
言葉の鏡
『○○、ちょっとおいで』
「なーにー?おかあさん」
『人にはね、3つ言われて嬉しい言葉があるの』
「へぇー!なになにっ?」
『それはね...
"ありがとう"
"ごめんね"
"愛してる"
の3つよ』
「ありがとう、ごめんね、あいしてる...」
『そう...』
『○○は大事にしてね...』
なんか懐かしい夢を見た気がする
朝起きた時に目尻に溜まった涙が、それを物語る
母は....
今も健在
なんだけど...
もうあの頃の母の面影はどこかに迷い込んでしまった
それもそのはず
自分が愛を向けていたはずの父が、浮気をして出ていったのだ
○○:...うん、上手くできた
目玉焼きに具無しの味噌汁に白米...
決して贅沢とは言えない
だけど、朝食だけは欠かしたことがない
自分で弁当も作るし、母の分まで作っておいておく
スーパーのレジ打ちと工事現場の交通整理のバイトの掛け持ち
自分の身を粉にして働いてくれている母
家に帰ってくるのは、いつも太陽が顔を出そうとする直前
○○:母さん、いつもありがと
泥のように眠る母の背中に、
そっと感謝の言葉を張り付けて、
自分で作った朝食を口にする
○○:行ってきます
母と言葉を交わす、なんてのはもう数年やってない
同じ屋根の下に暮らしているはずなのに...
○○:バイト用のズボンも持ったし...
あっそうだ、今日給料日じゃん!
学校から直でアルバイトをしているコンビニへ向かえるよう準備をして、学校に向かう
ありがとうは、自分が相手にしてもらった時に使うし、
ごめんねは、自分が迷惑をかけた時に使う
でも...
愛してる、だけは人生で一回も使ったことがない
人を好きになるのは、なんか怖い...
自分は浮気をした父親の血も引いている
それが、恋愛に関わる全ての行動を拒否しているのだ
『おはよう、○○くん』
○○:おはよ~
クラスメイトと挨拶を交わす...
挨拶すると、女の子たちは顔を赤らめてどっか行っちゃう...
『じゃあここを...○○』
○○:はい、X=2√5です
『うん、正解』
先生に当てられて、問題の答えを答える
当てられたから答えたはずなのに、なぜか小さく拍手が起きる
授業を聞いていれば、わかるはずなんだけど...
□□:○○~、飯食べようぜ~
○○:いいよ、屋上?
□□:当たり前じゃんっ!
○○:おっけー
友達とのごくごく普通の日常の会話
青空の下
持ち寄った弁当を広げ、他愛のない会話を楽しむ
特に友達の恋愛話を聞いてるときが、一番面白い
価値観の違う二人が、どう惹かれあうのか
クラスの中での知ってる2人という客観的視点と、片方の主観が入った情景描写を、
自分の中でかき混ぜて情景を考えるのが、一番面白い
□□:○○はいないのかよ、気になる子とか!
××:そうそう!この前も女の子たちに聞かれたよ
○○:何を?
××:○○君のタイプ知ってる?って
○○:ふぅーん...パクパク
□□:...ほんと興味なさそうよな笑
○○:人を好きになったことないからねぇ...
××:…○○、俺と顔交換しねぇ?
□□:確かに、お前はそうしないと…笑
××:ゴリラみたいってか?
□□:うん笑
××:しばくぞ、マジ笑
□□:でも、わかる…
一回でいいからマジで、お前の顔になってみてぇ...
○○:そんな、アンパン○ンじゃないんだから笑
自分の考える恋愛の中に、自分の主観が入ることが考えられないんだよなぁ...
あくまで他人事だから、楽しいってだけ
こうして友達と他愛もない会話を繰り広げてから、
また授業の始まる教室へと戻っていく
と、ここまではいつもの昼休みなのだが...
今日は少しだけ違う
□□:...あれ?どうしたの?
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奈央:あ...そ、その...
屋上から教室へ戻ると、
うちのクラスの前に1年生と思われる子が、
右往左往してる
××:あっ、こいつ?笑
○○:んなわけ笑
部活の先輩じゃない?
奈央:///
□□:...いや、そうでもないっぽいぞ?笑
○○:えっ?マジ?
