Paul Weller / Fat Pop (Volume 1) -2021 感想
老いてなおPOP
最近知ったのですが、「ゆるふわおじさん」なるタームがあるそうですね。書いて字の如くゆるふわな、おっとりして少し天然の入った癒し系中高年男性のことだそうですが、調べててみんな誰かに誉められたいんだな、と闇の深さを感じたのは主に他称ではなく自称で使われる言葉だということです。
何が言いたいかというと、相変わらずPaul Wellerはゆるふわの対極にいるシャカリキおじ(い)さんだということで、前作はコロナによる延期もあったとはいえ、1年を待たずしての新作です。
ロックダウンでやることがないから作り始めたという本作、アートポップなジャケット、娘との共作…と押し寄せる前情報に一抹の不安も感じていましたが、これは間違いなく傑作です。いや傑作というよりこんなPaul Wellerを待っていた、という個人的ドストライクな作品とでもいいますか。
件の娘、Leah Wellerさんとの共演曲はどうでしょう。まるで近年ライブで演奏した時の"Have You Ever Had It Blue?"のようなおもろうてやがて悲しきブルー・アイド・ソウル。コーラスは娘さんが書いたとか。凄いぜWeller家。不安とか言って申し訳ありませんでした。
(いや、にしても40年経っても名曲すぎやしないですか。ブルーになったことはあるかい?会いたい女性に無視されたことは?て。)
モッズの魂100まで
本作ではお得意のソウル/R&B、ブルースに影響を受けたロックンロールが炸裂しています。単にソロ初期のTrafficぽさが戻ってきたともいえますが、凝った展開がクドくて私がいまいちノりきれなかった近作に比べて遥かにシンプルで、しかもどっしりしたソロ初期よりも遥かにシャープでモダン。30年前より若々しいってどういうことなんでしょう。野郎どものコーラスもアツイ7."Testify"で聴こえるのはフルートだ!
とはいいつつ、個人的な好みで、やはりブルージーなロックンロールよりもソウルフルなバラードのが好きです。「22 Dreams」のカラフルさで「Wild Wood」な曲をやった"Cobweb / Connections"なんて久々に好みにど真ん中な曲です("Long Long Road)があったか。更に終盤のクライマックス、ソウルを超えて最早70sのSSWみたいに甘く流麗な11."In Better Times"とかもう、ね。下の世代へ向けられた暖かい言葉にと歌はまさにModfather、英国ロックみんなのアニキ健在です。最高。
家と呼べる場所を探しているんだね/知らなかったよ/それは君の心の中にあると思ってた/知らなかった/君の心がそんなにも離れていたなんて
携帯を手に雨に打たれている/独りぼっちでいる君のことを思うと、本当に悲しくなる
身も蓋もありませんが、英国三大Paulのうちの2人、マッカートニーとウェラー(残り1人はMaximo Parkのスミスです)は何をやってもそれなりのクオリティのものが作れるとはいえ、結局昔から得意なことをやった時が一番いいんですよね。勿論、老いてなお現状維持を良しとしないところが衰えないカッコよさの元でもあるのでもどかしいのですが。マッカートニーのリミックスアルバムなんて本人以外の誰が望んでいるのか。
齢62、老けないと言われていた彼も流石に見た目はおじいちゃんになりました。本人もインタビューで「テレビで自分を見て、めっちゃ老けてる!って思った」「これまでの人生のツケったことだよな。でもなあ、中身はまだまだ若いぜ!それが大事だろ」と語っています(雰囲気引用)。そもそも本作自体、四つ打ちポップな曲でこう宣言されて始まるのですから。音楽面で若返り続けるPaul Weller、恐るべし。後期(?)の傑作の一つの誕生です。しかもあくまでVolume 1ですからね。
俺は滅茶苦茶イケてる/洗練されてる/鏡に写る姿を見れば/自分の幸運が信じられないぜ
点数
8.2
ところで、最近以前ほど追えてなかったので知らなかったんですが、バックでキーボード弾いてたAndy Croftsはいつの間にかベースになってたんですね。彼のバンド、The Moonsの去年のアルバムも地味に良かったので目立つようになって嬉しいです。
(参考記事)
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