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思い出の船を心の海へ
お母様を亡くされたばかりの友人が、こんな言葉で心境を話してくれました。
「思い出の船を心の海に流すような感じ。
今はまだ波打ち際なので、寄せては返す波のように、大きな悲しみが不意に襲ってくるけど、引くと笑ってたりする。
凪に行くまで待つしかないのかなぁ」と。
私も大切な人を何人も見送ったので、この寄せては返す波というものが体感として伝わりました。
父が亡くなった直後は涙も出なかったのに、
ある時ふいに、なんでもないやりとりが甦ってきて
涙が溢れてきたことがあったり。
師匠の突然の死に涙しても、可愛らしい思い出に笑ったり。
今、母も看取り段階に入り、いつ召されるかわかりません。
毒親気味だった母ですが、面白くて楽しい人でもありました。
(あ、過去形ですがまだ生きてますよ)
なので、今、臨終が近づいてくると楽しい思い出だけが波のように押し寄せてきます。
『こんな母キライ!こんな母ならいなくていい!』
と思ったような重い暗い思い出は遠い遠い記憶の海の底に沈んでしまったようです。
友人のお母様と違って急ではなく、うちの母は何度も死にかけてるし、この数年は病院を出たり入ったりだったので、常に波打ち際にいるような感じです。
その波打ち際に、今は楽しい思い出の船ばかりがプカプカ係留しています。
もうすぐこの船たちを沖に流す日が近づいています。
きっと流したあとも、しばらくは幾度か悲しみや後悔を乗せて戻ってくることもあるでしょう。
それをまた沖に押し出して…また戻って。
それを繰り返して、やがて凪をむかえる。
そうして遺された者たちは生きていくのでしょう。