農福連携を通じて、メンタルヘルス対策を目指す
① はじめに
萩原(はぎわら)と申します。
2019年から、NPO法人 農スクール(社会に何らかの働きづらさを抱えている方や働きたいけど仕事がない方と、人手不足の農業をつなげる活動を行う)に参加し、メンバーとして活動しています。
2023年からはRegainという団体を起ち上げ、主に就労中のストレスで心の健康を失った人向けの活動も行っています。
私がなぜ、このような活動をしているか、過去の経緯からお話させてください。
② 激動の2012年
もう10年以上、前の話になりますが2012年の春、当時勤務していた証券会社を不本意ながら退職することになりました。
前年の夏に事業の立ち上げメンバーとして誘われ、入社してわずか8ヶ月でしたが、政治的な争いに巻き込まれてしまったのです。
2人の子供が中学校、小学校に進学するタイミングに合わせて住宅ローンを組み、賃貸アパートから引っ越した直後のタイミング。
その窮地を救ってくれたのが、新卒で入社した最初の会社で一緒に働いていた先輩でした。
先輩は転職した会社で部長を務めており、そのチームのNo2として声をかけてくれたのです。「こういうことになって私が転職先で頑張ってきた甲斐があったよ」と言われた時、自分がこれまで、いかに自分の損得のみを追いかけていたかを思い知りました。
自分の営業成績第一でやってきたそれまでと違い、チームのために最大限の力を振り絞り、成果を上げることができましたが、残念ながらその素晴らしいチームは長くは続きませんでした。
入社して半年後の10月。初旬に父が山で遭難して亡くなり悲しみに暮れる中、月末には、所属する部門の業務撤退方針が発表されたのです。
先輩を含む、部門のメンバーの半数以上が発表当日にチームを去る中、私はチームに残り、時間をかけて業務の整理縮小を担当することになりました。
③ 2018年、一新塾経由でコトモファームへ
この出来事を通じて、その会社で業務の整理縮小をやり遂げた後は、証券業とは別の道に進む決心をしました。とはいえ、金融業界しか知らない自分にどんな選択肢があるのか?
悩みながら2018年、大前研一氏が創設した、第二の人生を生きる社会人向けの社会起業・政策学校「一新塾」に入塾しました。
塾では、自分の志にそったテーマを決め、プロジェクトを起ち上げて活動します。
働きたいという意欲があっても、何らかの事情でその思いが押し潰されたり、さらには働く機会を失ってしまうこと。
その辛さを味わった自分の経験を、同じような境遇にある人に伝えることができないか?
また、自分が週末のサッカーでストレスを発散していたように、太陽の光を浴びながら体を動かすことは、ダメージを受けた心の健康を取り戻す効果があるのではないか?
そのような問題意識で調査する中、農福連携というキーワードを見つけました。そして「社会変革者の第一人者」として一新塾の講師を務めていた小島さんの取り組みを知ったのです。
④上級者コース(農起業コース)の参加により進路が定まる
「志を生きる人生を送る」小島さんの取り組みは様々ですが、私はまず、体験農園「コトモファーム」で野菜作りを楽しむところから始めました。
その後、素人ながら思い切って「上級者コース」にも参加しました。
「上級者コース」では野菜作りに必要な農学の基礎を座学でみっちり学びながら、農作業に必要な現場のスキルを体験しながら習得する、濃密な半年間を過ごしました。
また、私にとって貴重だったのは、様々な思いを胸に参加する同期生の存在でした。
同期の仲間と切磋琢磨しながら、自分の進路について、文字通り地に足をつけて思考することができました。その結果、小島さんが取り組む事業のうち、柱のひとつである「NPO法人 農スクール」への参加を申し入れて、農福連携の活動を開始しました。
そして翌2019年には証券会社を退職して福祉事業所に入社。精神・発達障害がある人の自立や就労の支援を始めました。
証券会社に勤務していた時には、ぼんやりとしか見えなかった自分の根っこにある思いを浮き彫りにし、最初は想像することもできなかったキャリアチェンジに踏み出すことができたこと。その転換点になったのは上級者コースでの半年間でした。
⑤2023年、Regainを起ち上げ
福祉事業所で実務経験を積みながら、農スクールの活動に参加する。
充実した日々を過ごす中で、自分が目指す最高の世界の実現にも真正面から挑戦したい。
対象になる層や、提供するサービスを広げ、質を高めることにより、農スクールの進化、深化に貢献したいと思うようになりました。
つまり、就農を目指すことがすぐには難しいような精神状態に陥っている人と一緒に打開策を考えること。
畑での農作業による心身の健康回復を確認しつつ、個別相談や、復職・転職支援などのバックアップを行うこと。
これらにより、利用者それぞれが就農に限らず、それぞれの目標に向かっていける場を作りたい。
その思いに対して、私の後に上級者コースを受講した田口さんの賛同、協力を得ることができました。そして小島さんからは、都度アドバイスをいただきながら、23年にRegainを立ち上げました。
Regainには、取り戻す・回復する・手に入れるなどの意味があり、社会人生活の過程で失ってきたもの(自信・自分らしさ・目標・健康など)を、ご自身の力でRegainできるよう応援したいという思いが込められています。
一緒に団体を立ち上げた田口さんの発案でつけた団体名です。
バブル期に流行ったキャッチコピー「24時間戦えますか?」でも有名な栄養ドリンク「リゲイン」と同じで猛烈社員のイメージじゃないですか?と田口さんに尋ねたところ、「若い世代は知りませんよ、大丈夫です」とのことでしたので、なるほどと思い、決めました。
団体が目指す「自分らしさを取り戻す」ことにマッチしたネーミングであり、気に入っています。
⑥今後の展開について
団体立ち上げ後には、23年の上級者コースに参加していた高柳さんにもジョインしてもらいました。現在は、主に就労中のストレスにより心の健康を失った人と一緒に、藤沢葛原の畑での野菜作りを行っています。
農スクールとの差別化を意識して活動する中で、農スクールとRegainを同じ組織内に並列させることにより、サービスを検討している方の選択肢を増やし、またサービス間の移動も容易になると感じる場面が増えました。
小島さんからも今後、農スクールとRegainがコラボしていく、というありがたいご提案をいただき、Regainの立ち上げメンバー3人とも、喜んで思いを新たにしています。
農と福祉の専門性を磨き続け、2つを掛け合わせることで、独自のサービスを作ること。
そして、農スクールやRegainの活動を、当事者ご本人は勿論、当事者の家族や勤務先の上司・経営層など、関係する方々にも広め、様々な立場での課題解決に向け尽力していくこと。
それが自分の天命だと考えています。