自慢の弟は一番最後 34話
ロッテとの、ファーストステージ
ホークスは...
ストレートで敗退
カランカラン
ベンチから自分の2本のバットと3つのグローブを持って、
ロッカーへと戻り、帰る準備を整える
悔しい気持ちを消費できないまま...
試合に出れなかった...
ミスをしてしまった...
反省点はいくつも浮かんでくる
だけど...
チームの力になれなかった...
それが何よりも悔しい
○○:...お願いします...
スタッフ:...おう
福岡に空路で送る荷物を預け...
福岡に帰るもの
帰国するもの
実家に帰るもの
選手、コーチ・スタッフ陣、
皆、悔しい思いを抱えながら、それぞれ帰る準備を進める
チームとしては、ここで解散となるから...
あやめ:あっ、いた
○○:...なんだよ
あやめ:ひどいなぁ~
久しぶりに会ったアイドルの幼馴染にそんなこと言うなんて
○○:うっせぇ...
あやめ:まぁいいや
ほら、おいで
○○:??
帰り支度を何とか済ませ帰ろうとしていると
知り合いが来ていると広報の言われた
VIP席に来てみれば…
そこにいたのは、アイドルになった幼馴染と…
さくら:ま、○○くん...
○○:えっ、あっ...お久しぶりです
さくらさん...
あやめ:今日、柚菜に誘われて見に来たんだよね
柚菜は今、セレモニー観てるけど...笑
○○:そうだったんだ...
ごめんなさい、試合に出れてなくて...
さくら:い、いえ...
あやめ:ほらさくちゃん、ちゃんと言わないと
○○:ん?なにを?
さくら:...ま、〇〇くん!
私...ず、ずっと、好き、でしたっ!
綺麗な肌を真っ赤に染めながら、俺の目を見て言ってくれた
あぁ…決心して言ってくれたんだなって、伝わってくる
○○:あっ、ありがとうございます...
あやめ:はぁ...この鈍感男
○○:えっ?
あやめ:ファンとしてじゃないよ?
○○:...あぁ...わかってたよ
あやめ:えっ?
○○:さくらさんと連絡先を交換して、連絡を取り合うようになって...
その言葉の端々から、感じていたので...
さくら:...
○○:すごく、嬉しかったです!
好きになってくれて、ありがとう
でも、ごめんなさい...
さくら:...うん、わかってた
○○君が想っている人は私じゃないって...
○○:そう、でしたか...
さくら:...だから、これは私の自己満足だったの
ごめんね
○○:...たぶん、さくらさんからの告白を断るなんて...
ほんと馬鹿野郎だと思うんですけど...
あやめ:そうね
○○:...支えたいと思った人がいるんです
だから...
さくら:そっか...
いつか、私にも会わせてほしいな
○○:えぇ、必ず!
さくら:...これからも...お友達で...いてくれる?
○○:もちろんです!
さくら:あり...がと...
あやめに後で聞いたけど...
元々さくらさんは告白するつもりはなく、諦めていたらしい
でも...
遠ざければ遠ざけるほど、苦しくなっていたらしく...
告白して振られれば、すっきりするんじゃないかと
って感じだったらしい...
人に好かれることは嬉しいことだけど...
断るのは、すごく申し訳なくなる
そんなこともあり、元気なく歩いていると...
○○父:よっ!
○○:おう...
○○父:なんだ、元気ないなぁ~笑
○○:...
父が迎えに来てくれていた
○○父:...攻めた結果、だろ?
○○:...うん
○○父:なら、後悔するな
失敗から学べよ
○○:うん...
○○父:昨日観に来れなかった俺が言えることじゃないけどな笑
○○:おいっ!来るって言ってたじゃんか!
○○父:仕事で呼び出されたんだよ...ごめんな
○○:...仕事ならしょうがないか...
パチンコだったらぶん殴ってたけど笑
○○父:おぉ...こわっ笑
親父としゃべったのはいつぶりだろう...
野球をずっとやらせてくれて、少年野球の時はコーチもやってくれた父
育成で選ばれたとき、和に次いで喜んでくれたのは父だった
「ドラ1を喰ってやれ!」なんて言われたっけ...
それからも、新聞やネットで俺の活躍を追ってくれて...
育成から上がった時は、泣いて喜んでくれていたらしい
俺のレプリカユニを何枚も買ってくれて、
色んな人に配ってくれていたって聞いた
ありがとう、と思うと同時に...
