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「強みと年収」の関連を調べた研究。

こんにちは。紀藤です。今日の論文は、みんな気になるお金の話。
多くの方が気になるであろう「強みと年収の関連」について調べた日本の論文です。年収を高・中・低と3群にわけて「どんな強みが年収と関連しているのか」を調べました、というお話。めちゃくちゃ面白かったです!
ということで、早速内容を見てまいりましょう。

<今回ご紹介の論文>
高橋誠, and 森本哲介(2022). “性格特性的強みと年収, 職務満足度, ワーク・エンゲージメントとの関連- キャリア教育で育成すべき能力とは何か-.” 人間と環境 16: 23–35.

論文のざっくりポイント

  • 社会人213名に対してアンケート調査を行い、
    強みを発揮している人は年収が高いのか?」
    「どんな強みを発揮している人が、年収が高いのか?」
    「また男女で違いはあるのか?」
    を調べた。

  • 調査の方法は、代表的な強みのアセスメント3種類(118項目)と、「日本文化特有の強み」(36項目)の項目からキーワードを書き出した。そして回答者に、「当てはまるか or 当てはまらないか」を答えてもらった。

  • その結果、以下のようなことがわかった。

    • ①年収が高い男性は、強み尺度(CSF、REA、VIA)で「当てはまる」と答えている数が多かった

    • ②年収が高い女性は、日本文化特有の強み尺度(JCS)で「当てはまる」と答えている人が多かった

    • ③「強みを活用している」と思っている人のほうが「職務満足度とワーク・エンゲージメント」が高かった

なるほど。。。強みと年収は相関がある(!)ようです。
では、その内容をより詳しくみてまいりましょう。

研究の背景と目的

さて、本論文の背景は「社会で活躍するための能力を明らかにしよう」というものです。仕事人生(キャリア)を我々は歩んで行くわけですし、昨今はキャリア教育も学生時代から、そして社会人でもキャリア自律と言われています。その中で、「どのような強みが活躍に関連しており、粗キャリア教育において育てると良いのか?」は不明です。その観点の一つとして、年収にスポットを当てました。

研究の目的は、「性格特性的強み(CS)尺度と個人の年収、職務満足感とワークエンゲージメントとの関連について検討すること」としています。

どのような調査を行ったのか

では具体的にどのような調査を行ったのでしょうか。以下見てみましょう。

調査対象

日本における社会人213名(平均年齢44歳、男性142名、女性71名)へのインターネット調査

調査項目

以下の4つの使用尺度を用いて、各相関を調べた。 

(1)性格特性的な強み(Character Strengths):
「VIA-IS(VIA)」「クリフトン・ストレングス・ファインダー(CSF)」「Realize2(REA)」の代表的な3つの尺度を用いた。
・合計118項目のキーワードと簡単な説明を記載し、回答者に「まったく当てはまらない(1点)~非常にあてはまる(8点)」で答えてもらった。
・また「日本文化特有の性格特性的強み」もあると考え、オンライン調査と聞き取り調査で36項目を抽出。同様に回答をしてもらった。(例:平均主義、気配り、八方美人、ヨイショ、清濁飲み、平身低頭、お節介など)
上記の合計得点を算出した。

(2)年収:
 年収を、以下の3群に分けた
 ・年収330万円以下
 ・年収340万円~695万円
 ・年収695万円超 の3分類

(3)職務満足度:
 以下6項目を1:全く当てはまらない~5:非常に当てはまるで回答した
 「仕事について最大のパフォーマンスを発揮できている」
 「私の仕事は周囲から 評価されている」
 「今の仕事に不満はない」
 「仕事仲間との関係は良好だ」
 「仕事に行くことはゆううつだ(逆転項目)」
 「できればいまの仕事を辞めて別のところに行きたい(逆転項目)」

(4)ワーク・エンゲージメント:
 ユトレヒト・ワークエンゲージメントの短縮版9項目を活用

結果わかったこと

調査結果から、以下のような結果がわかった。

全体的な結果

1、「強み」と「職務満足度・ワーク・エンゲージメント」には、中程度以上の正の相関があった(=「強みを活用している」と思っている人のほうが「職務満足度」と「ワーク・エンゲージメント」が高い)
2,「強み」と「年収」は正の相関があった

強みと年収・職務満足度・ワークエンゲージメントの相関

男性の「強みと年収」の特徴

  • ・年収が高い男性は、強み尺度(CSF、REA、VIA)で「当てはまる」と答えている数が多い 

  • 年収との相関がある尺度の順は、「クリフトンストレングス(35%:12個)→ Realize2(30%:18個)→VIA(12.5%:3個)」だった。(「日本文化特有の強み尺度(JCS)は年収との相関なし)

