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役割を演じ切ること。松任谷由実のacacia

妻が先日ラジオで聴いたと言って自宅で松任谷由実のacaciaを聴いていた。

私も一緒に聴いてみたのだが、聴いているとペダルスティールギターの音が聴こえてきたので、「ああこれペダルスティール入っているね」と話していた。

店で独りもう一度acaciaを聴いていると、確かにペダルスティールが入っていて、それもこの曲にかなり馴染んでいるので自然と溶け込んでいる。

普通、ペダルスティールが入っていると、カントリーミュージックの雰囲気一色になるのだけれど、この曲に関していえば特にカントリーという感じではなく、松任谷由実の曲になっている。アレンジャーの仕事の見事さが際立っているなあと感じ入っていた。

そう言われてみると、松任谷由実の曲のアレンジは(金がかかっているからか)凄く完成されている。必要十分な編成でリッチなサウンドを作り出していて、耳に残る。acaciaも今まで何度も聴いてきたけれど、改めて聴いてみないとペダルスティールが入っていることすら気がつかなかった。

ベスト盤を引っ張り出してきて、「卒業写真」を聴いていても、そのギターサウンドと、ハモンドのサウンドがBooker T & the MG'sのようで心地いい。ギターはさりげなく複雑なことをしているし、オルガンは最小限の音使いで曲を盛り上げている。

普段、カントリーミュージックを聴いていると、ペダルスティールは「主役」か「準主役」ぐらいの位置付けで音を鳴らしている。その楽器をこれだけさりげなくアレンジに加えられるのはなかなか簡単なことではないだろう。

かつて、職場にシンセ音源のピアノの音を聴けばそれがどの音源かがすぐにわかるという凄い同僚がいた。松任谷正隆の耳も彼の耳のように、アレンジを考えているときに、自然とそこに必要な音源の音があるのだろう。Hello My Friendのウソくさい音色のピアノと、ハモンドオルガンなど、聴いているものの感情を揺さぶるものがある。

聞くところによると、松任谷由実のレコーディングにはスーパープレーヤーがたくさん参加しているらしいが、これだけ裏方に徹する演奏ができるのは凄腕ミュージシャンでなければ無理だろう。普通の人が弾くとつい印象的なフレーズになりそうなところを、さりげなくこなしている。松任谷由実の歌が主役であり続けている。

acaciaでペダルスティールを演奏している方が誰なのか存じ上げないが(ベストアルバムにそれぞれのパートのクレジットの記載がない)凄い方が弾いているのだろう。

楽器というのは、いかに難しいことができるかどうかでなく、いかに自分の役割を演じることができるかが重要であるということを改めて感じさせられた。
いやはや、難しい世界だ。

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