奈央:...コクッ
○○:おぉ...マジか
□□:ヒューー
××:ついに○○にも春が!
○○:うるさい、うるさい
かわいそうだろ、ごめんね~うるさいのが
奈央:い、いえ///
煩いにぎやかし達が周りに居るのは、かわいそうだから
無理やり教室に押し込んで、その子と向き合う
○○:ごめんごめん...
それでどうしたの?
奈央:あ、あの...こ、これを...
○○:ん?お手紙?
これは、僕宛でいいのかな?
奈央:コクッコクッ
○○:ふふっ、ありがとう
後で読ませてもらうね
奈央:は、はいっ!
○○:ふふっ、ほらもう授業始まるよ?
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奈央:...し、失礼しますっ!//
薄いピンク色の、可愛い便箋を手渡し走り去っていく
階段の踊り場の陰から見ていた彼女の友達であろう
4人の中に飛び込んで、『頑張ったじゃん』と言われている君
なんともかわいらしいし、微笑ましい
なんだろう
贅沢を言うなと言われてしまうかもしれないけれど、
告白されるのは何度か経験がある
その中でも、ちょっと印象がいいというか...
あの子に告白してもらったことに、喜びを覚えるような
そんな感じがした
□□:ラブレターもらってんじゃん笑
××:あの子、1年生のマドンナ的な存在の子の1人だよ?
廊下に繋がる窓に聞き耳立てていた友人たち
絶対茶化してくると思ったけど...してきたね
○○:ふ~ん...
□□:えっ!?あの子のこと知らないの!?
○○:......うん
××:うわぁ...マジかよ...笑
□□:こいつ、ほんとにち○ち○ついてんのか?笑
○○:ついてるわ、やかましい笑
知ってる...もちろん知ってるよ
笑顔が可愛くて優しくて、素直な女の子
廊下ですれ違う時は必ず挨拶してくれていたし、
なんなら印象が一番残っている女の子
すごく、いい意味で
自分の席は、窓側の一番後ろ
席替えだったら、倍率トップの超人気席
そんな席を偶然当てることができた自分は少しツイているのかもしれない
しかも今日、隣の子は体調不良でいない
眠たくなる日本史の授業中、昼休憩で受け取った手紙を読んでみる
綺麗なかわいらしい字で書かれていたのは...
自分への告白の言葉と彼女の連絡先が書かれていた
嬉しい....
人から好意を向けてもらえるのはすごく嬉しい
でもね...
○○:ごめん
連絡先を追加して、屋上に呼び出し、返事を伝える
伝えた言葉に涙してくれて、
それでも「お時間取らせてごめんなさい」なんて謝られた
なんて、素敵ないい子なんだよ...
そんな子はダメなんだ、自分なんかといたら...
君の純粋な告白は受け取れないんだ...
君が汚れてしまう可能性があるから...
だから俺は自分が嫌いで、自分に一番期待をしていない
ただ、これが良くない方に動き出す
次の日...
『○○くん!おはよ~』
○○:おはよ~
いつも通りの挨拶を済ませ、教室へ向かう
□□:今日も屋上な~
○○:うぃ
この日は特に何もなく、物事が進む
...はずだった
××:うぇい!いっちばーん!
○○:誰も張り合ってねぇよ笑
□□:へへっ、確かに.........ん?
○○:ん?どうした?
□□:...あれ、あそこにいるの...
××:昨日の子じゃん
○○:ほんとだ...
□□:...声かけづらいか?
○○:いや、ちょっと行ってくる
屋上に俺らが昼飯を持って上がるほど、今日は天気がいい
なのに...
○○:奈央ちゃん、どうしたの?
奈央:っ!?
そこにいた彼女は...
下に着ているキャミソールが透けるほど、制服が水浸し
綺麗に編み込まれたボブヘアは、
水を纏い制服に水分を足し続けている
とてもじゃないけど、マドンナなんて言われている姿には程遠い
なのに...
奈央:...ペコッ...ダッ
○○:あっ、ちょっと...
彼女は、俺を見たと思ったら、すぐに目の前からいなくなった
昨日と同じ...ではない
行動は一緒でも、抱えている想いが違う
□□:...止めておけばよかったか?
