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ジョブ・クラフティングは「真似できる」のか? ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#6~

こんにちは。紀藤です。ジョブ・クラフティング(以下、一部「JC」と表記)の初の研究書『ジョブ・クラフティング』について、本日も読書レビューをお届けいたします。

本日は「第6章 上司のジョブ・クラフティングと部下のジョブ・クラフティングの関連」です。それでは早速参りましょう!

30秒でわかる本章のポイント

  • 「ジョブ・クラフティング(JC)」とは、従業員がタスク・人間関係・認知の3つにおいて「仕事にひとさじ加える」ことです。JCは、ワーク・エンゲイジメントやウェルビーイング、職務パフォーマンスに影響を与えるとされます。

  • 今回の研究では2つの仮説を検証しました。

    • 仮説1は「上司がジョブ・クラフティングをすると、部下は模倣してジョブ・クラフティングをするのか?」

    • 仮説2は「上司と部下の関係が良好だと、ジョブ・クラフティングは促進されるか?」について検討しました。

  • その結果、仮説2の一部「上司と部下の関係がよいと、人間関係のジョブ・クラフティングにプラスの影響がある」ことのみ支持されました。

  • この結果は、同じ海外の先行研究とは異なるものでした(海外では上司・部下の模倣は生じるとしていました)。結果が異なった理由として「リモートワーク下での環境が、観察学習の機会を減少させ、ジョブ・クラフティングの模倣が生じづらくなっていた可能性」が想定されました。

とのことでした。以下、より詳しく見ていきたいと思います。

ジョブ・クラフティングは模倣と伝染が起こる?

ジョブ・クラフティングは「個人レベルの活動」と考えられていました。
しかし、近年では、社会的文脈の中でジョブ・クラフティングを捉える研究も進められています。具体的には、同僚間や上司との間でのジョブ・クラフティングの模倣や伝染に関する先行研究などです(Demerouti&Peeters, 2018;Bakker et al,. 2016)(Xin et al. 2020)。

なぜ、上司と部下の間で模倣が起こるのか? この理由を説明する理論として「社会的学習理論」があります。この理論は、”人の学習様式は社会的であり、人は他人を介して学習する”というものです。いわゆる「観察学習」がこれに相当し、他者の行動を目撃することで、人は学ぶ、という行為が相当します。

もう1つ、上司と部下のジョブ・クラフティングの関連に関して「LMX(Leader Member Exchage)理論」もあります。これは、リーダーとメンバーの関係性に着目した理論で、LMXが高い状態(リーダーとメンバーの交換関係)では、メンバーは役割を超えた仕事をし、低い状態では定められた要求のみ(指示されたことのみ)に部下は応える、というものです。
 LMXが高い状態と低い状態では、「ジョブ・クラフティングの伝染の度合いも違う」という仮説も検討されそう、というのが本章のテーマの一つとなります。

仮説と結果

さて、上記の理論と先行研究をふまえて、仮説が立てられました。
そして調査として、2021~2022年の合計4社の上司213名と部下343名のアンケートを行いデータを収集し、これらの仮説を検証しました。

以下、研究の仮説、ならびに結果をまとめます。

・仮説1a:上司のタスクJCが、部下のタスクJCに正の影響を与える
→支持されなかった
・仮説1b:上司の人間関係JCが、部下の人間関係JCに正の影響を与える
→支持されなかった
・仮説1c:上司の認知JCが、部下の認知JCに正の影響を与える
→支持されなかった

・仮説2a:上司のタスクJCが部下のタスクJCに与える影響をLMXが調整する(LMCが高い場合、両者の関連は強まる)
→支持されなかった
・仮説2b:上司の人間関係JCが部下の人間関係JCに与える影響をLMXが調整する(LMCが高い場合、両者の関連は強まる)
→「支持された」
・仮説2c:上司の認知JCが部下の認知JCに与える影響をLMXが調整する(LMCが高い場合、両者の関連は強まる)
→支持されなかった

P137(高LMXにおいて、上司の人間関係JCが高いと部下の人間関係JCが高い)

考察とまとめ

さて、結論として、仮説の6つのうち「1つだけが支持された」となりました。これは予想を裏切る形になったわけですが、一体なぜこのような結果になったのでしょうか? 以下、考察をまとめます。

まず、仮説1の「ジョブ・クラフティングの模倣が起こるか?」について、すべて「支持されない」という結果についてです。

この結果は、Xin et al.(2020)が示した「上司のジョブ・クラフティングが部下のジョブ・クラフティングに有意な正の影響を与える」という結果と異なるものでした。
では、なぜそうなったのか?を考えると、「今回の研究対象者はリモートワーク(週4~5は在宅勤務)であった」ことが影響していたのでは、と述べています。

リモートワークで対面の機会が減ると、観察学習が減ります。すると、上司のジョブ・クラフティングの工夫を、部下が目撃する機会も減るので、ジョブ・クラフティングの模倣が起きづらかったのでは?とまとめています。

次に、仮説2の「LMXの高さが、ジョブ・クラフティングを促進させるのか」については、一部支持されました。

今回は仮説2bの「上司の人間関係JCが部下の人間関係JCに与える影響をLMXが調整する(LMCが高い場合、両者の関連は強まる)」が支持されています。

これはどういうことかというと、「LMXが高い場合(=上司と部下の関係性が良好な場合)、勝手に仕事上で関わる人を増やしても、上司はそれを認めてくれる思いやすい(=人間関係ジョブ・クラフティングがしやすい)」という状態と考えられます。

また上司と部下の関係が良好であれば、リモートワーク下でも、よくコミュニケーションをとり、上司の行動を観察していることが、人間関係ジョブ・クラフティングにつながった可能性も想定されました。

個人的な感想として、「ジョブ・クラフティングの模倣は起きるのか?」という一つの研究テーマについても、環境が変わると結果も変わるものだと理解しました。
同時に大切なのは、なぜそれが起こったのか?という背景も含めて考察することであり、「支持されなかった」から悪いとかいいとかではないというのは、改めて大切な視点だと感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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