息子の事をここまで応援してくれたことがすごく嬉しかった
悔しいとしか思っていなかった心が、少しだけ溶けていく
○○父:...本当はな、和と母さんが迎えに来たがっていたんだけど...
お前と話したいことがあったからな...
○○:話したいこと?
○○父:あぁ...
野球の事じゃなくて、プライベートのことで
○○:....怖いんだけど
○○父:怖くないから笑
○○:その流れで、和と姉弟じゃないって言われたんだからなっ!
○○父:あの時は悪かったって...
○○:で、なに?
○○父:○○、お前決めたんだろ?
○○:...なんのこと?
○○父:はぐらかすなよ
運転しているから、俺の顔を見てはいないけれど...
真剣な眼差しが心を見抜いているような、そんな気がする
○○:...あぁ...
○○父:...そうか
○○:どう、思う?
○○父:...嬉しいかな
○○:そっか...
○○父:いつだ?
○○:...ほんとは勝ち上がって、帰ってからにしようと思ってたけど...
負けちゃったからな、格好がつかないや...
○○父:...いいんじゃないか?
○○:えっ?
○○父:和から聞いたよ
精神的にきつい時、○○が支えてくれたって
○○:...
○○父:お前はずっと、和の"ヒーロー"なんだよ
だから、お前からの言葉をずっと待ってるんじゃないかな
○○:...
○○父:俺も母さんも、ずっと味方だから
○○:...うん、ありがと
父親と息子...
覚悟を決めたことがあるものと、覚悟を決めようとしているもの
この関係値があったからこそ、成り立つ会話
でも...
こういうことが話せる関係でよかったと、心から思う
○○:ただいま~
○○母:おかえり!
ご飯できてるから、早く手洗ってきて!
○○:わかったよ笑
○○:よしっ、おまた...あれ?
美咲:あっ、お邪魔してま~す
○○:あっ、いいえ~
母さん、和は?
○○母:なんか食欲ないんだって
○○:...ちょっと見てくるわ
○○父:ふっ...
○○母:先食べてるわね~
ほら、美空ちゃんも咲月ちゃんも食べましょ?
美空:はいっ!
咲月:ありがとうございます!
コンコン
○○:和~、入ってもいい?
和:...
○○:入るぞ~
ガチャ
○○:和、ただい...
ギュ
○○:和?
和:...グスッ...おかえり
○○:どうした?そんなに泣いて...
和:...○○のせいだもん...
連絡は返さないし、帰ってくるの遅いし...
○○:ごめんって..
昨日はそんな余裕なかったんよ...
和:...うん、わかってた
でも、頼ってはほしかった
○○:ごめん、次からは気を付けるよ
和:うん...
ずっと泣いてたんだな...
顔に涙の跡が残っているし、目は腫れている
ごめんな...ごめん
勝って、もっといい景色を見せようと思ったのに...
○○:ねぇ...和
和:ん?
○○:...これからも俺を支えてくれる?
和:もちろんっ!
○○:じゃ、じゃあさ...
結婚、しよ?
和:えっ...
『えぇーーーー!!』
○○母:和~、近所迷惑になるから静かにね~
和:ご、ごめんなさ~い!
○○:ふふっ...
和:えっ、今結婚って言った!?
○○:うん、言った
和:...リングも渡されてないけど?
○○:それは...ごめん
福岡に帰ったら、渡すつもりだった
和:えっ...でも...
○○:ほんとはさ...
今日いい所見せて、勝って大阪行って、
そして勝って福岡に帰ってからって思ってたんだけど...
今の和の姿見たら、言いたくなっちゃった
和:...ほんとに、私で...いいの?
○○:うん、和じゃなきゃ、嫌だ
和:うぅ...○○~!!
ギュ
○○:ふふっ...
和:...○○!
私、超嬉しい!
○○:ふふっ、ならよかった
和:これからもよろしくね!
○○:おうっ!
それから、2人で手を繋いで食卓へ
○○母:あらあら、手繋いじゃって~
美空:ラブラブじゃん!笑
和:い、いいじゃん!別にっ!
○○父:○○...
○○:うん、父さん、母さん
俺、和と結婚します
美空:ブゥーー!
咲月:ちょっと!美空!
○○父:ふふっ
○○母:そういうことね笑
美空:えっ!!?
和:ほらぁ...
こんなにこぼして...
美空:和...
おめでとっ!!
和:ありがとうだけど、いいから拭きなさい笑
咲月:ちゃんと、言ったんだね
告白じゃなくてプロポーズだとは思わなかったけど...
