Carly Rea Jepsen / Dedicated Side B (2020) 感想
ウルトラC
Carly Rea Jepsen(以下カーリー)を知ったのは、ご多分に漏れず大ヒット曲"Call Me Maybe"のMVをベストヒットUSA(テレビ番組)か何かで観た時でした。バチくそ可愛い…。
男というのは馬鹿な生き物なので、それだけでとりあえず「Kiss」(2012)を聴きました。"Call Me Maybe"こそいかにもな当時流行りのEDM風のビートにDas Pop"Underground"的なソウル・ポップを合わせた洒脱な名曲ですが、全体的にはまあカーリーが可愛いだけのバブルガムポップアルバムでした。でもジャケットのカーリーが可愛いので文句はありません。最近は金髪セミロングですが当時の髪型とメイクが一番好みです。同作収録のOwl Cityとのコラボ曲もヒットしていましたが、この頃は恐らく私含めて誰もが一(二)発屋だと思っていた筈です。
しかし3年後、2015年に発表された3rd「E・MO・TION」はBlood OrangeやSia、元Vampire WeekendのRostam Batmanglijと言ったザ・ヒップスター、とりあえず共作しとけば間違いない面々と組んで"Call Me Maybe"の最良の部分を伸ばしたソウル、R&B、ディスコ、そして80年代ポップス風といった要素の強いオシャレな楽曲群が収録された傑作でした。その結果前作ほどヒットはしなかったものの、意外と本格派じゃん!と批評家筋や何様な自称音楽好き達からの評価はうなぎのぼりという、本人にとって嬉しいのかよくわからないウルトラCをやってのけました。この3rdは今聞いても素晴らしいポップアルバムだと思います。
昨年リリースされた、最新作となる4th「Dedicated」(2019)は前作からソウル〜ディスコ成分を薄くして80年代ポップス成分を濃くした内容で個人的には前作ほどハマりませんでしたが、楽曲の安定したクオリティの高さはカーリーが今、Ariana Grandeやビヨンセと並ぶ絶対的に信頼できるポップアクトであることを証明しました。その最新作からのアウトテイクを集めたB面集として今年の5月にサプライズリリースされたのが今作です。
ボーカル力
今作はアウトテイク、B面集ということで、多くのB面集の例に漏れずアルバム本編の曲と被った感じながらアレンジやメロディ等の面で地味だったり詰めが甘かったりする、よく言えば肩の力の抜けた楽曲や、チル、エレファンクなど80年代ポップス風のA面の統一感を損ないそうなためにボツになったと思しき曲達が詰まっています。しかしアウトテイクといいながらも本編同様、Bleachers等一流のコラボレーターと共作しているので楽曲のクオリティは高めに安定しています。「これをアウトテイクにするなんて信じられない!というほどクオリティの高い曲が詰まった」と帯に書かれるタイプの作品です。正直中盤なんかは聴いているとだれる部分も有りますが、A面の方にイマイチ乗りきれなかった私はより幅広いタイプの曲が入っているこっちの方が気に入っています。
今作を聴いていて痛感させられるのは、カーリーのボーカル力です。ボーカルによるフックが至る所にあります。まず冒頭の"This Love Isn't Crazy"。この曲自体はシングル用に作ったけど狙いすぎなんでボツにしました、みたいないかにもな派手さと80年代ポップスみ溢れる曲であまり好みではないのですが、サビでcrayzとcould save meでライムするところ、ここの二回の「クッ」の言い方がずっと浴びていたいくらいカッコいいです。何ならその前の「ベェ〜ィビ〜」から最高です。こんなにアルバムの一発目から「発音」に耳を惹かれたのはOasisの「イマァジネィシヨ〜ン」くらいといっても過言ではありません。
サビの歌詞とメロディを使い回す、メロウな"Felt This Way"と派手目な"Stay Away"といった面白い試みの曲もありますが、今作の一番の魅力はやはりそのボーカルによるフックだと思います。その他に私が好きなのは8曲目"Fake Mona Lisa"の1人多重録音と思われる、サビで重なる高音パートの「モナリッザ〜」、そしてその次の"Let's Sort Whole The Thing Out"のサビ「ゲットゥザボトムオブイッ」の「レッ」「イッ」を強調して吐き捨てるように歌うところです。元々どちらかといえば甘い声でギタポ映えしそうな人ではありますが、パワーポップ風の曲をここまで歌いこなすとは。今まで聴いていてカーリーのボーカルにここまで耳を惹かれることはありませんでした。
勿論本人のスキルによるところも大きいでしょうが、今作がB面集ということでいい意味で肩の力が抜けていたり、これまでにあまりなかったタイプの曲が収録されていることが要因でしょう。今作はカーリーのボーカルを聴くためのアルバムだと思います。
オススメ曲
その1: 9. Let's Sort The Whole Thing Out
アレンジこそシンセ主体の80年代ポップス風ですが、メロディはWeezerもかくやという感じのパワーポップです。ギター主体でやっていれば完全にそう。パワーポッパーにはその魅力に抗いようもありません。この人からは予想していなかった曲ですが、アルバムに一曲くらいこんな曲があってもいいと思います。
その2: 2. Window
この曲は一転して前作に入っていてもよさそうなメロウなR&Bで、こういった曲はすっかり手慣れたものです。あまりにも前作っぽいからボツになってしまったのでしょうか。
その3: 1. This Love Ain't Crazy
今作で最も派手なアレンジの曲です。曲自体はなんて事ないですが、なんと言っても聴きどころはカーリーのボーカル。しびれます。
点数
6.1
カーリーは「E・MO・TION」の時にも同じようにB面集を出しているほど多作な人です。「Dedicated」の製作時には200曲以上用意していたそうで、今作はその中から惜しくもアルバムに漏れた曲達ということになります。
しかし彼女の楽曲のクレジットからすると最近よくある1曲に何人ものソングライターが関わる方式のようで、近作で何をどこまで彼女が作っているのか実際のところよく分かりません。インタビューを読んだりすると何となく大槻ケンヂ的な感じの関わり方の気がしなくもないのですがどうなんでしょう。複数人が1曲に関わるってよく考えるとバンド名義のクレジットなんかでもそうなので、全部自作自演じゃないからダメという訳ではありませんが。
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