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「エンゲージメントとは何か」を紐解いてみる(2) ~似ている概念との違いってなんだ?~

前回のお話で、ワーク・エンゲージメントについての書籍をご紹介させていただきました。今日も、引き続き同書を参考に、ワーク・エンゲージメントについて紐解いていきたいと思います。

前回のお話はこちら↓↓

※参考書籍:『ワーク・エンゲイジメント -基本理論と研究のためのハンドブック』アーノルド・B・バッカー (編集), マイケル・P・ライター (編集), 井上 彰臣 (翻訳), 大塚 泰正 (翻訳),  その他
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異なる2つのエンゲージメント

さて、エンゲージメントという言葉ですが、大きく「従業員エンゲージメント」と「ワーク・エンゲージメント」という言葉の2種類が使われているようです。

従業員エンゲージメント

前者の「従業員エンゲージメント」は1990年代に初めて使用された可能性が高く(Buckingham&Coffman, 1999)、”組織との関係”が含まれているようです。(つまり組織コミットメントや役割外行動の概念が含まれている)。

ワーク・エンゲージメント

後者の「ワーク・エンゲージメント」は”従業員と仕事との関係”を表している(活力・没頭・熱意の3次元)としています。どちらも同じような意味で使われていますが、学術の世界では「ワーク・エンゲージメント」のほうを好んで用いている、とのこと。なお、ワーク・エンゲージメントの注目の高まりは、ポジティブ心理学の登場と関連があるとされ、4D(病気:Disease、損害:Damage,Disoroder:障害、不具合:Disability)の代わりに、人間の強みや最適な機能を研究する心理学の探求の中で、バーンアウトからエンゲージメントへと転換していった、という背景があるそうです。

(余談的なつぶやきですが、この概念をみると私(紀藤)は、これまでの仕事において「ワーク・エンゲージメント(仕事への一体感)」は感じていたものの、「従業員エンゲージメント(組織への一体感)」は感じていなかったのかもしれないな、、、とい思ったのでした)

コンサルタント会社が示すエンゲージメント

次に、ビジネス会におけるコンサルタント会社が示すエンゲージメントについても紹介されていました。全ての会社(ギャラップ社を除く)は、ワーク・エンゲージメントが生産性、販売、顧客満足度、従業員の定着の向上を通じtて収益性をますことを裏付ける証拠を見出した、と述べています(つまり、「ワーク・エンゲージメントは元が取れる」という主張です)。以下が、各会社が示すエンゲージメントです。

●国際開発ディメンションズ:
「エンゲージメントには3つの次元がある」と述べる
(1)認知的次元(組織の目標と価値に対する確信と支援)
(2)感情的次元(所属意識、組織に対する誇りと愛着
(3)行動的次元(自ら進んで特別な努力をしようという意志、組織に留まりたいという意志)

●ヒューイット(Hewitt):
「エンゲージメントしている従業員は常に3つの行動を示す」と述べる
(1)発信する(同僚、雇用が見込まれる従業員、顧客に対し、組織について常にポジティブに語る
(2)留まる(他の所で働くチャンスがあるにも関わらず、組織の一員でありたいと思う)
(3)努力する(ビジネスの成功に貢献するために時間、努力、率先力を行使する)

●タワーズワトソン:
「従業員エンゲージメント」は、従業員の「仕事および組織の一員になっていることから得られる、個人的満足や感銘および肯定感」を繁栄する感情状態である

●マーサー(Mercer):
「従業員エンゲージメント(「コミットメント」または「モチベーション」とも呼ばれる)は、従業員が会社の成功を我が事のように感じ、要求された仕事以上の働きをする心理状態を示す

●ギャラップ(Gallup):
「従業員エンゲージメントという用語は、従業員の仕事に対する熱意は言うまでもなく、仕事との関わり合いや満足感をも表している」(Harter et al., 2001)

P22-23


上記をみると、ビジネスのコンサル会社が定義するエンゲージメントの概念には、「(1)組織に対するコミットメント(情緒的コミットメント)」「(2)役割外行動(組織が効果的に機能できる任意の行動)」で成り立っていることがわかります。

ただし、著書では、これはエンゲージメントの概念が、他の概念を焼き直したにすぎず「新しいボトルに古いワインを詰め込むようなこと」になっている、と述べています。ゆえに、「ワーク・エンゲージメントとは一体どういう概念なのか?」を独特の概念として研究・定義をする必要があるよね、という流れになったのでした。(そして今では「ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度が、学術界では多く使われているように見受けられます)

エンゲージメントと関連する概念

「エンゲージメント」を幸福(ウェルビーイング)や充実したポジティブな仕事関連の状態である、とみなされています。それは一時的なものというより、むしろ持続的で、一般的な感情や認知状態を意味します。

ただ、興味深いのがやはり前節でも述べたような「従業員の仕事自体に対する感情や認知」なのか、「仕事上の役割(組織も含む)」なのかで方向性が違ってくるということ。この点も分けて考えることができるとエンゲージメントへの理解がより深まりそうです。

