ポーランドとアシリパ
青い目を持つアシリパ。そのルーツはポーランドだった。ポーランドは国家間の争いに翻弄されて、一度国家が消滅した国だ。120年以上国が存在しなかったのに、再び国家としてまとまるなんて奇跡ではないか。ただ、それも長い冬を耐え忍んだポーランド人の努力ゆえなんだろう。
17世紀ごろ、ポーランドはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教など、周辺の宗教、文化が混在する国だった。ドイツとロシアに挟まれながらも、穀物取引によって莫大な富を得て領土を拡大した。しかしそれもずっとは続かず、貧富の差が拡大してしまった。ここでポーランドは道を間違える。内政を強化せず、戦争に力を入れてしまうのだ。そして混乱のうちに、ロシア、プロイセン、オーストリアから干渉を受け、1795年に消滅する。その後、1918年までポーランドという国は世界に存在しなかった。
ゴールデンカムイ作中で、ウィルクは土方に自身のルーツがポーランドにあることを打ち明けている。でも、そのときポーランドという国はない。彼の父親が生まれた頃からも存在しないのだ。それなのにウィルクはポーランドという言葉を使った。これがポーランドが再び独立できた大きな理由だと思う。
国家がなくなると、123年に渡り、幾度かの同化政策が行われた。ポーランド語を用いた書物は検閲され、ロシア領では反乱分子がシベリアへ流された。その最果てが樺太だ。ポーランド人は弾圧に耐え、数世代に渡って文化を継承し続けた。そして国を再興し、現在ポーランド語の話者は3800万人と言われる。これってすごいことじゃないか。
つまり、ポーランドは民族のアイデンティティを弾圧から守った先例なのだ。野田先生がアシリパにポーランドの血を注いだのは、その不屈の精神を彼女に持たせる意味合いと、後の世までアイヌ文化が続いてほしいという願いが込められているだと思う。