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特徴的な強み VS 幸福な強み VS 最下位の強み、どれが仕事成果を高めるのか?ー論文レビュー『理論と研究が衝突するとき』

こんにちは。紀藤です。本日も、強みに関するある論文をご紹介させていただきます。タイトルは「理論と研究が衝突するとき」。一見何のことかわかりづらいのですが、3種類の強み((1)自分の特徴的な強み、(2)幸福に関連する強み、(3)自分の下位の強み)が、仕事の成果に与える影響の違いを調べた論文です。

少しだけ解説をしますと、これまでの先行研究では「『自分の特徴的な強み』を活用すると、幸福度が高まる」という話がありました。他方、「様々な文化圏に共通する『幸福に関連する強み』がある」という話もありました。

はて、どっちが本当に「幸福」に影響しているのか?、あるいは、何方にも当てはまらない「下位の強みを活用しても幸福には影響しないのか?」という疑問も湧いてきます。そこで、それらのことを検証してみようじゃないか、というのが本論文の目的でした。

ということで、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『理論と研究が衝突するとき:仕事における強み活用の相関を検証する』
Littman-Ovadia, Hadassah, Shiri Lavy, and Maayan Boiman-Meshita. 2017. “When Theory and Research Collide: Examining Correlates of Signature Strengths Use at Work.” Journal of Happiness Studies 18 (2): 527–48.


30秒でわかる本論文のポイント

  • 特徴的な強み(シグニチャーストレングス)とは、個人が最も高く評価する強みであり、最も頻繁に使用する強みである。これはポジティブな感情を引き出し、個人の機能と幸福に寄与するとされている。

  • 本研究では、「職場での強みの使用」を(1)特徴的な強み、(2)幸福に関連する強み、(3)最下位の強みと分けて、「仕事の成果(仕事の意義、エンゲージメント、職務満足度、パフォーマンス、組織市民行動、非生産的な仕事行動)と関係について調査をした。また、これらの関連を媒介するポジティブ感情についても検討をした。

  • その結果、予想通り、(1)特徴的な強みは仕事の成果(パフォーマンス、組織市民行動、非生産的な仕事行動の低下)に対して、最も高い影響があった。

  • 一方、予想に反して、(1)特徴的な強みよりも(2)幸福に関連する強みのほうが、心理・情緒的な仕事の成果(仕事の意義、エンゲージメント、職務満足度)に対して最も高い影響を示した。

  • また、ポジティブ感情は、(2)幸福に関連する強み、(3)最下位の強みの使用の効果を媒介したが、(1)特徴的な強みの使用の効果は媒介しなかった。

という内容でした。なるほど、特徴的な強みと、幸福に関連する強みと、それぞれ使った場合に得られる成果が違う傾向があるようですね、、、。
ということで、詳細を見てまいりましょう。

「3種類の強み」とは

これまでの研究から、強みは様々な側面から検証されています。そんな強みの研究から、以下のような「強み」が幸福度やパフォーマンスに影響していると述べられていました。

(1)特徴的な強み(Signature Strengths)

これは、個人が最も強く支持する3~7つの強みで、「個人が所有し、称賛し、頻繁に行使する強み」とされています。この強みの活用が人の繁栄と幸福に特に重要であるという仮説が立てられています(Peterson and Seligman, 2004)。
 ただし、実際に人生や仕事において、この「特徴的な強み」を活用することと望ましい結果との関連の実証研究はまだまだ少ないようです。この理論と研究の空白を埋めることが、研究の一つの目的とされています。

(2)幸福に関連する強み(Happiness Strengths)

これまでの研究でVIA24の強みの中でも『希望・熱意・愛情・感謝・好奇心』の強みは、人生満足度と最も高い関連性があることが示されています。この知見は、5000人を対象とした国際的な調査研究でも共通しており(Park et al, 2004)、年齢などサンプルを変えた定量研究でも再現されています。
 こちらも説得力がある結果になっていますが、では(1)特徴的な強み、を使った場合、どちらがより仕事の成果につながるのかは興味深いところです。こちらも検証しよう、というのが本研究のもう一つの目的であります。

