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カントリーのGuitar Slingerたち(Talecaster編 Scotty AndersonとJerry Donahue)

先日、Danny Gattonについて書いた際に、Danny Gattonは一般的にはカントリーミュージックのギタリストではないと書いたが、Danny Gattonがカントリーでなかったら、この二人はどうなんだろうと思い、ラックからCDを取り出して改めて改めて聴いてみている。Scotty AndersonとJerry Donahueだ。

改めて聴いてみると、Scotty AndersonのプレイスタイルはDanny Gattonにとても似ている。超高速のダブルストップフレーズ、ギャロッピングはDanny Gattonばりの超絶技巧である。

でも、Scotty Andersonはなぜかカントリーの香りを強く感じる。Danny GattonとScotty Andersonの違いはどこなのだろう。

Scotty Andersonのギタープレイには、カントリーの常套句だけでなくて、まるでマヌーシュ・スィング(ジプシー・ジャズ)ジャンゴ・ラインハルトのようなのも見え隠れする。Danny Gattonのジャズギタープレイとは少し違ったヨーロピアンな雰囲気だ。

ヨーロピアンな雰囲気は、カントリーミュージックとは逆をいっているような気がするけれど、彼のアルバムを聴いていると、それが彼のカントリーミュージックの世界に上手く同居しているのだ。

どこかで、こういうギター聴いたことがあるなぁ、と思ったら、Chet Atkinsだった。Chet Atkinsの場合はもはや世界中のギタースタイルを基にしてカントリーミュージックに昇華しているので、誰かと比較できるようなものではないのだけれど、Scotty Andersonも似たような意味で、様々なギタースタイルを自分の音楽に昇華している。

例えば、彼のアルバムの"Triple Stop"の6曲めでは、まるでSANTANAのようなバラードプレイを聴かせている。SANTANAのような泣きのギターに、George BensonやMartin Taylorのような様々なジャズスタイルを織り交ぜた一曲に仕上がっている。このトラックだけを聴いたら、カントリーミュージックとは少し違う感覚がするのだけれど、同アルバムの7曲めのギャロッピングで聴かせる一曲と並んでいても、特に違和感を感じない。
これは、なんなんだろう?なぜなのだろう。

彼の音楽は一つ一つのトラックが様々なスタイルで完成されており、かつ、アルバムに纏められると、一つのカントリーミュージックのショーケースに仕上がっている。超絶ギタリストの超絶テクニック見せびらかしアルバムでは有るのだけれど、全曲通して聴ける。大して疲れないで聴き通せる。

これこそは、カントリーギタリストの御家芸とも言えるのかもしれない。と、いうのは、同じく超絶ギタリストのRoy Clarkの初期のアルバムも、こんな感じで、様々なスタイルが入り組んだ作品だった。先に挙げたChet Atkinsも、Lenny Breauのアルバムも、こういう風に色々なギタープレイのスタイルが詰め込まれたアルバムである。

カントリーミュージックって改めて聴いてみると、案外こういうごっちゃ混ぜの要素もあるのかもしれない。まあ、もちろんPatsy ClineやDolly Partonは一貫したスタイルがあるけれど。Willie Nelsonは色々な音楽の影響が現れているし、彼の場合その色々なスタイル別にアルバムを制作しても、Willie Nelsonの音楽になるからなぁ。

Scotty AndersonとDanny Gattonとの違いは、案外そこなのかもしれない。とっても自信がない結論になってしまった。

今日、もう一枚のアルバムを聴いている。
Jerry Donahueの"TELECASTING RECAST"だ。

彼のカントリーミュージックに無理やり分類するのは気が引ける。むしろ、これってプログレッシブ・ロックだろうと思うような楽曲なのだから。しかし、その音楽を構成しているのは、バンジョーやフィドルのようなブルーグラスっぽい要素だったり、Jerry Donahue自身のカントリーミュージックに根付いたギタープレイなのだ。

Jerry DonahueはWill Ray、John Jorgensonと三人でHellcastersという、カントリー テイストのプログレユニットを組んでいるので、そっちで知っている方も多いだろう。イギリス生まれの彼は、Fairport Conventionのようなイングリッシュ・フォークバンドを経て、いつの間にかカントリーギタリストの一員として認識されるようになったのだが、やっている音楽はプログレ、というちょっと変わったミュージシャンだ。

本当にコアなカントリーミュージックファンが彼のアルバムを聴いたら、「こりゃ全然カントリーじゃないわな」とおっしゃるかもしれないけれど、皮肉なことに彼ほどオリジナリティーが高く、カントリーっぽいギターが弾ける人も珍しい。

Jerry Donahueはギタリストに人気のある所謂Musician's Musicianなのだろうか、色々なギターメーカーからシグネチャーモデルが出ている。
初めはFender Japanから発売されていたと記憶している。それからFender Custom Shopが彼のシグネチャーモデルを作っていた。Fender Japanの方々はよくぞJerry Donahueのシグネチャーモデルを作ってくれた!そのシブいセレクション、普通のギターメーカーは絶対やらないでしょう。だって、売れなそうだもの。

それから、Fretkingが彼のシグネチャーモデルを出していた。そのあと、Vintageが彼のモデルを作っている。
Fenderはまだわかるとして、彼のシグネチャーモデルを作るギターメーカーはどこもセンスがいいなぁ。Jerry Donahueこそギタリストが憧れるギタリストなのだから。

そして、彼のシグネチャーモデルのピックアップがセイモア・ダンカンから発売されている。私は、自分のテレキャスターのピックアップをこのJerry Donahueモデルに交換したりしている。ダンカンだから、Fenderのピックアップのような官能的な音は出ないのだけれど、Jerry Donahueのシグネチャーモデルっていうだけで、もう十分である。

Scotty AndersonもJerry Donahueもギター愛好家以外のリスナーが果たしているのか、ちょっと心配になるぐらいギターが前面に出ているアルバムばかり作っているけれど、普段ギターを弾いたりしない方にも、ぜひ聴いていただきたい。とは言ったものの、この記事を読んでくれるのはギタリストだけか。

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