに行った。幸子は二人の帰りが遅いことを心配する。上本町の本家に仮住まいしている庄吉と、妙子の彼氏の奥畑も芦屋の蒔岡家の様子を見に来た。事情を聞いた二人は、それぞれのタイミングで妙子と貞之助を探しに行く。幸子は先月の舞の会のときに撮った妙子の写真を見て、感傷的になったり不穏な空気を感じたりする。

幸子は流産をしてから、かなり落ち込んだり悲観的になることが増えた。前はもっと明るく活発な印象だったのに、つらいことが続いて不安定だ。まだ貞之助の方がしっかり保っている。

そのうち庄吉、貞之助、妙子が帰宅する。貞之助と妙子はドロドロになっているが、目立った怪我はない様子。ただ妙子はかなり衰えており、後に水害の体験と、どうやって助かったかの顛末が語られる。妙子は九死に一生を得たような格好で、写真家の板倉に救助された。妙子の水難の様子はかなり悲惨だ。洋裁の先生の家に立てこもっていたが、屋内に水が浸水してきて首の高さまで達し、外に逃げようにも外は氾濫した川の激流で、およそ助かる見込みがないように思われた。

部屋の外へ逃げるという方法も考えないではなかったし、窓枠を破ることぐらいはできたかも知れないけれども、妙子が窓の外を窺うと、(そこは上げ下げになった窓で、さっき雨が降り込むので上の方一二寸を残して締めたのであった)外部も室内と同じくらいの水位になっており、かつ室内の水は次第に泥のように澱んで来るのに反し、ガラス一枚外は非常な激流が流れていた。 P337

妙子を救助した板倉とは、先月の舞で妙子の写真を撮っていた人物で、奥畑商店で丁稚奉公をしていたこともあり、奥畑家に縁がある。なぜ板倉が妙子の洋裁学校の近くにいたのか、一応本人の口から説明されるが、よくわからない。この板倉という男が急に存在感を増してくる。板倉は何度も溺れかけ、死にかけたりしながら、妙子と洋裁学校の先生親子を救助する。板倉は以前に「お春どんを嫁にもらう」とか冗談を言っていたらしいが、洪水の後日にも蒔岡家の面々を海水浴に誘いに来るなど、何度も登場するようになった。特に意味のない蜂のシーン、室内に蜂が入ってきて、半裸の三姉妹が逃げ惑うところを板倉が訪ねてきて、あっさり解決する下りなど、何かを彷彿とさせる。その反面、妙子の婚約者のはずの奥畑は今回最も遅れて登場し、何も活躍しないままその後挨拶にも来ていない。

妙子はさすがに水害のトラウマが残る。今回の川の氾濫は、6,70年に一度のペースで起こっているそうだ。これは小説だけのことなのか、現実とリンクしているのだろうか。この芦屋川の氾濫は、昭和13年の阪神大水害として記録されている。そこから6,70年はもう過ぎており、そのタイミングで記録的な水害はなかったみたいだ。対策が進んだのだろうか。

妙子を心配して、雪子が短期間だけ帰ってくる。雪子は中巻になって初めて登場する。夏の暑い日々を、三姉妹でぐったり過ごす。「B足らん」と言ってビタミンB1を家庭内で注射し合う姿はやはり異様。

舞の師匠であったおさく師匠が、腎臓病が悪化して亡くなる。かなしい。おッ師匠はん。

隣人のシュトルツ家が帰国することになった。満州事変か日中戦争か何かの影響で仕事が減り、家族揃ってドイツへ帰国するとのことだ。戦争の影が近づいている。日本もドイツも敗戦することはわかっているから、この人たち個人個人の運命が思いやられる。この小説は日常を描いているから、今後やはり戦争にまつわる話が濃厚になってくるのだろうか。「この世界の片隅に」ほど戦争を中心には描かないと思うけど。

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