(3)最下位の強み

本研究において「VIAのアセスメントで最低ランクの5つの自分の強み」を特定したものとなります。(ここについての先行研究は特に触れられていませんでした)

強みの活用を媒介する「ポジティブな感情」

最後に、強みについて語る上で「ポジティブな感情」にも触れておく必要があります。「ポジティブ感情の拡大構築理論」という研究がありますが、おポジティブ感情のレベルが、強みの活用への影響に差を与えることが想定されます。「ポジティブ感情な感情が、強みの活用と仕事の満足度の関連を媒介する」という現象も、上記3種類の強みに、どのように寄与するのかも検証することとしました。

研究の全体像

さて、本研究の全体像は以下の通りです。

参加者

1031名の勤労者(女性840名、男性191名)
・ほとんどがフルタイムの給与所得者
・殆どの参加者が北米出身者(57.8%)、その他ヨーロッパ、極東、オース・トラリア、南米、アフリカと続いた。
・参加者はVIAのウェブサイトを通じてインターネットで募集された

調査項目

<強みの活用について>
「VIA(性格的強み)」と「職場での強みの活用」(Strengths Deployment Measure;Littman Ovadia ,2010)尺度を調査し、結果を統合して3種類の強み二分類した

●(1)特徴的な強みの活用(VIAの強みの上位5つと、職場での活用度を統合したもの)
●(2)幸福に関連する強みの活用(幸福に関連する強み5つと、職場での活用度を統合したもの)
●(3)最下位の強みの活用(VIAの強みの下位5つと、職場での活用度を統合したもの)

<仕事の成果について>
●「仕事の意味」(Meaningful Work Scale)
●「ワークエンゲージメント」(ユトレヒトワークエンゲージメント)
●「職務満足度」(Job Satisfaction Scale, 1976)
●「業務遂行能力」(役割内行動尺度;WIlliams and Anderson, 1991)
●「組織市民行動」(Lee and Alen, 2002)
●「非生産的な仕事行動」(CWB-C; Spector et al, 2006)

<ポジティブ感情について>
●「ポジティブ感情」(Positive and Negative Affect Scales;Watson et al, 1988)

分析

上記内容について、記述統計で平均値、標準偏差、相関を確認しました。
また、その他仮説に基づいて、構造方程式モデリングなどの検定を行いました。

結果

大きくわけて、以下の3つのことがわかりました。

  • 「(1)特徴的な強みの使用」は「仕事のパフォーマンス(WP)」「組織市民行動(OCB)」「反生産的な仕事行動(CWB)と関連していた。

  • 「(2)幸福に関連した強みの使用」は、「仕事の意義(MWS)」「ワークエンゲージメント(WE)」「職務満足度(JS)」にのみ関連していた。

  • (3)最下位の強みの使用」は、「組織市民行動(OCB)」にのみ関連していた。

仕事成果と強みの関連(構造方程式モデリング)

なるほど、面白いですね。「(1)特徴的な強み」は、仕事のパフォーマンスを高めたりや反生産的な仕事行動を押さえるなど、目に見える成果につながる一方、「(2)幸福に関連する強み」は、仕事の意義やエンゲージメントに影響を与えると、その成果に違いがあることがわかります。

また、「ポジティブ感情の媒介効果」ですが、(2)幸福に関連する強み、(3)最下位の強みの使用の効果を媒介したが、(1)特徴的な強みの使用の効果は媒介しない、という結果もわかりました。

ポジティブ感情の媒介効果

まとめと個人的感想

「強みの活用は、様々な成果をもたらす」と大きく括ってしまいがちかもしれません。

しかし、よくよく見てみると「仕事の成果」といっても、それが「パフォーマンス向上の成果」なのか「職務満足度が高まる成果」なのかは、明確にされていません。かつ、「強みの活用」も、どういった種類のものを活用すると、どんな成果が変わるのかも気になるところですが、このあたりを整理したのが本論文の貢献ではないかと思いますし、その結果も実に興味深いものでした。

改めて、VIAの研究は色々あるなあ、と思いますし、Gallupのストレングス・ファインダーもよいですが、VIAを使った強みの研究もはじめてみたいな、と思ってきました。うーん、まだまだ掘れそうです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!



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