○○:...
分からない...
こういう時、自分はどういう行動をとれば良かったのか
××:...ちょっと、妹に聞いて来る
○○:えっ?
××:昨日、踊り場にいたろ?
あそこにうちの妹もいたのよ
あっ、もしもし茉央?あのさ...
××の妹に聞いてもらった
どうやら、2年生の女の先輩たちに連れていかれて戻って来たと思ったら...って感じらしい
その2年生...つまり俺らと同学年のやつには心当たりがある
前に告白してくれた、気がする
印象には残ってる
もちろん、悪い意味で
○○:いらっしゃいませー
制服のスラックスから、コンビニ指定の黒いスキニへ履き替え
制服を着て、コンビニのレジに立つ
○○:...いらっしゃいませ
客:...番
○○:...はい?
客:31!一回で聞けや!
○○:はぁ...
客:なんで1個なんだよ!
3個よこせ!3ってやってるのに気づかねぇのか!
○○:...すいやせーんボソッ
はぁ...胸糞わるっ...
コミュニケーションすら取れねぇ...
なんでこんなのが世に放たれるのか
○○:あざっしたー
"セッター"だ"マイセン"だ、昔の通称で呼ぶことをかっこいいなんて思っている若い人もいるし...
ニコチンの依存症かなぁ...
まぁ非喫煙者よりも税金を多く支払ってくれてるのだから、文句は言えねぇか...
コミュニケーションとは...
こちらから一方的に言葉を投げつける
だけでは決して成立しない
受け取った側が、どう咀嚼して自分の言葉で投げ返してくれるか
このキャッチボールが、コミュニケーション
そう、母に教わった
そこから察した
父親は"あれ"と同じように、母親に対して一方的だったんだなって
自分はそうはなりたくない...
胸糞悪い出来事が起きていつもならイライラするのに...
なぜか今日は、出てこない
頭に浮かんでくるのは、今日の屋上の情景
あの時、あの場で、どう動くのが正解だったのか
全身水を被ったあの子
目は充血していたし...
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ってなんであの子の事を考えてんだ、俺は...
自分がフったことで起きたことじゃないか...
いや、待てよ...
あぁはなりたくないって思っているのに...
その行動をとってしまっているんじゃないか...俺は...
あの子を想って断ったわけでも、
あの子の言葉を聞いて断ったわけでもない
ただただ、自分にかけた十字架だけで判断してるだけ
なぁんだ...
自分も父親や"あれ"と大差ないじゃん...
??:すみませーん
○○:あっ、すみません
レジ袋ご利用で...
??:あの...
ん?
顔をあげると、そこにいたのは...
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○○:あっ...菅原、さん
そこにいたのは、あの時踊り場に居た4人のうちの1人
委員会が一緒だから知ってる、数少ない顔見知りの後輩
咲月:○○さん、バイトあとどれぐらいで終わりですか?
○○:あと...30分ぐらいかな
咲月:...ちょっと話したいことがあるので、イートインで待ってますね
○○:あっ、うん...
時刻は22時を回るころ
親には塾だと言ってあるらしい、その子
コーヒーマシンの清掃を深夜に行うため、
急いで2人分のホットココアを入れ、
待ってくれている彼女の下へと向かう
○○:ごめん、お待たせ...
咲月:いえ...
すみません、バイト終わりに...
○○:ううん、全然
で、どうしたの?
普段の、知ってる明るい彼女はそこにはいない
俯き、しかも目が少し腫れているようにも見える
咲月:......奈央のことなんですけど...
○○:うん...
咲月:先輩の想いもあるのにこんなこと、私が言うことでもないんですけど...
あの子、ほんとに先輩の事が大好きで
○○:...
咲月:いっつも先輩の話をしてくるんです!
だから...私が告白してみたらって言っちゃったんです...
○○:...
咲月:...そしたら、フラれたって...
でも、顔はすごく晴れやかだったんです
だから、すこし安心してたのに...グスッ
○○:...
咲月:...なんで...好きって...想いを伝えただけ...なのに...
それが...広まってバカにされて...連れ出されて水かけられて...