また、エンゲージメントの学術的概念では、行動的構成要素(活力)、情動的構成要素(熱意)、認知的構成要素(没頭)とされ、この3次元については学術界でも意見の一致が認められるそうです。

さて、ワーク・エンゲージメントは、複雑な概念であるため、伝統的なこれまでの様々な概念とも重複しているようなところがあります。よって、それらの概念とのワーク・エンゲージメントの関連について、本書にて考察されていました。以下、ポイントをお伝えします。

「行動」に関連する概念

●「役割外行動」:
「役割内行動(組織の目標に奉仕する公的に要求された行動)と、「役割外行動」(組織内行動を超える任意の行動=組織市民行動)がある。しかし、エンゲージメントしているといっても、役割外行動を示すこともあれば示さないこともあるため、”ワークエンゲージメントの構成要素とみなすべきではない”と考えられる。

●「個人の自発性(personal initiative)
個人の自発性(personal initiative:Frese&Fay, 2001)に富む人は、自分から率先して行動を開始し、主体的で粘り強い人であると述べる。個人の自発性は、従業員の職務行動の質に関することを指すため、これは”ワーク・エンゲージメントの行動的構成要素(活力)と関連している”と考えられる。

「信念」に関連する概念

●「仕事への関与(Job Involvement)」:
仕事への関与(Lodahl&Kejner, 1965)は、「人が自分の仕事と心理的にどれほど一体化しているか、もしくは、ある人の総合的な自己イメージにおいて、仕事がどれほど重要性を占めるかの程度」と説明される。上記をみると、シニシズム(冷笑的態度)の対極に位置し”エンゲージメントの概念と関連するものの、同義ではない”と考えられる。

●「組織コミットメント」:
組織コミットメントは「組織に対して愛着を持ち、組織と一体化した心理状態」であると述べられる。ただしこれは「特定の”組織”に対する個人の一体感」であり、ワーク・エンゲージメントは「仕事上の役割もしくは仕事そのものへの関与」とは違う。よって、”組織コミットメントは学術的なワークエンゲージメントの定義とは異なっている”と考えられる。(しかし、ビジネス界のエンゲージメントはこれらを「従業員エンゲージメント」としてその定義に入れているものもあるため、理解を難しくしている)

「感情」に関連する概念

●「職務満足感」
職務満足感(Locke, 1976)の定義は「自分の仕事を評価してみた結果生じる、喜ばしいあるいはポジティブな情動状態」とされる。ワークエンゲージメントは”仕事中の従業員の気分”に関わるものである(活力や熱意など)。しかし、職務満足感は、仕事に”ついて”、仕事に”対する”愛情であるため、その感情の方向が違う。またエンゲージメントは”活性化”(熱心さ、興奮、高揚など)が暗に含まれているが、満足感は”飽和”(満足、落ち着き、静寂など)が含まれているところも違っている。(よって、”ワーク・エンゲージメントとは異なる概念”と考えられる)

●「ポジティブ感情性」:
ワーク・エンゲージメントはポジティブな感情状態である。そして周りの状況にとらわれない気質的特性とみなされる。PANASのポジティブ感情尺度では、熱心さ(熱意)、気を配る(没頭)、エネルギーに満ちた(活力)などが含まれており、このような気質的を持つ従業員は、仕事にエンゲージする傾向が強いと予測される。(そのため、”ポジティブ感情はワーク・エンゲージメントを予測する因子”と考えられる)

似ているが異なる概念

またワーク・エンゲージメントと似ているが異なる概念について、以下の2つが紹介されていました。

●「フロー」:
フローとは「注意が集中し、頭が冴え、心と体が一体化して、努力しないでも集中して完全にコントロールでき、自分にとらわれず、時間も忘れて内発的な喜びが得られることを特徴とする最適体験の状態」(Csikszentihalyi, 1990)と定義されている。
ワーク・エンゲージメントとの違いをみると、フローは”短期のピーク体験”であるのに対して、ワーク・エンゲージメントの「没頭」は”広範囲に亙る持続的な心理状態”を指すため、ニュアンスの違い存在する。

●「ワーカホリズム」:
一見、ワーカホリズムとワークエンゲージメントは類似点があるように思えるかもしれない。しかし、ワーカホリズム(仕事中毒者)に典型的に見られるのは”強迫的情熱(=抵抗し得ないほどの内的衝動に駆り立てられる)”であり、ワーク・エンゲージメントは”調和的情熱(=仕事が楽しいから一生懸命働く)”であり、情熱の種類が違っている。

まとめと個人的感想

第二章の内容を、丁寧に紐解きながら、再整理する形で、記事にさせていただきましたが、改めて研究者の凄さを感じていました。

混乱しそうな概念、なんとなく似ているけど、何が違うのか上手く言い表せない概念を、様々な研究者の定義を渉猟し、分類して、その違いを言葉にするというのは至難の技であると感じます。そうした人々の知恵によって、我々一般の人も概念を区別することができるようになると感じます。繰り返しますが、改めて研究者ってすごい!と思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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