年齢が影響を与える…⁉『強みと興味に向けたジョブ・クラフティング:効果と年齢の役割』
こんにちは。紀藤です。さて、本日も「強み」について、論文をご紹介いたします。本日ご紹介の論文は『強みと興味に向けたジョブ・クラフティング』。
これまたなかなか面白い内容で、「ふむふむ、なるほど!」と読み進める手が止まりませんでした。以下、論文のタイトルです。
本論文の面白かったポイント
この論文は、オランダのティルブルク大学、エラスムス大学の研究者によるものです。最初にお伝えすると、この論文の特徴的だと思ったところは、以下の3つです。(私の個人的好みも含む)
「ジョブ・クラフティング」✕「強み」の新しい尺度を開発したこと
「強みのジョブ・クラフティング」に与える年齢の影響について示唆を与えたこと(高齢者のほうが、強みのジョブ・クラフティングが機能する)
「ジョブ・クラフティング介入」の詳細の7ステップが説明されていること
論文の土台となる概念「パーソン・ジョブ・フィット(PJ-fit)」
そんな特徴を感じる論文ですが、ではどのような研究が行われたのでしょうか?詳細を少し見てみたいと思います。
まず、本論文のキーワードとなる概念の一つに、「パーソン・ジョブ・フィット(PJ-fit)」が紹介されます。これは、そのまま訳すと”人と仕事の適合性”であり、労働者の様々な成果の予測因子であるとされています(Kristof-Brown, Zimmerman, and Johnson ,2005)。
言われてみればたしかに、「オレと今の仕事、めちゃ合ってるわー」という人のほうが、「全然今の仕事自分に合わないんだけど・・・」という人に比べて、様々なパフォーマンス(成果)が高そうなのは想像できます。パフォーマンスの他にも、職務への態度や幸福度にも影響があることがわかっています。
しかしながら、そんなPJ-fitの先行要因を検討した研究は少なく、「どうすればPJ-fitが向上するさ?」というのはあまり知見が得られていなかったようです(少なくともこの論文が書かれた時は)。
PJ-fitを高めるのが、「ジョブ・クラフティング」だ!
さて、そこで研究者が注目した概念が「ジョブ・クラフティング」でした。
そして、以下のような仮説を立てていきます。
「仕事に働きかける個人の行動(つまりジョブ・クラフティング)」は「PJ-fitの知覚レベル」に影響を与えるのではないか?
また、「年齢を重ねると、人は自分のアイデンティティ・強み・興味を深く理解し、それらに合った環境を作り出す傾向がある(Caspi, Roberts,& Shiner, 2005)」という研究もあるので、年齢がジョブ・クラフティング介入への調整要因になるのではないか?
さらに、「より良いPJ-fitを生み出すには、仕事を作る上で「動機・強み・情熱」に焦点を当てるべき(Berg ea al, 2013)」ともいう。ゆえに、「ジョブ・クラフティング」も「個人の強みや興味(関心)」を反映させたものに着目してはどうか?
と仮説を立てました。
研究プロセスと「強み/興味のジョブ・クラフティング」の新尺度
本研究では以下の参加者、プロセスで実施しました。特に、ジョブ・クラフティング介入の部分は丁寧に記述がされていて、勉強になりました。
◯参加者:オランダの医療保険会社の従業員 86名、女性が77%
◯調査方法:実験群(介入あり)と対照群(介入なし)に無作為に割り当てられた
◯調査期間:合計8週間にわたって実施をした。
◯調査内容:
・オンライン・アンケートで以下の項目について答え、介入前後・実験群/対照群で比較をした。
◯調査項目
1)フェイス項目(年齢、性別、教育レベル、仕事について)
2)ジョブ・クラフティングの尺度(9項目)(※Table2参照)
・「強み」に対するクラフティング(JC-strengths)
・「興味」に対するクラフティグ(JC-interests)
3)パーソン・ジョブ・フィット(PJ-fit)の尺度(6項目)
・要求-能力適合度(DA-fit)
・ニーズ・サプライ適合度(NS-fit)の二種で測定
「ジョブ・クラフティング介入」の7つのステップ
最大10名のグループにわかれて4時間のジョブ・クラフティング・ワークショップに参加した。以下の7つのステップで行った。
ステップ1:参加者は職場で行っているすべてのタスクを特定した
ステップ2:これらのタスクを、それぞれのタスクに毎週どれだけの時間を費やしているかによって、小、中、大に分類した
