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Valeur


うらぶれた画家が公園でスケッチをしていた。
そこへ貴婦人が通りかかった。
「あら、あなた画を描くのね。ちょうどいいわ、私を描いてちょうだい。」
画家は求めに応じた。
画家はしばし貴婦人を観察すると、鉛筆をつかみ、
するするっと一筆書きで貴婦人の肖像画を描いた。
「なんて素敵なんでしょう。たった一本の線で私の本質を描き出しているわ。」
貴婦人はたいそう感激した。
「これいただくわ。おいくらかしら?好きな金額を言ってちょうだい。」
「5000ドルです。」
「なんですって?!」
貴婦人は顔色を変えた。
「たった1秒で描いた絵をなんでそんなに高く買わなきゃいけないの!」
画家は言った。
「奥様。私がこれを描くのに費やした時間は、これまでの全人生ですよ。」
「なにを生意気な。そういうセリフは有名になってから言いなさい。あなた名前は?」
「ファン・ゴッホといいます。」
「聞いたことないわね。いらないわそんな落書き。」


画家の落書きは時を経て、
いまオークション会場の舞台にあがった。
司会者が口をひらこうとしたとたん、
世界中の富豪の手がいっせいにあがった。




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