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音楽的マイノリティーの寄港地でありたい

昨年の11月より、東京都荒川区南千住で小さな楽器店を営んでいる。
まだ始めたばかりなので、あまりお客さんは来ないけれど、少しづつ来店客も増えてはきている。

そもそも、楽器店を始めることになったのは「長年の夢であった」とかそういう理由ではなく、自分に今できることはこれぐらいしかなかったからである。過去10数年間楽器の会社を転々とし、すっかり楽器以外のビジネスに取り残されてしまった。

昨年の5月までは、ある楽器商社の役員をしていたのだが、仕事があまり上手くいかなくなってしまい悩んだ末役員を退任した。それ以来就職活動で200社以上の企業を受けたのだが、どこにも断られてしまい、本格的に仕事がなくなってしまった。

そんな矢先、前の会社の同僚と話していたら、やはり楽器業界で生きていくしかないのではないかと思い、楽器の仕事を探すことにした。しかしながら、それでもなかなか見つからない。前にいた会社の商売敵に就職するわけにもいかず、もし就職できたとしてもそれも何か違う感じがしていた。

そこで、最後の手段だとは思っていたのだが、自分で小さな楽器店を始めることにした。

楽器店と言っても、御茶の水にあるような総合楽器店は資金の工面ができないので問題外、その上激戦区で戦っていくためには家賃だけでなく、広告や品揃え等私個人の力では太刀打ちできない。そこで、自宅がある南千住で楽器店を始めることにした。

私は高校時代、毎週末のように地元札幌の楽器店を見てまわっていた。その中には今は既になくなってしまった小規模な楽器店がいくつもあった。そこには楽器や音楽に詳しい店員さん(店長さん)がいて、私のような商売の相手にもならない楽器好きの高校生相手に色々なことを教えてくれた。
レコード店もそうだった。新しい音楽を色々と教えてくれた。
それだけではない、私がある日高校をサボってレコードを見に行っていたら「君のような高校に行っている生徒が勉強をサボってはいけない。明日からはちゃんと学校に行くように」と説教までしてくれた。

私が高校時代それらのお店に出入りしていた頃は、大人になったらいつかは地域の人たちとそういうふうに交流できるような仕事をしたいと思っていた。

成り行きのような形で始めた楽器店を経営することで、図らずもそういう自分の漠然とした希望がある程度叶うかもしれない。

そのために、楽器店として採算を合わせていくことはもちろんであるが、同時に地域に馴染んでいくことを大切にしたいと考えている。
私の店はエレキギターだけでなく、スティールギターのようなプレーヤーの人口が少ない楽器も好き好んで置いている。それは、地域に馴染むだけでなく、そういう音楽的マイノリティーの寄港地のような場所にしたいという野望がどこかにあるからである。

昨今の商売は楽器店に限らず、インターネット上に店を構え、価格競争や希少性でばかり戦いを強いられることが多い。私の店も例外ではない。採算を合わせるためには、インターネット上に出店することは必要である。

けれども、それだけでなく実店舗を構えたのは「血の通った店」にしたいと考えているからだ。果たしてそれが上手くいくかはまだわからない。

総合楽器店や、大手楽器店に比べると品揃えでは負ける。知名度でも負ける。価格でもなかなか勝負できない。
それだからこそ、お客様にとって良いもの、価値のあるものを届けることにフォーカスしていきたいと考えている。その「価値」とは楽器奏者・楽器愛好家としての自分の居場所だと考えている。まずはリアルな世界で、行く行くはヴァーチャルな世界でも音楽的マイノリティーの寄港地になれるような楽器店にしていきたいと、心を引き締めて、今年は今日が仕事始めである。

皆様のご来店をお待ちしております。

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