  • 以下の強み尺度は、年収への正の相関があった。

    • クリフトンストレングス(CSF)= 未来志向、学習欲、目標志向、個別化、親密性、コミュニケーション、調和性、競争正、最上志向、責任感、共感性、信念

    • Realize2(REA)= 説明者、勇気、関係深化力、思いやり、感謝、調整力、フィードバック、つなぐ力、変化者、冒険、時間の有効活用、アクション、共感、立ち直り、感情的な認識、成功要因、順守

    • VIAーIS(VIA)= チームワーク、リーダーシップ、楽観性 

女性の「強みと年収」の特徴

  • 年収が高い女性は、日本文化特有の強み尺度(JCS)で「当てはまる」と答えている人が多い

  • 年収との相関がある尺度の順は、「日本特有の強み尺度(36%:13個)→VIA(33%:8個)→クリフトンストレングス(5個:14.7%)→Realise2(15%:9個)」だった。

  • 以下の強み尺度は、年収への正の相関があった。

    • 日本文化特有の強み尺度(JCS)= フットワーク、関係把握、気配り、お調子者、忖度、平均主義、器用貧乏、反骨精神、自重、人情、八方美人、心配り、真面目

    • VIAーIS(VIA)= チームワーク、親切心、公平さ、自立心、熱意、柔軟性、リーダーシップ、楽観性

    • クリフトンストレングス(CSF)= 回復志向、内省、慎重さ、規律性、個別化

    • Realize2(REA)= ミッション、ラポート、感謝、時間の有効活用、全体視、創造性、平等、好奇心

男女別の性格的強み(CS)と年収、職務満足度、ワークエンゲージメントとの相関係数
(年齢・勤務年数調整済み)

年収が高い群のほうが多く持っている「強み」とは

年収330万円以下に比べて、年収695万円超のほうが多く持っている強みは、各アセスメントでは、以下のものがあった。

  • クリフトンストレングス(CSF):
    信念・コミュニケーション・競争性・目標志向・最上志向・ポジティブ

  • Realize2(REA):
    変化者・楽観主義・ラポート・回復力・全体視・時間の有効活用

  • VIAーIS(VIA):
    熱意・リーダーシップ・自立心・審美心

年収3群間の性格的強み(CS)の違い

まとめ

  • 男女ともに多くの性格特性的強み(CS)は職務満足度やワーク・エンゲージメントに正の相関があることが示された。

  • よって、どのような性格特性的強み(CS)を育成しても、仕事への満足度と、積極的に従事する可能性を高めることがわかった。

  • 男性は、競争的で業務を円滑化する強みが年収と関連し、女性は、対人関係を円滑化するような日本的な強みが年収と関連していた。

  • 男性は欧米的な業務中心の強みを発揮しながら年収を得ている一方、女性は令和の時代においても旧来の日本文化と変わらない役回りを演じることで収入を得ているという職場内の性役割の格差が浮き彫りとなる結果であった。

  • このような現状を鑑みた上で今後の女性のキャリア教育の中で、どのような性格特性的強み(CS)を育成することが、経済的な成功を得るために必要であるか議論を重ねる必要があるだろう

個人的な感想

読んでみて、「こういう研究面白い!」と一人興奮してしまいました。確かに、気になっているけど意外とされていない研究だな、と思いました。
 日本社会特有の強みとして、「ヨイショ」「平身低頭」「自重」のようなものもあったのは笑ってしまいましたが、集団主義的・権威的な縦社会の名残にも見え、必ずしも今の時代にふさわしい日本の強みとは言えないな、とも感じます。
 また印象に残ったのは、年収が高い群の強みは「目標や向上心を持ち、変化に対して前向きに、そして自ら動き周りに働きかけていく」という特徴を持っている強みが多く見られたことです。当然といえば当然かもしれませんが、受け身ではなく主体的に動く人のほうが、年収や満足度も高いというのは、そうした人に報いる結果になっているように思えて、なんだか嬉しいものでした。
 人は多様な強みを持っていますが、特に年収を高めるならば、目標を持ち、志高く、前向きに頑張るのも悪くない、そんなことも思った次第です。

<本日の名言>
多くの領域において卓越することはできない。
しかし成功するには、多くの領域において並み以上でなければならない。
いくつかの領域において有能でなければならない。
一つの領域において卓越しなければならない。
(ピーター・ドラッカー)


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