この子も優しい心の持ち主なんだろうな...
人のために涙を流せるって綺麗だなって
事の詳細を聞いた
自分に告白してくれたことが、その日のうちに2年の先輩たちに広がったらしく...
そのことが気に入らない5人の2年生が奈央ちゃんを連れ出し、
旧校舎と新校舎の間の人の目の届かない所で、水をかけ汚い言葉を浴びせたらしい
水浸しのまま教室に戻り...
咲月ちゃんと茉央ちゃんに詳細を話し、着替えて家に帰ったとのこと
それを、涙ながらに話ししてくれた
○○:...菅原さん、ありがと教えてくれて
咲月:...私は...何も...できなかったから...
○○:ううん、そんなことないよ
咲月:先輩...奈央を...助けてあげて...ください
○○:うん、任せて
この時、今日自分が抱いていた想いの核が分かった
恋と言うには浅すぎるし、心配・苛立ちとはまた違う
でも、あの子のために...
という気持ちが核にあるのだと
勇気をもって行動した人が報われるためにも、
今、動かなければ意味がない
それから、毎日屋上にあの子が来るのを祈って足蹴く通った
でも......
あの子が現れることはなかった
『冨里さん、不登校だってねぇ~』
『ふふっ、あれくらい当然でしょ?』
『そりゃそうよ、1年だからって調子に乗ってねぇ~』
ある日の昼休憩、屋上で待っていた時に聞こえてきた言葉
下を見ると、そこには意地汚いやつらが5人
雁首揃えて歩いている
屋上に小石でも落ちていれば、全力で頭を狙っただろう
でも、そんなのあるわけがない
というより、あの子はそれを求めていない
そこから俺は急いで××の妹ちゃんから奈央ちゃんの家を聞き、
午後の授業をすっぽかし、彼女の家へと向かう
ここまで人のために全力になったのなんて、初めてだ
ここまでの自分の行動力
原動力は彼女だ
ピンポーン
『......』
○○:...出てくれないかな...
ピンポーン
『......』
○○:.…..
2回インターホンを押した
でも、押しても出てくれはしない
それもそっか
ド平日の真昼間
セールスか何かと思われたのかもしれない
時間を改めてくるしかないか...
と思ったその時...
『......はい』
○○:な、奈央ちゃん!
『......えっ!?せ、先輩っ!?』
か細く弱弱しい声が、インターホンから響く
かと思ったら、いきなりブチッと切られて...
ガチャ
奈央:...先輩...なんで...
○○:よかった...少しは元気そう...
奈央:...あがります?
○○:うん、いいかな?
奈央:…はい
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髪の毛はぼさぼさだし...
目の下の隈も結構ひどい
なんか見た感じやつれた感じするし...
なにも分からないまま、彼女の部屋へと案内してくれた
奈央:...これ良ければ...
すみません...お茶ぐらいしかなくて...
○○:あぁ...何もしなくていいのに....
奈央:いえ...そんなわけにも...
○○:ふふっ、じゃあいただくね
奈央:はい!
彼女の部屋に入って、自分と彼女の間にあるのは小さな机のみ
少しばかりの沈黙が、場の空気を少しずつ緊張させていく
中々本題を切り出せずにいると…
奈央:あ...あの...せ、先輩はなんで...
○○:ここに来たのかって?
奈央:コクコクッ
沈黙に堪えかねたのか、彼女の方から聞いてくれた
○○:...屋上で会った時の、君が忘れらなかった
奈央:...えっ?
○○:あの日、自分で自分の事を責めたんだ
もっとできること、かけてあげられる言葉があったんじゃないかって
奈央:...
○○:咲月ちゃんに教えてもらったよ
奈央ちゃんがされたこと
奈央:...咲月が…
○○:うん、涙ながらに話をしてくれた
奈央:…
○○:ほんとに、ごめん
奈央:せ、先輩が頭を下げることじゃ…
○○:…謝ってどうにかなるものじゃないけど…
ずっと、後悔してる
奈央:...
○○:そしてもう一つ...
君の告白を断ったこと...
奈央:えっ...
○○:正直に言うよ
断ってしまったことを、後悔している
奈央:...なんで...ですか?