ステップ3:仕事を以前からあった「伝統的な仕事」と、後から追加された「新しい仕事」に分類し、仕事の性質を探った
ステップ4:仕事に関連した幸福度とリスクを考え、その上で自分の強み上位3つと、興味やニーズを3つ探索した
ステップ5:「自分の強みと興味が最も反映されるのはどの仕事か?」を考える
ステップ6:「将来どの仕事を続けたいか?」を特定し、これまでのステップ をまとめたものを受け取った。これに基づいて、参加者は 「自分の仕事と個人の強み・興味をより一致させるために作りたい重要な仕事」を3つ選んだ
ステップ7:参加者は短期的かつ具体的な仕事づくりの目標を1つ立て、 それを4週間以内に達成するための計画を立てるよう求められた
本論文がもたらしたもの(理論的貢献)
本論文の理論的貢献は以下のまとめられています。
ジョブ・クラフティングを「強みに対するジョブ・クラフティング」と「興味に対するジョブ・クラフティング」として概念化したこと
「強みに対するジョブ・クラフティング」と「興味に対するジョブ・クラフティング」は、「パーソン・ジョブ・フィット(PJ-fit)」と正の相関があること
「強みに対するジョブ・クラフティング」と「興味に対するジョブ・クラフティング」に基づいたジョブ・クラフティング介入を開発したこと
開発したの上記のジョブ・クラフティング介入が、「強みに対するジョブ・クラフティング」を増加させ、高年齢従業員のPJ-fitを増加させることがわかった
また、これらのプロセスから、「年齢がジョブ・クラフティング介入効果を調整する条件」であると明らかにしたこと
とのことでした。
まとめ
定量調査で、もっと詳しく読み解けば色々見えてきそうな論文だと思いました。個人的に面白かったのは、やはり、「強み✕ジョブ・クラフティング」の尺度を開発されたことです。そしてそれが、また別の論文で応用されており、先人の研究から未来が作られていくようで、興味深かったです。
また「年齢」✕「強み」✕「ジョブクラフティング介入」が高齢者に影響があったことです。これも日本のミドル・シニアに対する一つの施策としても考えやすそうで、非常に面白いな、と思いました。
一方、若手には「強み」✕「自己効力感」で影響があるという論文もあるので、強みを何に効かせるのか?を分けて検討すると、職場における介入施策も、説得力を生みそうだな、と思った次第です。
(おまけ)本研究の5つの仮説と結論
以下、5つの仮説とそれぞれの結果です。一応まとめますが、書いてみたら長かったのでご参考程度にしていただければと思います。
仮説1:ジョブ・クラフティング介入に参加した従業員は、対照群の従業員と比較して、介入後に(a)強みに対するジョブ・クラフティングと(b)興味に対するジョブ・クラフティングのレベルが高くなる。
↓↓
★結果:「支持されなかった」。
予想に反して、「ジョブ・クラフティング介入」は、強みと興味に対するジョブ・クラフティングのレベルに影響を与えなかったようです。
仮説2:(a)強みに対するジョブ・クラフティング、(b)興味に対するジョブ ・クラフティングと、「人と仕事の適合性(PJ-fit)」には正の相関がある。
↓↓
★結果:「部分的に支持された(aは支持、b部分的に支持)」。
仮説3:「ジョブ・クラフティング介入」への参加が「人と仕事の適合性(PJ-fit)」に及ぼすプラスの効果は、(a)強みに対するジョブ・クラフティングと(b)興味に対するジョブ・クラフティングによって媒介される。
↓↓
★結果:「支持されなかった」。
そもそも「ジョブ・クラフティング介入」が「強みや興味に対するジョブ・クラフティング」に影響を与えていないので支持されない。
仮説4:年齢が、「ジョブ・クラフティング介入」への参加と(a)強みに対するジョブ・クラフティングおよび(b)興味に対するジョブ・クラフティングとの関係を緩和し、高年齢の従業員は 若年従業員と比較して、より高いレベルのジョブ・クラフティングを行う。
↓↓
★結果:「部分的に支持された(aは支持、bは支持されなかった)」
仮説5:ジョブ・クラフティング介入への参加が、(a)強みに対するジョブ・クラフティング、(b)興味に対するジョブ・クラフティングを通じて、「人と仕事の適合性(PJ-fit)」に及ぼす間接的なプラスの効果は、若い従業員に比べて高齢の従業員でより強い。
↓↓
★結果:「部分的に支持された(aは支持、bは支持されなかった)」