Matt Berninger / Serpentine Prison (2020) 感想
本家の哀愁
Taylor SwiftがThe NationalのAaron Desnerを起用したインディーフォークとメインストリームなポップの融合という、まさかの力技で称賛を浴びた今年ですが、The NationalのフロントマンMatt Berningerのソロデビュー作は、まさに本家からの回答と言えるフォーキーな内容です。
と言っても今作に色濃く漂うのはポップネスではなく、The Nationalの持ち味でもある中年男性の哀愁、諦念、ダンディズム。The Nationalのフロントマンのソロと聞いて誰もが抱く期待どおりの作品だと思います。
案の定Leonard CohenやNick Caveあたりが引き合いに出されていますが、Mattの声の放つ、男も濡れるダンディーさはなんなんでしょうか。
じっとりダンディ
「俺の目はTシャツ/簡単に読める」と独特な比喩で始まるもののどちらかと言えば地味な作風ですが、ホーンに彩られた曲群の美しさ、音の温かさが印象に残ります。この辺りは今作でプロデュースを手掛けたソウル/R&Bの大御所Booker T. Jonesの仕業でしょう。
今作で唯一、口ずさみたくなるようなキャッチーさのある3."One More Second"やジャジーなデュエット5."Silver Springs"、鬱についての独白6."Oh Dearie"(「皆がどうしてるのか分からない/先が見えないんだ」)など聴きどころは多いですが、個人的なハイライトはホーンやストリングスを取り入れた曲が集中する終盤です。
ワルツのリズムに乗せて歌われる7."Take Me Out Of Town"の哀愁と美しさたるや。かつて「その声に抱かれたい…」 なる恥ずかしいキャッチコピーをつけられたのはJames Morrisonですが、彼にこそ相応しいと思います。ベストトラックはこの曲です。
君はどこにいるんだい?/今くらいにはここにいると言っていたのに/もうすぐ着くと言っていたのに
君なしでどうここに居ればいいか分からないから/どう続けたらいいか分からないんだ
アルバムはThe Nationalに通ずる荘厳さのある"All For Nothing"を経て、Leonard Cohenライクなバラッド10."Serpentine Prison"で自己嫌悪と厭世観を漂わせながら終わります。
このジットリ疲れた感じこそがTaylor Swiftにはまだ出せない中年男性の強み。上昇曲線を描き続けるThe Nationalとは別の角度からその魅力を見せつける、圧巻のソロアルバムなのでありました。
誰も僕たちのことなんか考えちゃいない/そうしてほしいと思う半分も
何であろうと聞かないようにしている/冷たい皮肉/盲目なニヒリズム/中毒から逃れるために休暇が必要だ/蛇のような牢屋で迷ってしまったと彼女に伝えてくれ/完全服従、ヴィジョンを見たんだ/誰もが叫んでる中、僕は白昼夢を見ている/許可なく釣りをして悪かった
点数
7.8
もともとはBooker T. JonesがプロデュースしたWillie Nelsonのカバーアルバム"Stardust"を目指したカバー中心のセッションから発展したという今作。それも聴いてみたいです(アナログのデラックス版にはカバーが数曲付いているそうです)。
それにしてもAaron DesnerのTaylor Swiftプロデュースは言わずもがな、Bryan DevendorfのRoyal Greenなど相変わらず課外活動も充実のThe National。今年の来日(しかもPhoebe Bridgersとの対バン!!)中止が残念でなりません。
(参考記事)