そんな...たかが、後輩の1人である私の事なんて...
○○:...告白を受けるのは、何回か経験があるんだ
奈央:...
○○:でもね...
告白をされて、嬉しいって感情が湧いたのは初めてだったんだ
奈央:っ!?
○○:みんなさ、やれ顔がいいだ・イケメンだなんて言ってくれるけどさ...
自分とちゃんと会話をしようとしてくれたことなんて、一回もなくて...
奈央:...
○○:でも、奈央ちゃんは違った
廊下で会えば挨拶をしてくれるし、ちゃんと話もしてくれる
奈央:...
○○:告白の手紙の中身も、すごく嬉しい言葉が並んでいたの
すごく嬉しかったんだよ?
奈央:...
○○:だからこそ、自分を責めた
父親が原因とは言え、食わず嫌いで恋愛というものから逃げ、
向けてもらった好意を、十字架だけで断っていたことを...
奈央:...
○○:...ごめん
こんなこと、急に言われても困るよな...
奈央:...先輩
○○:ん?
奈央:私は、○○先輩の事が好きです...
告白した時よりももっと、大好きです!
○○:...う、うん...
奈央:先輩が弱さを見せてくれたこと...
なんか、ちょっとだけ嬉しいです
○○:...
奈央:自分の弱い所をさらけ出せるのって、
信頼してないとできないと思うから...
○○:...そう、かな...
奈央:はいっ!
私は何度でもいいますっ!先輩のそういうところが大好きです!
○○:...奈央ちゃんを励ますつもりで来たのに...
俺の方が励ましてもらっちゃってるじゃん...
奈央:...正直、もう人を信じるのが怖いです...
勇気を出したことを笑われて、言葉が心にグサグサ刺さって抜けなくて...
○○:...
奈央:それでも!
先輩の姿を見てると、可愛く見てほしい...好きになってほしい...
って思えて、心が勝手に踊るんです
○○:奈央ちゃん...
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奈央:私じゃ...だめ...ですか?
言葉で、表情で、態度で...
心がぐわんぐわんと揺さぶられる
○○:...俺は片親家庭だから、放課後はバイトに明け暮れてしまうよ?
奈央:大丈夫です!
あっ!でもたまの休みは私と過ごしてください!
○○:恋愛なんてしたことないから、理想の恋愛からは遠いかもだよ?
奈央:2人で過ごせるなら、問題ないです!
これから作って行ければ、それでいいです!
○○:負担掛けることも...
奈央:先輩っ!
○○:...
奈央:奈央は、先輩といれるなら、それだけで幸せです
2人の形なんて、一緒に作っていければ、それ以上に嬉しいことはないんですっ!
綺麗な瞳が、まっすぐにこちらを捉えて離さない
綺麗な言葉が、制限がかかっていた心を握って、カギを一つづつ壊していく
もう、わかってるんだ...
原動力があなただったこと
それが、恋ってことだって
俺が、奈央ちゃんの事を好きになってるんだって...
奈央ちゃんの最後の言葉で、自分の心のカギが全て壊れた時
勝手に口から言葉が出ていた
○○:...奈央ちゃん...いや、冨里奈央さん
僕と...付き合ってくれませんか?
差し出した左手は、恥ずかしながらぶるぶると震えていた
でも、その震えも一瞬で止まった
奈央:っ!!?...グスッ
はいっ!!!!
彼女の小さく細く綺麗な手が、包み込んでくれたから
撃ち抜いて終わらせるのは、鋭い言葉を刺した時
心に毛布を掛けてあげるのは、優しい言葉をかけた時
どちらも共通して『言葉』を使うんだけど、
使い方で人を幸せにも、不幸にもできる
自分には1ミリも期待していなかったのに、
彼女の言葉で少しだけ、期待できるようになった
俺は、ね...
でも...
問題は、それだけじゃない
今、学校に行ってもしんどいのは、彼女と彼女の友達だけ
気持ちを伝えあい、カップルとなった2人
念願、のはずなのに顔は少し暗い
奈央:...
○○:学校は...まだ怖い?
奈央:コクッ
○○:そう、だよな...
奈央:でも...
