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20歳の私に希望をくれたお寿司ランチ

社会人になりたての20歳の私はただ緊張していた。
なぜなら、私は場違いの丸の内で勤務していたからだ。
東京駅のレンガ造りの立派なただずまいも、重役出勤の高級車も、有名大学出身の同僚も全部があなたは場違いよ!と言っているように感じた。

それはただの被害妄想なのだけど、短大卒は私くらいで、何かの間違いで配属されたのだと思い込んでいたから出勤は憂鬱でまるで鉛をつけているように重い足取りになった。
 
社会人も2ヶ月が過ぎて6月になっていた。会社で何の活躍もしていない無能なOLだった私にもボーナスが支給された。
20年以上も前の話しでうる覚えだが、たしか12万円が出た。
懐も潤った時を待ち構えていたかのように短大時代の友達から連絡がきた。
「ボーナスが出たんだし美味しい物を食べよう」
そうだ、お給料もすぐに支給されるのに12万円もの大金があるのだ。
大富豪にでもなったかのような気持ちで今日は贅沢をしようと意気込んだ私たちは、安くて美味しいと有名なお寿司屋さんに並んだ。
そこで金額を見て驚いた、一番いいランチの握りのセットが2000円もするのだ。

たっ高い、緊張で吹き出す汗。学生時代はファミレスでも飲み物をつけるか悩んでいた、社会人になってファミレスで飲み物と食事を悩む事なく頼めるようになっただけのまだまだひよっこだ。

せっかく並んだのだからと友達と私は意を決して2000円もする一番いい握りのセットを頼んだ。
緊張しながらしばらく待っていると大トロ・うに・いくらと豪華絢爛な寿司下駄が到着した。
普段食べた事がない高級のネタがキラキラしていて何から食べたらいいのかキョロキョロしてしまった。

しばらくキョロキョロした後に友達と目が合いお互いうなずいて元気よく「いただきまーす!」と食べ始めた。
どれも美味しくって感動しながら食べ進めていたが、ある問題に直面した。
それは、大トロをいつ食べるか問題だ。最後なのかまだお腹いっぱいになっていない今なのか。。。
それは、友達も同じだったようで再び目があった。
二人で同じタイミングで大トロを食べよう!
女子特有のトイレに一緒に行こうのノリのようにお互い向かいあって大トロを持った。
ゴクリと唾を飲み込みピンクに白いサシが入ったキレイな大トロを口にほおりこんだ。
途端に口からとろける何とも言えない旨味に目が見張らき、思わず笑顔がこぼれた。
それも友達も同じだったようで満面の笑顔で互いに「美味しい」と口から感想がこぼれた。
こんなにも美味しい物が世の中にあったのか!

大人になるとこんなにも美味しいものが自由に食べられるのか。満たされたお腹と自分のお金でお寿司を食べたという高揚感で興奮ぎみに友達とまたボーナスが出たら食べよう!とお互いに誓ってその日は解散した。

それから仕事を頑張りまた、次のボーナスで友達とお寿司を食べた。
その頃から私たちは、「贅沢は自分のお金で!」を合言葉に仕事に邁進した。
時には英語の勉強のために各々違う国へ留学をしてメールで励まし合い、切磋琢磨した。
私達は、人並みのお給料を貰えるようになりあの時の2000円のお寿司ランチより高級な物を食べられるようになったが、あの時食べたお寿司、特に大トロは格別だった。
なにしろ20歳そこそこの小娘が大人になったと自覚して働く希望を見つけられたお寿司なのだから。

そして20年あまりの月日は流れ友達は仕事に邁進し現在、外資系企業の管理職をしている。立派なキャリアウーマンだ。

私はというと。。。
結婚して子供ができ、あんなに頑張って働いた会社はあっさり辞めた。もっと大切にしたいものができたのだ。今はパートをしている実に平々凡々な主婦だ。
もう少し大きくなったら今度は、息子とお寿司屋さんに行こう!あの感動を息子に味あわせてやりたい。そう心に決めた、平々凡々の今の生活もそう悪くないと思った。



#元気をもらったあの食事

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