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Tim Heidecker / Fear Of Death (2020) 感想
二物を与えられた人
このTim Heideckerという人は、コメディアンとしてキャリアをスタートしながらミュージシャンとしても活動する多才な人です。私は彼のことを今作で知りましたが、本職がコメディアンと知ってまぁたまげました。そのくらい専業ミュージシャン顔負けの作品で、アメリカーナにおけるChildish Gambinoといった趣です。ヘッダーの画像はなんとなくMonty Python感がありますね。
なんせ今作はMatthew E. White主宰のSpacebombからのリリース、プロデューサーはFoxygenのJonathan Rado(私はnoteで何度この言葉を使うのでしょう)、Weyes Bloodが2曲で共作した上コーラスで全編参加、演奏陣にはSpacebombのハウスバンドやストリングスの面々に加え、The Lemon Twigsのダダリオ兄弟も…と、関係者を挙げただけで傑作の香りがプンプンです。
オチまで完璧
アルバムは短いイントロ的な曲を受け、"Come Away With Me"で軽快に幕を開けます。この曲はまさにゴキゲンの一言。田舎に行ってのんびりしようぜ!みたいな歌詞には若干距離を感じなくもないですが。
そう、歌詞が基本的に能天気で、暗い人間である私は微妙に距離を感じてしまうのが今作の唯一惜しい所です。意味深なタイトル・トラック4."Fear Of Death"も「死ぬのが怖いって思うから生きられるんだ〜」(意訳)とゆる〜くポップに歌われています。
古き良き時代を意識した敢えてのものなのかもしれませんが、個人的にはもう少し暗さ、弱さ、繊細さみたいのが感じられた方が好みです。それこそがWhitneyを始めとする、今アメリカーナを演奏するアーティスト達が現代にフィットし、評価されている要因だと思いますしね。
ここがメディアで今作がダッド・ロック(ルーツィなアメリカンロックの中でもおじさん臭いもの)と表現されている要因ではないかなと思いますが、まぁ20年以上のキャリアがある人に青臭さみたいなものを求める方が間違っているのかもしれませんが。
とはいえ、5."Someone Who Can Handle You"や8."Property"といったバラードもいい曲ですし、自身のラジオ番組でWeyes Bloodと演奏し、今作制作のきっかけになったというビートルズ"Let It Be"のカントリー風カバーなんて飛び道具もバッチリです。
最終曲にして今作一の名曲、"Oh How We Drift Away"でボーカルを完全にWeyes Bloodに任せ、最後に全部もっていかれるというオチも含めて、流石はエンターテイナー、って感じのアルバムです(過ぎ去りし日々、遡って2000年前の先祖にまで想いを馳せるこの曲は歌詞のエモさも随一。Natalie女史の入れ入れ知恵…?)。
点数
6.9
曲はいいですが最後のところでイントゥできない、少し惜しい作品でした。この辺は私の性格、感受性の問題なので、やはりこういう能天気さは特にアメリカでは一定の需要があるのでしょう。
この人は前作が失恋、離婚をテーマにしているらしかったり、WikipediaによるとBob Dylanのパロディアルバムを出してたりもするようなので、本職の方も含めてかなりディグり甲斐がありそうです。そこまでするかは分かりませんが。
(参考記事)