偉大なTelecaster使いのシグネチャーモデル。 Steve Cropper Signature
私はFenderのTelecasterおよび、それにインスパイアされているギター全般が好きなので、店の在庫はおのずからそれに類したギターに偏ってくる。
テレキャスターといえば、こうでなければならないというこだわりが強いファンも多く、50年代初頭のブラックガードが好きな方はボディーはアッシュで、ネックはメイプルワンピースで、セレクタースイッチの配線はこうでなければならない等々、色々なポイントがあるだろう。
私はそんなにこだわりは強い方ではないのだけれど、それでも好みのテレキャスターサウンドというものははっきりとしている。
ギタリストで言えば、バック・オウエンズのバンドにいたドン・リッチのサウンドであったり、プレスリーのバックで弾いていたジェームス・バートン、最近のプレーヤーだとブラッド・ペイズリーの音が好きだ。三人ともカントリーミュージックをベースにしたプレーヤーであり、いかにもテレキャスターという音を出している。使っている機材は三者三様ではあるけれど、出てくる音はテレキャスターの他にはなかなか出せないサウンドであるというところは共通している。
しかし、テレキャスターと言えば忘れてはいけないと思っているプレーヤーがもう一人いて、それはスティーブ・クロッパーだ。
スティーブ・クロッパーは言わずと知れたBooker T & the MG'sのギタリストであり、数え切れないぐらいのヒットレコードでギタリストとして、プロデューサーとして活躍してきたプレーヤーである。リズムギタリストに徹する彼のギターサウンドは決して目立つようなものではないけれど、バンドサウンドの要と言えるグルーブを生み出していることは間違い無いだろう。
彼が参加しているアルバムはいくつも持っていて聴いているのだけれど、目立たない中でもバンドのグルーブを生み出しているという意味でマディソンスクエアガーデンで行われたボブ・ディランの30周年記念コンサートでの演奏も挙げることができる。
このコンサートは、スティーブ・クロッパー以外のスーパーギタリストも多数参加していて、それぞれに素晴らしい演奏を繰り広げている。特に、ジョニー・ウィンターの凄まじいスライドプレーは印象深かったし、エリック・クラプトンの原曲とは全くかけ離れたアレンジのDon't Think Twiceも素晴らしかった。
ボブ・ディランの30周年記念コンサートの様子は当時テレビでも放送されて、確か盆時期だったような気がするけれど、私は今はなき祖母の家の古いテレビのモノラルスピーカー越しに観た記憶がある。
祖母のうちの故障しかけたテレビからは、本物のロックミュージックが流れてきた。スティービー・ワンダーが「風に吹かれて」の長いイントロのMCをやったのも観たし、The Bandの演奏も記憶している。
裏番組を見ようとしていた従兄弟に、ちょっと10分だけ観せてくれと頼み込んで結局一時間ぐらいはテレビを占領した記憶がある。
テレビの向こうのそのコンサートでリズムギターを刻んでいたのがスティーブ・クロッパーだった。本当に目立たない存在ではあったと思うのだけれど、その時彼が手にしていたギターがカッコよくて、エレキギターと言えばストラトキャスター一辺倒だった私(ギターは一台しか持ってはいなかったが)にも彼の持っていたギターが輝いて見えた。
今思えば、あの時スティーブ・クロッパーが持っていたギターはフェンダーのテレではなく、PeaveyのSteve Cropperモデルであった。テレキャスターというギターについてはほとんど何も知らなかった私にとっても、彼の持っているギターは間違えなくカッコよかった。
今、店にPeaveyのSteve Cropperモデルの現物があるので、じっくりと観てみたのだけれど、随所にSteve Cropperのこだわりが感じられる仕様となっている。まずは45mmのナット幅と薄型のネックグリップ、これがなかなか他のギターにはない仕様である。特に薄いグリップのネックはテレタイプでは珍しいのだけれど、幅広いナット幅のおかげでローポジションとハイポジションでのコードを弾いた時のギャップが少なく握りやすくできている。彼のプレイスタイルからくる独特の仕様だろう。
また、ピックアップも独特のレイアウトである。
シングルピックアップサイズのツインブレードのハムバッカーが付いている。フロントに一つと、リアには2連でハムバッカーが搭載されている。
ツインブレード2つという変則的な仕様でパワーは強いのだが、案外これが使える仕様である。コイルタップは一応ついているのだけれど、これはサウンドというよりもフロントピックアップとのパワーのバランスを取るためについているのかもしれない。
トップのフィギュアド・メイプルも迫力があるので、スティーブ・クロッパー先生になりきりたい方にとってのマストアイテムであるというだけでなく、リズムギターを刻みまくりたいというギタリストにはとても弾きやすい仕様になっている。
とても個性的なシグネチャーモデルではあるけれど、さすがSteve Cropper Signatureを語るだけあり、なかなか合理的なところもあるので、気になった方は是非現物を見てみてほしい。