○○:...ほんとは"勝って"言いたかったけどね
咲月:いいんじゃない?○○らしくて
○○:そうかな...
咲月:和を泣かせるようなことはしないでよ?
○○:わかってるよ
家族の在り方が変わっていく
今まで姉と弟という関係だった俺たち
でも...
"血が繋がっていない"
そう言われてから、和が悩んでいたことを知っていた
『家族ではなく、一緒に育ったからここにいる』と
和がずっと悩んでいたのを知っていたからこそ、考えていた
和の事は、ずっと好きだった
一緒に育った異性
気にならないわけがない
だから、結婚して"もう一度、家族になりたい"
俺の一生を捧げてまでも、ずっと一緒に居てほしい
そう、思った
交際期間0日婚
世間ではそういわれるんだろうけど...
俺たちの積み上げた時間は、比べ物にならないほど長いから...
特に気にしない
俺が、和のことを幸せにするんだ
試合に出て、活躍して誇ってもらえる人になるんだ
愛した人の自慢であるために...
そして...
○○:じゃあ...行くわ
○○父:おう、秋季キャンプも頑張れよ
○○:おう
咲月:浮かれてケガなんかしたら、承知しないからね!
○○:わかってるって笑
○○母:和、○○の事よろしくね!
和:うんっ!任せて!
○○母:うん、かわいい和の顔に戻った!
和、今しあわせ?
和:うんっ!
とっても幸せ!!
美空:...私、一本遅い便にしようかな...
和:美空ー!行くよー!
美空:...幸せで胃もたれしそう...
和:ただいま~!
○○:...
和:○○?
○○:...ん?あぁ、ただいま
和:おかえりっ!
なるべく早く帰ってこないように頑張ろ...
そう思っていたのに...
早々に帰ってきてしまった、悔しさ
でも...
それをかき消してくれるような和の笑顔
あぁ...
この人と結婚してよかったと、心から思う
あっ俺、和に好きっていったっけ?
和:...○○?
○○:和、大好きだよ
和:ふふっ、私も大好きだよ!!
この気持ちはちゃんと伝えていかなきゃね
伝えないで後悔するのだけは、嫌だから...
翌日...
美空:美空、こんなん初めてだから...
緊張する...
和:美空、それぜっっっったいに失敗できないからね!笑
美空:ふぇ~ん...
美空に証人になってもらい、婚姻届けを市役所に提出
俺たちは正式に夫婦になった
あっ、指輪はちゃんとやりましたよ
その時も和は大泣きしてくれたけどね...笑
チームもあれから、いろいろあった
まず、監督の退任
藤本監督が今シーズン限りで退任され...
小久保2軍監督が監督になることが発表された
戦力外通告も行われ...
チームを支えた数々の選手たちがチームを去ることになった
上林:○○、頑張れよ
○○:...グスッ
上林:泣くなよ、バカ笑
○○:頑張り...ます
上林:次会った時は、お前の所に打ち込んでやるからな
○○:ゴシゴシ...
絶対、捕りますっ!
上林:ふっ、生意気な後輩だ...
悲しいけれど...
これがプロ野球の世界
下を向いている時間はない
次会った時に、成長した姿を見せれるように...
小久保:○○!
○○:はいっ!
小久保:お前、この1年どうだった?
○○:...濃すぎましたね
小久保:満足はしてないだろうな?
○○:もちろんですっ!
もう、ミスで悔しい思いはしたくないです!
小久保:おう、ミスばっかしてたら使えないからな
○○:はいっ!
小久保:ってことで、お前は特別メニューやらせるから
○○:マジっすか!?
小久保:...そんなキラキラした目で見るな笑
みっちり鍛えてやるから、覚悟しろよ
○○:はいっ!!
小久保:...嬉しそうにしやがって...笑
もう、悔しい思いはしたくない...
支えてもらっている和の為にも、
期待してくれている小久保さんやみんなの為にも...
もっともっと、練習しないと...
来年、笑うために...
"1番、セカンド 井上○○!"
"背番号 69"
わっしょいわっしょい "○○"
わっしょいわっしょい ”○○”
行け!打て! "○○"熱くなれ!
"カキーーン"
『うわぁぁぁ!!!』
これからも続いていく、俺の物語
自分が頑張ったことが、
応援してくれている人たちの自慢であったなら...
指導してくれている人たちの自慢であったなら...
そして...
愛する和の自慢であったなら...
嬉しいな...
...fin
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