「感謝」はエンゲージメントと援助行動を高める ~読書レビュー『感謝と称賛』#5~
こんにちは。紀藤です。先日よりご紹介している『感謝と称賛』(正木郁太郎 (著))の書籍について、引き続きお伝えさせていただきます。
遅読のため一章ずつゆっくり読むことしかできませんが、有用な研究に味わい深さを感じる今日この頃です(著者の先生に感謝!)。
さて、本日のテーマは「職場における感謝の効果」です(第5章より)。
職場での「ワークエンゲージメントや援助行動」に「感謝」がどのように影響を与えるのか? この疑問に対する実証研究となります。
それでは早速、内容を見てまいりましょう!
職場における「感謝」の効果とは?
本研究の背景として、著者は「職場における感謝行動の効果」について、先行研究より、まだ明らかになっていないことを大きく2つ述べています。
1つ目が、「感謝をする側(表明)と、感謝をされる側(受領)で効果の度合いは違うのか?」という点。
2つ目が、「感謝とワークエンゲージメントや援助行動との関連はあるのか?」という点です。特に2つ目の「ワークエンゲージメントと援助行動」については、以下のように研究の背景がまとめられています。
まず「ワークエンゲージメント」に大きく関わる代表的な理論に「仕事の要求ー資源モデル(JDーRモデル)」があります。これは「仕事の資源」と「個人の資源」の2つがあり、後者に関わるものが「感謝行動」と述べています。
つまり、「感謝を伝えること」は「仕事におけるポジティブな側面に注目する」ことにつながり、また「感謝をされること」は「自分の社会的価値の認識・他者との関係性の充実」に関わります。 そしてこれは「個人の資源(仕事におけるポジティブな評価・個人の効力感などの感覚)」を高めることに繋がると考えられるよね、いうお話です。
次に「援助行動」というものもあります。これは、業績など仕事の職務そのものに貢献する行動(=「課題パフォーマンス」)と対をなす仕事に直接関わらない行動(=「文脈的パフォーマンス(※))の1つの尺度です。
(※文脈的パフォーマンス(田中, 2012)とは、以下の5つの内容「人一倍努力する」「自分の役目ではない活動にも取り組む」「他者を助け、協力する」「個人的に不便でも組織の規則や手続きにきちんと従う」「組織の目標を支持・支援し守る」という行動で構成される)
研究の概要
さて、それらの2点、「感謝をする・される側の違い」「感謝とワークエンゲージメント、援助行動との関連」について調べました。
調査対象、質問項目は、以下の通りです。
【調査対象】
・日本の情報通信業の従業員281名(平均年齢47歳)
【質問項目】
・「感謝の経験」(10項目)
・「ワークエンゲージメント」(3項目)
・「援助行動」(3項目)
・「統制変数」(性別・年齢・役職)
【調査方法】
1,感謝の経験を因子分析し「感謝の表明」「感謝の受領」と解釈
2,相関分析、重回帰分析を行った
3,「感謝の表明と受領」の重なる場合のワークエンゲージメントや援助行動に対する影響を考慮するため「応答曲面分析」を行った
研究の結果(わかったこと)
さて、上記の結果についてわかったことが以下の通りでした。
(1)「よく感謝をしているが、あまり感謝をされていない」と感じる人が多い傾向があった
各質問項目の相関分析を行ったところ、「感謝の表明(感謝をする)」と「感謝の受領(感謝をされる)」には相関がありました。この事自体は、予想通りだったのですが、興味深い点がありました。
それが、「感謝の表明の平均値が、感謝の受領の平均値より高かった」ということです。つまり、「自分はよく感謝をしているが、周りからはあまり感謝をされていない」と感じている、ということになります。
これは私見ですが、認知バイアス(借りたお金は忘れるけど、貸したお金は覚えているみたいなやつ)もあるのかも・・・とも思いました。
(2)「感謝をする or される」と「ワークエンゲージメントと援助行動」が高まる
そして、「感謝の表明」と「感謝の受領」、それぞれを従属変数として、「ワークエンゲージメント」と「援助行動」への影響を考察しました。
その結果、「ワークエンゲージメント」に対しても、「援助行動」に対しても、感謝の表明/受領は正の相関があることがわかりました。
(3)「感謝をする✕される」が高く、かつ釣り合っているとき、ワークエンゲージメントは最も高まる
最後に、「感謝の表明」と「感謝の受領」が重なるとき、つまりセットになったときにワークエンゲージメントや援助行動がどういう影響を受けるのかを考察しました。これは応答曲面分析という手法を使っており、3次元で図示するという方法です。
この結果を見ると、以下の2つがわかりました。「①ワークエンゲージメントは、感謝の受領と感謝の表明がどちらも高いときに高まる」「②ワークエンゲージメントは、感謝の受領と感謝の表明がバランスがとれており、釣り合うときに高まる」という2点です。
(ちなみに「援助行動」は、「感謝の表明と受領がどちらも高いとき」に多くなりますが、興味深いことに「感謝の表明と受領、どちらかだけが高いとき」も多くなることがわかりました)
考察と感想
この章では「感謝行動がワークエンゲージメントや援助行動に相関がある」という点を示していただきました。
また、「感謝の落とし穴」として、人は)「よく感謝をしているが、あまり感謝をされていないと感じる」傾向があること、かつ「感謝はする✕される野バランスがよいときに、ワークエンゲージメントや援助行動が高まる」と感じるという事実から、感謝の表明と受領のバランスを意識して保つことは、実践における重要な点のようにも思いました。
こうした研究があると「ありがとうは職場でも重要」ということが理屈を持って伝えられるのでありがたいです。
課題パフォーマンス100%マインドの、超効率性重視の人が「私やることやってるんですけど、何か?」みたいなときに、「こうした感謝とか大事なんだよ」と伝える論拠となりそうなのが、個人的には嬉しい次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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