1977 Rhodes Stage Mark 1レストア記その①
札幌に引っ越してきて、東京のように近所に楽器屋街があるわけでもなくなってわけで、もう楽器を買う習慣も落ち着いてくれるものだと思っていた。落ち着いてくれるものだと思っていた、と他人のことのように書いたが、私自身のことである。楽器を買うのは、なんだか見えない力に扇動されて行っているような妙な感覚すらあったからである。
あの、楽器を購入するときの妙な興奮はなんなんだろう。
そもそも世の中に楽器を習慣的に購入するような人間は少ない。楽器屋を営んだり、楽器屋で勤めているのでわかるのだが少ないは少ないが一定数存在する。特にギターのような持ち運べる楽器は比較的高い頻度で習慣的に買い求める方が世の中に存在する。我々楽器屋にとってみれば誠にありがたい存在であることは確かである。
私自身も、東京に住んでいた時はそのような人に似ているところがあって、良い楽器を見つけると無性に欲しくなり、結果として購入するということが時々(やや頻繁に)あった。やはり、ギターやトランペットなどの楽器の場合が多かった。多かったが、もうあれは済んだ昔の話かと思っていた。東京に住んでいるが為の流行り病のようなものだと考えていた。
しかし、この度買ってしまったのである。
それも、持ち運べるといえば持ち運べなくはないのだが、持ち運びができる楽器の中でも重量級の一台を。
1977年製Rhodes Stage Mark 1 Seventy Threeである。
私の記憶では1976年頃まではロゴにFender Rhodesと入った通称「フェンダーローズピアノ」なのであるが、1977年製のこれはRhodesと書かれたロゴが付いているRhodes Mark 1である。Rhodes Stage Mark 1 Seventy Threeはもう一台所有していて、今この文章を打ち込んでいるのはそのピアノの上に板を載せて机にしており、その上に載せたパソコンでである。こちらは1978年製である。私が初めて購入したRhodesがこの一台である。
今回購入したRhodes Stageはとても状態は良かったのだが、数カ所メンテナンスが必要だったので、その様子を紹介したい。また、今回の一台についてはAvion StudiosのRetroFlyerというプリアンプを搭載しようと考えているので、ゆくゆくはそれの取り付けとレビューについても紹介したいと思っている。
メンテナンスが必要と書いたけれど、実際今日できたのはクリーニングと鍵盤の高さ合わせとチューニング(音質調整含む)だったのだけれど、それらについて少しだけ紹介したい。
まず、これが届いて蓋を開けた状態。ネームレールと呼ばれる鍵盤おさえも取り外した状態だ。
経年と使用により鍵盤がかなり汚れていたので、鍵盤を取り外して一つ一つ磨いていく。
ハープアセンブリと呼ばれる音叉みたいのが付いている上の部分は、はじっぽのネジ2つづつで止まっているので、まずそのネジを外す。外したら写真のように上に引き上げる。これは、金具で半分止まっている状態なのでこの写真のように立てると安定するようにできている。Rhodesのメンテナンスは基本的にこの状態である程度はできてしまう。Rhodesいじりはまず、この状態にしてから始める。
この写真のように鍵盤を外していく。
鍵盤を磨かなければ何も始まらない。鍵盤が綺麗に見えても、大抵の場合鍵盤の下は写真のようにとても汚れているので、とりあえず鍵盤は外して見ることにしている。時々思わぬゴミが中から現れる。今回は何故か牛乳瓶の蓋と、割り箸が出てきた。
鍵盤を外すのは、掃除のほかにももう一つ理由があって、鍵盤の高さを揃えることである。Rhodesだけでなく鍵盤楽器の多くはバランスピンに付いているフェルトが摩耗したり潰れたりしており、鍵盤の高さがガタガタなことが多いので、そこに専用のシムを挟んで高さを調整する。
高さ調整は、なんでもいいのだが、鍵盤の一番手前に15cmぐらいの定規を当てて高さをみてシムを挟んだり外したりして調整していく。
鍵盤が全て外れたら、掃除機やら雑巾やらの出番だ。
ちょっと掃除するだけで、見違えるように演奏性も向上するので不思議なものだ。
Rhodesの鍵盤の高さ調整には通常のピアノ用のものと同じシムを使う。パンチングペーパーなどと呼ばれ、アマゾンなんかでも手に入る。
写真は鍵盤を拭き掃除し、さあいよいよこれから鍵盤の高さ調整をしようというところ。(調整中の作業工程は写真を撮り忘れた。)
鍵盤の高さが調整できたら、ハンマーやダンパー調整のため、ハープとネームレールを元のところに取り付ける。
この時、ネジを締める前に鍵盤のスティックがないか確認するべきであった。今回は低音の鍵盤下2つがスティック気味だったので、もう一度はずしフロントピンを磨き直した。
この状態まできたら、マイナスドライバーか専用工具でチューニングをし、音量バランスやら音色のバランスをとって、とりあえずのメンテナンスは完了となる。今回の所要時間約二時間。もっと鍵盤がガタガタだったり、故障箇所があったりすると、ここまでくるのに一日かかることも少なくはない。
今回は、Rhodes Stage Mark 1 Seventy Threeのメンテナンスの一部を紹介したが、実はまだメンテナンスが完了していないFender Rhodes 88が一台あり、部品が届いたら、そっちも仕上げなければならない。