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ふと思いついたこと。

「その瞬間は、清々しいんだよね。」

彼女が言った途端に、冷たい空気が
部屋の中をさあっとよぎった気がした。


それは、寒い冬の朝には
冷たすぎる気もしたけれど、
嫌な感情にはならなかった。


むしろ、
もっと遠くが見えるような

今まで目にしていなかったものが
急に映るようになったような

そんな気がして、
思わず目を擦った。


発言した彼女は、写真家だ。


知り合ったのは、
同じ人が主催する「朝活」。


そこで一緒になった。



それまでは、
会う機会もなく、

もちろん、
会話したことすらない。



参加している「朝活」は
オンライン上で行われている。


毎朝決まった時間に
zoomという
ビデオ電話のようなアプリを起動し、
参加者が集まる。


日々を送る中で
ふと気づいたことや

出来事から感じたことを
話す空間だ。


そこで彼女と出会った。


主催の女性は
笑顔が魅力的で、

「彼女がやるなら参加したい」と
思う人がたくさんいた。



写真家の彼女も
その一人なのだろう。


私は、そう勝手に推測している。


気づいたことを
発言する時間に、

写真家の彼女が言ったのだ。


「写真を撮る、
 その瞬間は清々しいんだよね。」と。



ときどき、
そういったキーワードになるような
発言を聞くと、


見えるものがある。


「言葉」から
イメージがどんどん出てきて
目の前に広がるような
そんな感じ。



まさに
key(鍵)だ。


その瞬間
私はみんなと同じ場所にいるけれど

同じ空間にはいないのだろう。



だから思うのだ。

彼女も同じタイプだ、と。


もしかしたら
別の空間に飛べるんじゃないだろうか。


カメラのファインダーを覗いた瞬間
スイッチが入る。



周りの喧騒が
波が引くように消えていく。



しんと静まり返った世界で
ただひたすらカメラを覗く。



水たまりに映し出された
もう一つの世界に
入ることができる瞬間は希少だ。


うまく入り込めたとしても
切り取ることは難しい。


一瞬しか見えない
その世界のかけらを切り取るためだけに

彼女はシャッターを切る。



寒空の下、
息を吐くことも忘れて

ただその瞬間を待っている。


神聖な何かが
目の前を通るのを

敬虔な気持ちで待っている。


自然が作り出す
その宮殿の天蓋が見える瞬間を



切り取ったかけらを確認するまで

ずっと夢中になっているのだろう。



見えているものと
同じ写真が撮れた瞬間の

会心の笑みを想像すると


いつかその瞬間に立ち会えたら
素敵だろうな・・と夢想している。



fin.







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