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開業したらコロナがやってきた①

「開業したらコロナがやってきた」そんな事業主は私だけではないだろう。

2月の半ばに15年ほど勤めた病院を辞めた。3月中に開業準備をして4月から心機一転、メインの生計を小さいながらも自分のカウンセリング・ルームで得ていく…開業した理由はいろいろあれど、私にとっては小さくはない決断だった。

しかし、コロナがやってきた。

病院から移籍してくれたクライエントさんたちは3月から細々とカウンセリング・ルームを訪れてくれることになっていたが、それだけでは生計には足りない。新しいクライエントさんに出会っていくことを楽しみにしながら、3月に入ると、新規クライエントさんや仕事を迎える準備をしようとする私のテンションは高まっていたものの、「感染拡大による自粛」で研修などの仕事をいくつか失い、人の移動も抑えざるを得なくなってきた。

「カウンセリング・ルームまでぜひお越しください!」「もしくはおうちに伺います!」などもそう声高にも言いにくい。カウンセリング・ルームなどの消毒や換気を行って、webカウンセリングも試みながら、地方自治体などからの外出禁止の要請が出るまではカウンセリング・ルームを開けることは決意したものの、「このままではいつ新規のクライエントさんに晴れ晴れとした気持ちで来てもらえるのか?」という焦りや、「マスク越しの声や表情でなくクライエントさんとお話ししたい…」という不全感で宙ぶらりんな気分のまま、3月がもう終わりを迎えようとしていた。

私は大阪在住だが、仕事の打ち合わせや会食・会合などを用事を固めて上京する習慣がある。いつもは「ここぞ!」ばかりに私用も含めて詰め込むのだが、さすがに3月はアポもバラバラと歯抜けでタイムスケジュールは虫の食ったボロボロのテープのようになっていた。けれど、コロナで調子を狂わされていることへの不満や困惑を振り払うかのように、家族や友人がやんわり引き止める中、私は新幹線に乗り込んだのだった。

そして、小池都知事が「感染爆発の重大局面。今週末の外出自粛を」と要請した3/25の次の日、東京の街を歩いていた。

風景自体はいつもとほとんど変わらないのだろう。

しかし、確実に人は少ない。気になっていたけどいつも人が並んでいたので敬遠していたカフェにも並ばずに入れるし、店内もガラガラ。歩道も人と人の距離を1〜2メートルくらい保って歩ける。どんくさい私が誰にもぶつからずに歩ける。

東京なのに!!

それほど人混みが得意ではないので、普段は喧騒の中で人・人・人…の流れに目が向いてクラクラしてしまい目が向かないが、1つ1つの店頭やショーウィンドウに目が向く…そんな中の一つに、ちょうど開店日の飲食店があった。

カラフルで華やかな開店祝いの花輪がいくつも並んでいるけれど、こんな時は花輪の明るさが少し調子外れにも見えてしまう。入り口から覗く店内も広くはない。席と席が近くアットホームな雰囲気で、客で賑わうと外まで活気や楽しさが溢れてくるのだろう。しかし、それもこんな時は「濃厚接触」という言葉が頭に浮かんでアラートが鳴った。

店長かマネージャーと思しき中年の男性がマスク越しのこもる声で客の呼び込みを行なっていた。本当は彼にとっても晴れがましい、希望に溢れた日であるはずであろうに表情はどこか困惑して、疲れて、声も張り切れていないようだ…

不安・困惑・焦り・苛立ち・失望・混乱…いろんな感情が彼の中に渦巻いているだろう。「こんなはずじゃなかった」

そりゃそうだよね、と、自分の中にもある感情も少し重ねて彼を見ていた。

すでに、メディアではコロナウイルスそのものでなく、それに関連した苦痛での自死を報じていて、ウイルスはきっといろんな人の心をその感染力よりもさらに早く広く蝕んでいる。それを実感した一瞬。

私、どうしよう?こんな世界で何しよう?何できる?

でも、こんな時に宙ぶらりんなんだから、どこに振ってもいいよね。

開業したらコロナがやってきた。

コロナもクライエントかもしれない。

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