クリスチャン・ボルタンスキー氏が教えてくれたこと
昨日、クリスチャン・ボルタンスキー氏の訃報を知りました。
76歳だったとのこと。
クリスチャン・ボルタンスキー氏は「生と死」をテーマとした体感型アートとも言えるインスタレーションの作品を多く手がけた現代美術のアーティスト。
私が彼のことを初めて知ったのは、大地の芸術祭の「最後の教室」。知人のSNSでの投稿がきっかけでした。心臓音と共に明滅する照明…なんだかすごそうだなぁというのが最初の印象です。
実際に彼の作品に触れたのは瀬戸内国際芸術祭に行ったとき。豊島の「心臓音のアーカイブ」です。
海沿の浜辺にひっそりと佇む美術館。
館内ではこれまでにボルタンスキー氏が集めた世界中の人々の心臓音が恒久的に保存されてあり、それらの心臓音を聴くことができます。
そして別料金を払えば、自分の心臓音を録音し、それをCD化して持ち帰ることもできます。
ここで私も自分の心臓音を録音してきました。自分の心臓の音なんてめったに聴くことがないので、不思議な気持ちでした。
自分の心臓にフォーカスすることで、普段当たり前に息をして動く私の身体の動力源に感謝の気持ちを抱きました。何気なく過ごしているときも、ずっと心臓が動いてくれているんだなと感じました。
また、館内に響く心臓音はさまざまで心臓にも個性があることを体感することができました。
同じく豊島で2016年に制作された「ささやきの森」は森林の中に設置されたインスタレーションで、400個の風鈴が風にたなびいて音を奏でます。
ここでは自分や自分の大切な人の名前を透明な短冊に書いて風鈴に吊るすことができます。
日々の喧騒から離れて風に揺れる風鈴の音を聞いていると、誰かに優しく語りかけられているかのような感覚になりました。
「心臓音のアーカイブ」、「ささやきの森」はどちらも他の作品の拠点から少し離れたところにあります。これらの作品に辿り着くまでの道程は決して短いものではありません。
そこには作者の隠れた意図があるような気がします。その道中も含めて作品なのかと思わさせられました。
なんでも時短で便利なものがもてはやされる現代において、一旦スピードを緩めて立ち止まって考えてみようよと言ってくれているような気持ちがしました。
心臓音も、風鈴の音も、作品への道程も普段見過ごしているものや自己の内面を見つめるきっかけを与えてくれました。
ボルタンスキー氏のこれらの作品は恒久作品として残されています。
次回、作品に向き合ったときはまた違った感覚になっていたりするのかもしれない。
それを楽しみにまたうかがおうと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?