先輩と一緒なら、なんとか...
作り笑顔も作り笑顔
あなたが無理することないの
俺が居場所をちゃんと作るから
○○:ふふっ、今は無理しないこと
奈央:でも...
○○:バイトがない放課後は通うし、毎日電話もする
奈央:先輩...
○○:あと、あの子たちとはちゃんと話をしてくるから
奈央:...
○○:大丈夫、奈央ちゃんがいてくれるんでしょ?
なら、あの子たちに嫌われようが何されようが痛くもかゆくもない
奈央:...グスッ
お願い…します…
ヨーロッパで生まれた犬と、日本で生まれた犬
その2匹の犬が交流する時、互いに互いを理解できるのだろうか
日本で生まれた猫とアメリカで生まれた猫を同じゲージに入れた時、
言葉で威嚇しあったり、罵ったりすることはあるのかな
同じ"鳴き声"でも、地域によって意味が違うのかもしれない
でも…
知ることはできない、もちろん
俺らは犬じゃないし、猫じゃない
これは人同士でも言えるのかもしれない
家庭環境、友人関係等々...
同じ"人間"でも、育った環境が違うからこそ分かり合えない
だからこそ、コミュニケーションが重要
一方的ではなく、相互関係で、ね
○○:あのさ...
俺、君たちがいじめてる冨里さんと付き合うことにしたから
奈央ちゃんと付き合うことになった次の日
5人の中で、告白してくれたやつを屋上に呼び出した
周りは、「ついに!」とかなんとか騒いでいたけれど…
内心ははらわたが煮えくり返るほど、キレていた
表情には、出さないけどね
『...なんでよ...なんで私じゃなくてあんなのなのよっ!!』
淡い期待が、絶望に変わる時
表情が明らかに変わる
人間っていうのは面白いもので、
自分の思い通りにならなかった時、
動揺し言動・行動が鋭くなる
○○:...そういうところ、変わらないね
『...ふざけるな...ふざんじゃないよっ!!』
○○:だまれよ、クズ
『っ!?』
語気が強くなってしまった…
感情型じゃなかったはずなのに
でも、これが自分自身なのかもしれない
期待していなかった自分に少しだけ、
期待をしてしまう
○○:...じゃあ、そういうことだから
ごめんなさいが言えない人と、仲良くする気なんて毛頭ないから
他の動物にはない『言葉』という声帯を巧みに使い、
音に意味を持たせ、コミュニケーションをとるという…
多彩な言語ツールを日々使う自分たち
しかも...
"日本語"という局所的にしか使われない言語ツール
"日本語"には、歴史があって由緒正しく趣がある
そんな言語ツールを使うものとして...
正しい言葉を使い続けていきたい
発する言葉は、相手を想った言葉を発したい
と、そう思う
いくらグローバル化が叫ばれようが、多様性を押し付けられようが
たぶん変えるつもりないし、変わらない
奈央:先輩!おはようございますっ!
○○:おはよ、奈央
奈央:えへへ///
○○:奈央?
こっち向いて?
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奈央:......ふぇっ!!?
屋上でご飯を食べることが気持ちよかった季節は、
もうすでに流れ去っている
俺は、好きという感情を知ってしまってから、
抑えられなくなっているらしい
白い息を吐きながらの登校中
周りに人がいようといまいとお構いなく、唇を重ねに行く
この時の彼女の反応が可愛いんだ…これが
時間はかかった
メンタルの修復なんて、ただの休みでは戻ることはない
それでも、2人で乗り越えた
その時間は苦痛でもあり、しんどくもあり、
楽しくもあり、相手を理解する時間でもあった
人は独りでは生きていけない
人は必ず誰かの世話になって成長し、
誰かと話すことで言葉を覚え、
社会というものを学んでいく
当たり前の事のようだけれど、
生きることはとても難しくて、簡単じゃない
呼吸をして、心臓を動かして...
だけで生きられないのが、人間
なら、自分と関わってくれる人には幸せであってほしい
そう願わせてほしい
そう、思わせてくれた君だから...
○○:奈央、愛してるよ
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初めて使う言葉にこれだけ感情がこもったのは、
おそらくはじめてだ
...fin