憧れのカフェ・カーライルとBobby Short
CAFE Carlyle、憧れの響である。
ウディ・アレンの映画"A Rainy Day in New York"をご覧になった方は、映画の中でこのカフェ・カーライルが印象的に登場したのを覚えていらっしゃるかもしれない。私はニューヨークに行ったことがないので何にも知らないのだけれど、アールデコ建築の高級ホテル「The Carlyle」に何とも言えない憧れを感じている。
高級すぎて、泊まってみたいとか、行ってみたいとか、そういう憧れではなくて、もっとミーハーな気持ちの憧れである。「有名人が宿泊するマンハッタンのホテル」という知識だけでカーライルに憧れる理由には十分であろう。そして、そこにあるこのCAFE Carlyleは数多くの大物ジャズプレーヤーが出演している。
カフェ・カーライルにはほぼ専属のピアニスト兼ボーカリストがいたらしく、他でもないBobby Shortなのだが、彼の演奏を一度でいいから生で聴いてみたかった。残念ながら亡くなってしまったのだけれど、その少し地味で、小洒落た歌声の魅力は彼の残したアルバムからも充分伝わってくる。
カーライルでのライブ録音のアルバムはどれぐらい出ているのかはよく知らないけれど、今夜はGeorge ShearingがベーシストDon Thompsonとのデュオでカーライルに出演した時の実況録音盤を聴いている。ジョージ・シアリング、私はほとんど彼のアルバムを持っていないのだけれど、大物ジャズピアニスト(歌も上手い)である。
このアルバムはカーライルの空気感のようなものを含んでいて(想像だが)、控えめなお客さんの拍手やら、スタンダード曲ばかりのセットリストからもこのステージの雰囲気、客層が伝わってくる。きっと、あまり多くない客席、じっくり音楽を聞きにきているというよりも、お酒やお食事を楽しみながら聴いているのだろうか。そういう雰囲気にジョージ・シアリングの音楽はよく合っている。これがバリバリのハードバップや前衛ジャズではカーライルのイメージ(勝手な)が壊れてしまうのだ。
写真で見るかぎりカフェ・カーライルには今はスタインウェイのグランドピアノが設置されているようなのだが、Bobby Shortのライブ盤のジャケットにはBaldwinのピアノが写っている。きっと近年に入れ替わったのだろう。ニューヨークのホテルなのだから、もちろんスタインウェイでも当然なのだけれど、Baldwinだってアメリカを代表するピアノブランドなわけだから、頷ける。
しかしBobby Shortが亡くなった際には彼の所有していた1971年製のC.Bechsteinのグランドピアノがクリスティーズのオークションにかけられていた。インターネット上にあった記事によると、彼が長年カフェ・カーライルでも弾いていたものだという。(本当かな?彼の自宅にあったものではないだろうか)
ベヒシュタインのブランドはかつてボールドウィンの傘下でもあったわけだから、ベヒシュタインを愛用していたBobby Shortがボールドウィンのピアノを弾いているのは自然な成り行きだったのかもしれない。
このジョージ・シアリングのライブ盤は1984年録音のものだから、演奏されているのはおそらくボールドウィンだろう。ベヒシュタインの音のようには思えない。
ボビーショートのライブ盤のジャケットをよく見ると、こちらには「ピアノはボールドウィンです」と書かれている。こちらは1992年録音。
謎は謎のままにしておいてもいいかもしれない。
そんな、どうでもいいことを考えながらジョージ・シアリングを聴いていた。