ギャロッピングギターの巨匠Merle Travisのギター
カントリーミュージックの始祖として筆頭に挙げなければならないギタリスト・シンガーは間違えなくMerle Travisだろう。
彼の功績は、数多くのカントリーミュージックのスタンダードを生み出したことに留まらず、Chet Atkinsをはじめとするその後のフィンガーピッカーが駆使するギャロッピング奏法原型を作ったことだ。
彼のギター奏法はTravis Pickingとも呼ばれており、先に挙げたChet Atkins、Buster B Jones、Lenny Breauなどのカントリーミュージックのスーパーギタリストから、現代の名手Tommy Emmanuel、それに続くフィンガーピッカーまで数多くのギタリストのプレイスタイルの元となった。とにかくギャロッピング奏法(Travis Picking)はカントリー ギター奏法のベーシックスタイル(実際はかなり難しいのだけれど)であり、ロカビリーギターの奏法でも登場する。ロカビリーギタリストBrian Setzerもギャロッピング奏法の名手だ。
そのようなカントリー ギター奏法のベーシックをつくったMerle Travisも元々はカントリー ブルースギタリストやIke Everly(Everly Brothersのお父さん)のギター奏法に多大な影響を受けていたりする。実際、Merle Travisよりも少し上の世代に当たるMississipi John Hurtのギタースタイルはほぼギャロッピング奏法とも言えなくもない。しかし、Merle Travisはそれを「完成させた」という意味でカントリー ミュージックに多大な功績を遺した。
そんなMerle Travisの楽器で有名なのはまず、BigsbyトレモロユニットがついたGibsonのSuper 400だろう。彼の特注のSuper 400は指板にMERLE TRAVISというインレイが埋め込まれており、ヘッド部分の装飾も凝っている(ド派手)。Super 400のボディーの大きさをカバーするためもあるとは思うが、搭載されているBigsbyトレモロのハンドル部分がとても長く、スムーズなビブラートがかけられるようになっている。
彼はキャリアの中で、数本のSuper 400を所有しており、そのうちの晩年に使用していた一本は2007年の4月にクリスティーズのオークションにかけられ、36,000ドル(安いような気がする)で落札されている。
NashvilleにあるCountry Music Hall of Fameにも、彼の所有した一台が飾られている。いつかは見に行きたいものだ。
Gibson Super 400以外にもアイコニックなギターを使っているMerle Travisだが、その中でもGuildが彼のために作ったスペシャルモデルもすごい。
この個体、現在はチープトリックのリック・ニールセンが所有しているようだが、Guildでこんなギター他に見たことがない。ベースになっているモデルがあるのだろうか?
Merle Travisは50年代にGuildの他のモデルも使用しており、一時は楽器の通販サイトReverbに出品されていた(30,000ドルぐらいだった)。Guildとエンドース契約を結んでいたのだろうか、彼のアルバムジャケットにも何度か登場する。
そして、何と言っても忘れられないのがPaul Bigsbyが彼のために作ったMerle Travisモデル。
このギターは正確にはホローボディーなのだけれど、後にFenderやGibsonが製造するソリッドボディーのエレクトリックギターの原型とも言えるギターである。
このギターをBigsbyが製作したのが1946年、Fenderが初のソリッドギター、エスクワイヤを発表したのが1949年だから、3年も先駆けてBigsbyはこのギターを製作していたことになる。
そして、もう一本Merle TravisのBigsbyといえば、MartinのD28のネックをBigsby製作のネックに付け替えているギターも有名である。
また、意外なことに、BigsbyはMerle Travisのためにスティールギターも製作している。Merle Travisがこのスティールギターを演奏している写真や映像は見たことがないが、彼もスティールギターのスタンダードナンバーを演奏している録音が残っていることからも、おそらくどこかでこのスティールギターを使っていたのだろう。
なんともプリミティブな8弦スティールギターだが、なんとなくカッコイイ。ケースと一体になっているところが、どうもドサ回り向きなところも良い。
まだまだ、Merle Travisの愛用楽器はあるのだが(Martinの2-27とか、GibsonのSuper 200とか)今日はこの辺りにしておこう。