見出し画像

貧困にふれる

職を探していた。

交通費ありで時給がそれなりに良くて稼げるところ。

アルバイトの面接を受けた。カラオケ、スーパー、ファストフード。
学校があるから長くは入れませんと言った。すべからく全部落ちた。

長期だから落ちるのかと思い、短期の、土日しかしないアルバイトに応募した。
ドームでやっているセールのバイト、モールの売り込みスタッフ、イベントスタッフ的なやつ。

「平日入れる人を優先してまして〜〜」

いやいやいやいや募集には土日だけOKって書いてたじゃん落ちるフラグじゃん?

落ちた。コロナで仕事を失った人たちの応募が殺到していると面接官から聞いた。

仕事を失った社会人たちに昼間学生が勝てるわけない。仕方ない。

ということですべりこんだ低賃金仕事をちまちましながら、夏休みに入った。
今度はもう、間違えて時間を無駄にしたくなかった。


コールセンターに応募した。短期の。六件くらい応募して、全て派遣会社に登録をさせられた。電話がかかってきてもどこの会社か分からなかった。

週七で、夜勤以外ならいつでも入れますと、言わなければいけなかった。そうでもしなくては受からないと体感していた。

「ここだけは譲れない、などの条件はありますでしょうか?」

そんなものは無かった。というかできれば週四で職場の雰囲気を見学させてほしいくらい言いたかったけど、そんなことを言えば不採用になるのは目に見えていた。

「明日入社の案件があるんですけれどもーー」

かなりしつこく連絡してきたひとつの会社に、こう言われた。

え?明日入社って何?

聞けば、事前研修もなく、先輩に教わるような雰囲気の仕事らしかった。口伝かよ忍者じゃあるまいに。交通費は出なかった。しかも週5で土日出社確定。

いやね、別に良いんですよ。別に良いんですけど、

明日入社って何……?

そこまで日本は人材に困っているのか。
明日出社をするほど人手が足りていないのか。
自分はこの案件を受けるべきなのか。
他の会社で採用待ちはあるけれど電話がかかってこないのはそういうことなのか。
明日出社って、普通にブラックなんじゃ……?

口ごもる唇。畳み掛ける派遣会社の社員。逡巡する思考。クソ暑い夏。部屋の温度下げたい。下げれるくらいの金の余裕ほしい。

もう仕事がなさすぎて、これに縋るしかなかった。金がない。怪しいな怖いなとは思いつつ、案件を受けるしか選択肢がない。

大丈夫なのかこの国は。
交通費も出してくれない低賃金のアルバイトで、事前研修もないアルバイトで、良いのか?人材に余裕がなさすぎなのでは?

コロナの無い世界のときは、土日だけ出勤でも許してくれた。勉強頑張ってねと言ってくれていた。

この国は今、誰にも優しくないのだろう。
搾取される側はずっと搾取され続け、それを当たり前だと思わされていく。
弱い者から時間もお金も取られていくから、いつか学生などやっている余裕はなくなるかもしれない。奨学金を借りていても定期代や通信費や家賃代で逼迫され、休学すれば奨学金が止まり、結局退学になるかもしれない。というかなる。絶対にそうなる。

せめて卒業までは学生をやっていたい。

そう思った。
誰も助けてくれないと思うのは、皆そんな余裕がないから。

明日も働く。
交通費の出ない低賃金のバイトで。


明日が来なければいいのに。

いいなと思ったら応援しよう!